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5-tune 四神獣達のカウントアップ  作者: 黒機鶴太
1.5-tune
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十の三 暴露

「どういう意味?」横根が怯えた声をだす。


 俺の背筋がすっと冷たくなる。桜井、それ以上は言わないでくれ。


「あと二日……あと一日半ぐらいしか時間がないこと。それを過ぎると野犬みたいになって、私達は人ではなくなるんだよね? 松本君が思っているみたく、まだ一日半もあるって、私は頑張る。必ずみんなで帰ってやる!」


 桜井に悪意のかけらもあるはずない。一年生の春からこういう奴だ。

 自転車が車道を通りすぎる。俺達になど気づきもしない。


「もうじき本当の猫になるの? それとも化け猫?」


 横根がすがるように俺を見つめる。どんな言葉を返せばいいんだ?


「瑞希ちゃん、ちょっとごめん」

 小鳥が俺へと戻ってくる。声をひそめ「彼女なんで知らないの? しかもなんか来るし」


 遠くに人影が現れる。大きな犬を引き連れている。桜井の安堵を感じる。


「正門にまで気配が届いたぞ。感情まるだし喧嘩か?」

 思玲のあきれた声がした。


「でかカラスを倒したって本当かよ。しかも俺らが気絶しているあいだに」

 ドーンの虚勢も聞こえる。


「松本、瑞希ちゃん、大丈夫か?」

 川田の真摯なうなり声も。


「口を閉じろ」

 ふたつ離れた街灯の下で思玲達が立ちどまる。

「この気はなんだ。哲人、なにがいる?」


「夏奈ちゃんがいます」横根が素気なく答える。


「なんだと!」

 川田が、思玲を引きずりそうな勢いでリードを引っぱる。


「急に動くなよ。落ちかけたぞ」

 ドーンがぼやく。「夏奈ちゃんはやっぱドラゴンかよ? それかトカゲかよ?」


 街灯に照らされた女魔道士と狼の背に乗ったカラス。それを見る桜井は愉快そうだ。


「川田君、マジで狼なんだ! ははは、和戸君ヤバっ。私よりずっとヤバくね、ははは」

「再開を喜ぶ時間なんてないよ」

 横根がみんなをさえぎる。「私は今から大宮まで帰る。一日半あれば猫でも着けるかも。……たどり着けなくてもいいや」


 白猫はそのまま歩きだす。川田達をすり抜けようとして、思玲に首根っこを持ちあげられる。


「同じ境遇の者同士のいさかいは見たくないと言ったよな。……しかし、この気配はあいつ以上でないか」


 白猫は爪をだして暴れるが、思玲は気にもとめない。


「思玲さん、さっきはどうも」

 桜井が浮かびあがる。小鳥と化した姿を露わにする。

「松本君が思っていたように強いタイプですね。あっ、ぜんぜん悪い意味ではないっすよ。ないですけど、その持ちかたはないと思います」


 桜井は怒っている。気配で分かる。


「な、なんだ、こいつは」

 思玲が茫然と口を開ける。それぞれの手から白猫とリードが落ちる。

「これが青龍へと選ばれし資質か。こんなもの、私の手に負えぬ。どうやって匿えと言うのだ」


 川田が横根に駆けよる。その背からドーンが跳ねおりる。


「私なんか気にする時間はないよ」

 横根は狼を見上げもしない。


「哲人。瑞希に話したのではあるまいな?」


「私が言っちゃいました。みんな知っていると思ったから」

 桜井が思玲に答える。

「松本君は、隠していることさえ隠していたんだね」


 彼女は俺にも怒っている。その気配だけで分かる。それに、たしかに隠していた。言葉の端からすらこぼれないように。


「あなたは今知っただけだよ。ぜんぜん悪くないよ」

 白猫がまた歩きだす。

「私は忙しいから細かいことはあの人達に聞いて。……心があるうちに、お姉ちゃん達に会いたいから」

 そして走りだす。


「瑞希ちゃん待てよ。……なにを知ったんだ? あんな瑞希ちゃん、ひさしぶりだぞ」

 狼が、俺と思玲と横根に目を行き来させる。


「それより追うぞ。あとで説明しろよな」

 ドーンが川田の背にくちばしも使って這いあがろうとする。


「お前なんか邪魔なだけだ。でも一緒に来てくれ」


 川田が腰をおろす。立ちあがり、俺に目を向ける。背を向けて走りだす。

 オートバイがカラスを乗せた狼とすれ違いハンドルが揺れる。どちらもなにもなかったように駆けていく。


「戻ったら教えてやるさ。なにもかもな」

 思玲がつぶやく。「だが私も行くぞ。お前達だけにはしない」


 彼女もあとを追う。俺と桜井だけが取り残される。遠くの車の音さえかすかな闇とともに残される。

 小鳥がまた肩に乗る。


「私達も行くべきだって」


 人の姿をした桜井が俺の肩に手を乗せて、俺の目を覗きこむ。

 幻を相手に俺はうなずく。みんなに伝える時間なんてなかったと、言い訳だけを考えながら。

 今は何時だろう。妖怪になっても時間が気にかかる。でも感覚で、どれくらい時が経ったかぐらいは分かる。

 夜はまだまだ明けそうにない。





次章「2-tune」

次回「ミツアシたるミカヅキ」

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