表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5-tune 四神獣達のカウントアップ  作者: 黒機鶴太
4.2-tune
197/437

三十七の二 次に会えるのは

 浄化槽のふたが闇に覆われている。露泥無には悪いが、張麗豪にふさわしい場所だ。


「ドーン、川田、行くよ」

 低い枝にとまるカラスと、その下で寝そべる片目の猟犬に声かける。


「しつこい。俺はリクトだ」

 川田が立ちあがり伸びをして、ドーンが俺の頭に降りる。


「やっぱり夏奈ちゃんは呼ぶべきでなくね?」頭上で言われる。「腹いせで、瑞希ちゃんの残りの魂がヤバいかも」


 奴らが持つ横根の半分の魂。それを奪還してから夏奈を呼ぶというのが、ドーンの言い分だ。でも、


「呼ばなきゃ駄目だよ」


 横根に却下された。彼女は先ほどの川田への祈りのせいで、胸もとの珊瑚がないと気づけぬ存在になってきている。


 合流して真っ先に露泥無に尋ねてはいる。


――横根の魂は半分でない。六割程度だ。珊瑚も所有するのだから、こちらの魂が本体といえるだろう。それでも祈りは自殺行為だったな。繰りかえせば消滅して四割だけが残る。だとしても海神の玉だけでもロタマモから奪還できたと思えば――


 気分が悪くなるだけだった。


「和戸の杞憂は一理ある」


 背後の思玲が言う。それ以上続けてこない。だから俺達は龍を呼ぶ。みんなぎりぎりに位置している。完全なる夜になるまえに、あの時の五人で呼ぶ。夏奈が戻ってくれば、あの時の六人だ。方法なんて分からない。見晴らしのいい場所で、みんなで声をあわせるだけ。


「だんなは?」川田が聞く。


「俺達だけ。もう解放してやれよ」ドーンが言う。


 川田である猟犬はどうでもよさげだ。林へと空へと鼻を向ける。


「昨夜の狼をぶっ倒しにいくだって!」

 闇が叫んだ。「どうすれば、そこまで浅慮になれる?」


「声がでかい」

 思玲が闇をこづき、俺達をにらむ。

「冗談だ。あれの倒し方を頭でっかちに聞いただけだ」


 備えるのはいいけど……。日は翳っていく。影が濃くなっていく。


「僕は松本から離れない」

 麗豪の番の続行を命じられた露泥無が断言する。

「もはやアラートが発令された。新月とともにサキトガが現れる。楊偉天も来るかもしれない。完全なる日没まで、あと一時間二分だ」


 それを聞き、思玲が舌を打つ。

「それだけしか時間がないのか。急いで山に入るぞ。ドロシーは扇を預けておくから、しっかり麗豪の番をしていろ。済んだら琥珀に渡せ。

琥珀はハラペコをにらんでいろ。あたりの闇が濃くなって、まぎれて逃げようとしたら即座に食え。ケビンは寝ていろ」


 達者でなと、ケビンは駐車場に去っていく。横根が珊瑚のペンダントを握る。ドロシーは俺を見ていた。


「私も――」

「リュックサック、どうしよう?」


 彼女の言葉をさえぎる。彼女がいると夏奈を呼べない。

 川田以外が俺達を横目で見ている。ドロシーは唇を噛んでいる。


「もちろん返してもらう。パパのシャツも」

 彼女が言う。

「でも今じゃない。シャツが破けようと気にしなくていい。……気をつけてね」


 ドロシーも立ち去る。

 ……呆気ないな。これから最高の結果が待っていたら、俺の記憶から彼女は消える。もう一度心のなかで、ありがとうと告げる。


「ドロシー、大鷲が来るらしいが」

 露泥無が彼女の背に言う。

「それで帰るなんて夢想しないほうがいい。結界に守られなければ数時間も乗っていられない。風邪をひくか、下に落ちる」


 彼女は聞こえないふりだ。すぐに見えなくなる。


「あの娘の百倍は惚れられたな」


 思玲の声は冷やかしではない。

 あの娘が誰だか聞かない。林の中を闇が支配しようとしている。





次回「宵待少女」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ