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5-tune 四神獣達のカウントアップ  作者: 黒機鶴太
2-tune
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十一の一 新しい朝が来た。希望の……

 夜は長いようで短かった。空は白みだしたけど、小鳥はまだ鳴かない。俺は小学校の校舎の陰から、ふわふわと校庭にでる。

 朝礼台の上には、暗い校庭を見わたすようにカラスが一羽とまっていた。ドーンだ。俺に気づき振り向く。


「なんだ哲人か。……思玲は?」

「プールに行ったよ。体を清めるだってさ」


「カカ……」と力なく笑う。「俺は気にならなかったけど、今の川田は鼻がきくからキツかったかもな」


 そんな冗談は楽しくもない。あの夜を終えたばかりの朝なのだから。希望もない朝を迎えただけだから。

 思いかえしたくもないけど。



  *******



 全員がそろい小学校の片隅を隠れ家と選んだあとも、誰もが口数は少なかった。やがて思玲が中庭の狭い夜空を見上げる。


――包み隠さず言う。覚悟してくれ


 思玲はその言葉とおりに話した。あと一日ちょっとで俺達の誰かが餌を求めだすことを。それを手始めにみなが飢えにさいなむことを。ドブネズミでも見つけようものならば奪いあって食べ、人としての心が消滅することを。


――おどかすなよ。それまでに師傅さんが来ればいいのだろ? はやく呼べよ


 ドーンの問いに、思玲はまた空を見上げる。じきに俺達に顔を戻す。


――お前達を救うために来られるとは思えない


 思玲は続ける。多くの四神くずれが楊偉天達により殺されたと。同じように劉師傅により消されたと。人の心が残っていようが、人の目にさらされた忌むべき異形として処分されたと。

 そして彼女も俺達を殺すためにこの国に来たと。


――そんな話があるか!


 川田が吠える。どうすればいいんだよと、俺に顔を向ける。


――まだ一日以上ある。みんなで考えよう


――松本君は生きのびるのだよね。そんな人の話なんか聞いていられないよ


 俺の弱弱しい返答を横根がさえぎる。彼女は思玲の両手に爪痕を残し、抱えられて戻ってきた。


――松本君にも青龍がちょっとだけ入っているし。もしかしたら、まっさきにおなかを減らすかも


 桜井らしきインコが場の空気を変えようとする。みんなの顔色だけが変わる。


――桜井、笑うなよ


 俺はさきんじて彼女をとがめる。インコである桜井は裏切られたような顔になる。


――松本君までそう言うの? 私だってつらいよ。みんな私のせいだし。龍になるまで、みんなに謝って過ごせと言うの!


 小鳥が泣きだす。涙はでない。インコであろうが、俺はおろおろとする。


――な、泣かないでよ。私はそんなつもりで言ったのではないよ。夏奈ちゃんのせいなんて思ってないよ、絶対に


 白猫まで泣きだした。狼の遠吠えが中庭に響く。みんなを見わたす。


――月が沈みかけようと吠えたくなるさ。俺だって泣きたいのを我慢しているだけだ。松本だって、ドーンだってそうだろ?


――涙なんかいらねーし

 カラスがきっぱりとくちばしを開く。

――泣いている暇はない。俺は待っている人がいるから人間に戻る。瑞希ちゃんだって猫のままでなく、人に戻って笑いながら家族と会えよ


――ドーン。その言いかたはよくないぜ。泣きたいだけ泣いて、そこから始まることもある。中学のときの監督にそう聞いた。高校で実際にそうだった


――スポーツと違うんだよ。これはメダルがあと数枚の、マジで追いつめられた状況だ


――お前こそギャンブルと一緒にするな


 川田とドーンがにらみあう。


――今回は犬になったりカラスになったり、インコになったりとイレギュラーな展開だろ。このあとの展開も台湾と違うかもしれない


 俺は緊迫した空気を消すために、思い浮かべていた希望的観測を口にだす。


――そしたら私だけ人でなくなるというの!


 横根が即座に目をつりあげる。


――松本君がそんなつもりで言うはずない


 小鳥が白猫の前へと浮かぶ。横根は目をそむけ、すぐににらみ返す。


――そうやってあなたは、その人の肩をもっていればいいよね。二人とも青龍なんだから


――なんでまた桜井と瑞希ちゃんの争いを見なければならない

 川田が切なげにつぶやく。そして、

――ドーン、さっきの言葉は悪かった。俺はお前をあてにしている。……思玲、俺達はどうすればいいんだ


 狼が女魔道士に目を向ける。彼女は真実を告げおえると、目をつぶり黙ったままだった。


――正直に答えろと言うのか?

――教えてくれ

――知りたくない!


 川田と横根の声が重なる。


――思玲さん

 桜井が小さなくちばしをひろげ、

――私は聞きたいです。先輩の苦しみだって知りたいです


 思玲がはっとした顔を小鳥に向ける。沈黙が一瞬だけ流れる。


――台湾の魔道士がしたこととは言え、私の責任だとは思っていない。だが最後まで見届けてやる。それだけしか言えない


――ほら、やっぱり聞かなければよかった。思玲があきらめているのに、どうすればいいの!


 横根が校舎の奥へと駆けていく。思玲だけが追いかける。俺達は黙ったままだ。電線に電気が通うかすかな音が耳ざわりなだけだった。


 しばらくして思玲が戻ってくる。白猫は彼女の腕の中で寝息をたてていた。


――瑞希をせめるではないぞ。こいつは自分でまいた種だとしても散々な目にあってきた。平常でいられるわけがない


――また術をかけやがったな! もう許さない


――ならば噛むがいい


 思玲が片手を川田に突きだす。狼は牙をむいたまま尻ごみする。


――逆ギレかよ


――私も疲れはてた。すこしだけ休ませてくれ


 ドーンの聞こえよがしのつぶやきを無視して、思玲は横根を抱いたまま闇へと向かう。


――私も行きます


 桜井が追いかける。男三人が残される。


――ドーン、うまい手はあるか?

――あるはずねーし。哲人は?

――考えよう。みんなで


 誰の頭にも思い浮かぶものなどあるはずない。ほとんど黙りこくったまま、気づけばみんな散りぢりに自分の居場所に去っていった。





次回「大空あおげるかよ。ラジオなんかねーし。風よどんでるし」

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