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5-tune 四神獣達のカウントアップ  作者: 黒機鶴太
4.4-tune
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四十三の二 圧倒的式神

「悪かったじゃんね。羽根が燃えて飛べなかった」

 ドーンが木札をくわえて俺の頭に戻る。雷型の護符はこいつのものになったようだ。

「これ邪魔。哲人が持っていろよ」


「どなたか知らないけどありがとうございます」

 風軍も復活する。

「でも疲れているし眠いからこのままで休ませてね」


 ハトみたいなワシは川田の頭に着地する。


「俺は馬じゃないぜ。……さっき乗せてもらったしな」


 手負いの獣はぼやきながらも受けいれる。人の心があったときの川田を思いだしてしまう。


「て言うか、どこを目指すの?」


 ドーンが頭上で聞いてくる。

 俺は空を見上げる。真っ暗なだけで雷雨の兆しなど見あたらない。


「川田は逃げた獣人の気配は追える?」


 俺の問いに、狼は残忍に笑う。


「ばらけて逃げようが、俺には意味ないぜ」

 狩りへの期待があふれていやがる。

「朝になろうが追いつめてやる」


 それだとかかりすぎだ。でも風軍が回復するまではそれしか道はない。そもそも追撃モードの風軍には二度と乗りたくない。


「いまの時刻は分かる?」

 猫に戻った露泥無にダメもとで聞く。


「僕は新月の夜には空気を読める。人の時間で十時ぐらいだろう」

 黒猫が得意げにひげを立たせる。


 夜半である深夜零時まであと二時間か。夏奈が現れる時間。それと九郎が戻ってくる時間(確約してなかったが)。


「松本、のろいぞ」


 川田はすでに歩きはじめていた。横根と露泥無が追いかける。俺は護布を肩に結び、ふわりと浮かんで後に続く。ドーンが頭でバランスを取る。


 ***


 俺がしんがりを行く。

 意識しないと浮けない体。真っ暗な林。たまに見える空には星が見えるほどだ。夏奈はまだ来ない。奴らを出し抜くのは失敗したけど急ぐしかない。ドロシーも囚われのままだ。


「わあ!」

 目のまえの黒猫が跳ねあがる。

「大姐からだ。――露泥無です。全員合流しました。大タカは空高く飛ぼうがターゲットから離れないので、本来の場所近くで、はい、長話はしません。……はい、まだ鴉さえも死んでいません」


 どういう伝達手段か知らないが、黒猫が空へと話しだす。


「逃げられたのですか! いえいえ非難などしていません。……はい。……いえ、松本は破邪の法具を手にしました。もはや異形としては使い物になりませんが、力は、は、はい、承知しました」

 黒猫が振りかえり、役立たずらしき異形の俺を見あげる。

「使い魔や獣人が従うのをその目で確認して、藤川匠は大魔導師の転生と判断なされた。逃げたサキトガは後回しで、そいつの討伐に向かうとのことだ。だが林の中では殲は使いづらい。だから川田と松本を特別に式神として使ってやると仰せだ」


 言い分は気にいらないが、つまり沈大姐とともに藤川匠のもとへ向かえるという訳だ。願ってもない。


「俺も行くぜ」

 ドーンが上空から降りてきた。

「て言うか、俺と瑞希ちゃんだけこんな山の中にいられねーし」


 白猫も首を縦に振る。たしかに俺達が死んだら、二人とも完全な異形になるのを待つだけだ。


「僕も一緒だけどね」

 黒猫が白猫を見つめる。

「楊偉天達もこの地にいる。闇と化せる僕が君達をかくまう。いざとなれば風軍に乗って逃げる。ついでに四玉の箱もリュックも守っておこう。松本も身軽になれるだろ」


 横根がいなければ、彼女の祈りに頼らないで済む。……やっぱり不安だ。箱とリュックが露泥無……。それも不安だ。などと躊躇していたら、樹木達が無数に倒れる。木霊達が恨みの声をだし、すぐに怯えだす。


ブワブワブワブアサッ


 隕石が落ちたような地に、巨大な翼竜が姿を現す。……風軍の倍以上ある。俺の実家よりでかい。


「松本と手負いの獣、乗れ」


 殲の頭上から大姐の声がした。いきなりすぎる。


「また空からだぜ」


 川田が尻尾を振りながら、翼竜の巨体を駆けあがる。風軍がしがみついたままだけど狼は振り払わない。

 俺もふわっと浮かぶ。横根が背中に飛びつく。振り払えるはずがない。


「俺も連れてってくださいよ」


 ドーンが露泥無の案に従うはずない。すでに沈大姐の前でホバリングしていた。俺もたたずむ殲に着地する。鱗が野球のベースぐらいあってつるつるだ。

 沈大姐は二胡だけを持っていた。


「わ、私も行きます」横根が翼竜に飛び降りる。


 大姐が二人をじろりとにらむ。二胡を持たぬ手の中指と人差し指を突きださせる。赤い閃光が二たび飛びでる。


「猫は合格だ」沈が言う。「だが鴉は死にに行くだけだ」


 彼女が飛ばした光を、横根は軽やかに避けた。でもドーンは直撃を受けて地面へと落下した。

 俺は沈をにらむ。川田が俺の横にはべる。うなり声がもれる。


「さすがに無理じゃね? 俺、めっちゃ近かったし」

 迦楼羅が舞いあがってきた。

「て言うか、こいつも連れていくのだろ?」

 黒猫の首根っこをつかんでいた。


「その姿でも危うい」

 沈は怒りに満ちた俺など一瞥もしない。

「だが、その傷でたいした精神力だ。お前も乗れ」


 そして沈栄桂が二胡を奏でる。……この切なげなメロディーは祈りだ。ドーンの傷が治っていく。


「殲、飛べ」


 大姐の命令に、翼竜が羽根をひろげる。

 俺達はまた空にでる。風軍が川田の頭であくびをして、また眠たげに目をつむる。





次回「夜空から襲撃」

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