表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5-tune 四神獣達のカウントアップ  作者: 黒機鶴太
4.2-tune
203/437

三十九の四 再会して修羅場

『フロレ・エスタスの登場まで、あと四十二秒』

 サキトガの誘う声。

『怖いのが現れるまで、あと三百秒ぐらい』


 怖いのとは沈大姐? あの人が来れば俺達は救われる。だが、わざわざそれを俺へと伝えるはずない。


『悩みな』


 悩まない。フロレなんたらなんかでなく、夏奈が来るまで三十三秒。


「ドロシー、光だ」

 七葉扇から放たれるドロシーの灯し火は、巨大すぎて魔除けになる。ドロシーが俺の目を見つめる。


「だったら、あなたからもキスをして」

 目をつむる。なんて奴だ。


 四方を雷が照らして、ドロシーはすぐに目を開ける。……夏奈は彼女へとお怒りだ。あと二十六秒。


『無茶苦茶女のせいで早まった』

 サキトガが緊張した。

『フロレ・エスタス。俺もいるからな! 覚えいているだろ、俺は仲間だからな!』


 上空の暗雲から龍が顔を覗かせる。



 雷雲を避け、風軍が低く飛ぶ。生まれ育った盆地が眼下にひろがる。


「お、お、おおきすぎる……」


 ドロシーが俺にしがみつき固まる。龍は俺達を目で追っている。


「夏奈……。迎えにきたよ」がんばって声かける。


 龍が俺達へと口を開ける。咆哮が響きわたる。大ワシごと吹き飛ばされる。握っていた羽毛がむしれて空に浮かぶ。

 ドロシーと体が離れる。


「照らせ!」

 落下しながら、ドロシーが光弾を放つ。


『ギヒッ』

 彼女を襲おうとしたサキトガに直撃する。


「ドロシーちゃん!」


 風軍が巨体に似合わぬ切り返しを見せて、彼女を足でキャッチする。上空へと消える。……俺は?

 盆地の夜景が近づいてくる。死ぬぞ……。

 シャツがなにかに引っかかり、破れ、またなにかに引っかかる。俺ははるかな上空に宙ぶらりんになる。

 爪先にかかった俺を、龍が顔のまえへと持ちあげる。感情なき目で俺を見る。


――たくみ君のところへ一緒に行くよね?


 夏奈の声が心に伝わる。不機嫌なときの夏奈だ……。大ワシが飛んでくる。はるかな上空、片手だけでその足をつかみながら、ドロシーが龍へと扇を振るう。


「滅べ」


 龍の鱗はたやすく弾く。龍が空を見上げる……。雷を呼ばれる!


「夏奈、やめろ……」声をしぼりだす。


 でも空がうずきだした。……巨大な蜂すら一撃で裂かれた。風軍が逃げられるはずがない。


『だから俺も空にいるんだよ! 匠様の配下ナンバー2だったサキトガだ!』

 妖魔が姿を現した。

『お前はナンバー3。で、そいつはロタマモの仇だ。はやく食べて完全なる龍になれ。あれが来るまで二百二十一秒だ。来てからでは遅い。残り時間は百五十秒』


 沈栄桂ならば、完全でない龍を倒せるのだろうか? 龍が俺を頭に乗せる。


『……何百年たとうが、あいかわらず利かん気の強い奴だな』

 サキトガが憎々しげに言う。


「哲人さーん!」ドロシーの声が聞こえた。「やっぱり、さん付けで呼びたい」


 彼女は修羅場であっても俺しか見ない。大ワシがまた飛んでくる。扇をくわえてワシの爪に乗るドロシーが、俺へと手を伸ばす――。

 その手に触れれば、夏奈と二度と会えなくなる。


「逃げろ!」


 俺は手を引っこめる。風軍が龍とすれ違うように飛ぶ。なのに、ドロシーが俺の横へと飛び降りやがった……。龍が咆哮もあげてのたうつ。


「風軍、逃げて」ドロシーが空に叫ぶ。「哲人さんは呼べるよね?」


 ポケットを上からさする。アンディの鷹笛はまだあった。巨大なワシが去っていく……。

 二人そろって捕らえられた。どうにもならない。


『ギギギ、こりゃいいや』

 サキトガである魔物も龍の背に着地する。

『フロレ・エスタス。この娘は美人だし由緒もある。こいつも匠様に捧げよう。あの方へ身も心も貢ぐ伴侶にふさわしい』


 龍が体をくねらせる。俺達はツノにしがみつく。


――たくみ君にはこの男だけ連れていく。たくみ君に捧げるのはこの男だけ


 さすが夏奈。こっちも滅茶苦茶すぎる。


「ふざけるな。哲人さんを男になど捧げない」

 ドロシーの片手に銃が現れる。

「女にでもゆるさない。私も生け贄なんていやだ。横根さんもダメだ! 滅! 滅べ!」


 鱗へと七葉扇とMP5を打ちまくる。跳ねかえされて、煤竹色が俺に直撃する。後ろに吹っ飛ぶ。

 雨が小降りになる。龍が動きをとめる。


――私を呼んだ女は?


 俺へと聞いたよな……。またもやあばら骨が痛いけど、それは横根のことだ!


「そいつが持っている! そいつが半分にちぎって隠した!」

 サキトガへと指さす。

「そいつを倒せば横根瑞希は戻ってくる! 夏奈は瑞希ちゃんと会える!」


 またかよ。口から血が垂れてくる。

 サキトガがギギギと笑う。


『俺達は同胞だぜ。貴様の声など――』

「灯! 灯せ!」


 複数の光弾が直撃して、サキトガが吹っ飛ぶ。


『もう我慢できねえ。梓群――』

「灯せ! 灯!」


 サキトガが龍の背中から転がり落ちる。すぐに浮かび上がってくる。

 ……ドロシーの息が荒い。思玲も強力な術をだすほどに疲弊していったな。サキトガは光を喰らったところで傷を負った気配はないのに。

 俺は跳ねかえった術を浴びた腹部と胸部が痛い。癒しが強烈すぎて痛覚も復活している。


『愛しあう二人を守る素敵な光だと?』

 巨大な妖魔が上空に浮かぶ。

『両天秤野郎の心も知らず、ティーンエイジャーが自分に酔ってるんじゃ――、ギゲッ』


 サキトガが龍の尾にはねられた。


――あの娘を返せ。もっと痛い目にあわせるよ


 夏奈が言うあの娘とは、横根に決まっている。雨がまた強まる。雷が黒雲で待ちかまえている。





次回「花咲き誇る夏」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ