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5-tune 四神獣達のカウントアップ  作者: 黒機鶴太
4-tune
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三十三の二 惑わし惑わされ

「いつからいた?」

 どこかにいるサキトガをにらむ。天珠がある。心は読まれない。


『2020秒前から2秒前のどこか。貉の天珠がパワーアップしやがったな。お前が帰ってきたのに気づけなかったよ。……しかし顔色が悪いな。じきに死人になる色だ』


 読まれなくても、こいつらの言葉のプレッシャーに耳をそぎ落としたくなる。……天珠はむしろ穢れていた。俺達を隠していたのは、横根の首もとで輝く赤い玉。


「ドロシー、露泥無を呼べ」

 小声で言う。


 彼女が「ツイ」と入り口に走る。でも戸は開かない。


『梓群、人間に従っちゃったな』

 サキトガも姿を見せない。

『貉は傷つけられない闇で、のんきに寝ている。あいつはなにか隠しているか?』


 それは横根だと気づいていないのか? まやかしかもしれないけど、この使い魔は相方の死を知らない?


「異形の存在を穢す輩め」

 ドロシーが銃をかかげる。

「貴様の声に比べたら尖沙咀チムサーチョイの雑踏のが心地よい。私は香港魔道団。貴様が火に入るを待っていた。梟と同じく抹殺してやる!」


 さっそくバラしやがった。……横根を守らないと。


「ドロシー、入り口を物理的に破壊しゲホゲホ!」

 むせながら怒鳴る。大声だすだけでもつらい。


『梓群ちゃんの鉄砲だと壊せないよ』サキトガが笑う。『ロタマモを殺したって? キキキ、だったら俺も気をつけないと』


 ……断言する。こいつは知らない。


「ドロシー、あのフクロウは生きていた」

 彼女を見つめる。目くばせとかしない。

「こいつを外に行かせるな。露泥無が起きればこいつは逃げる。あのムジナは……、あの宝物を抱えて寝ていればいい」


 余計なことを言うなよ。コウモリに疑念を持たせるなよ。


「蝙蝠、姿を見せなさい。梟には逃げられたとしても、貴様だけは倒す」


 ドロシーが天井をにらむ。俺の意思は伝わった。


『キキキ、宝物って死者の書じゃないよな?』

 サキトガは笑うだけだ。

『だって連中は白笛市の家を調べたようだしな』


 ……?

 ……俺の実家のことだ!

 痛がっている場合じゃない。入口へ走る。


「開けろ!」


 微動だにしない戸を引っぱる。ガラスを叩くが割れやしない。


『落ち着けよ。もはやどうにもならないだろ? 家は燃やされたかな。家族は拷問の最中かもな。キキキ』


 ふざけやがって。本堂ごとぶち壊してやる。


「人間、まどわされないで!」


 ドロシーの声は悲嘆だ。その声に、でかけた力がしぼむ。……冷静に考えろ。

 家はお天狗さんが守っている。両親は四国にいる。拷問に出張するにはさすがに遠い。でも弟は県内だ。金札を持ってでたか確認すべきだった。

 ポケットを探る。スマホがない。ピンクの車で充電したままだ。


「スマホ? 大蔵司から王姐が受けとった」

 ドロシーが教えてくれる。ならば、


「思玲!」

 外へと叫ぶ――。肺が悲鳴をあげた。咳きこむと肋骨が内蔵を刺激する。


『聞こえるかよ』

 サキトガがまた笑う。

『そろそろロタマモが来るかもしれないぜ。昼からさえずりたがっているかな。キキキ』


 人の弱みを笑うこいつらを憎む。突破口は相棒の死を知らないこと。

 ドロシーが俺の横にならぶ。紅色の唇をなめる。


「灯」

 天井へと掃射する。血の色の闇はあせない。彼女が弾倉に息を吹きかける。手慣れた動作でリロードする。

「滅」


 煤竹色の光が赤い闇に消えていく。


『当たらないけど、当たればかゆいし』

 サキトガは笑うだけだ。

『梁大人のお孫ちゃん。昨夜あんたをターゲットにしなかった理由が分かるかな?』


「耳を傾けるな!」

 俺は彼女の肩をつかむ。


「ひいい、さわるな」

 肘鉄ではらわれる……。


 悲鳴さえでない。肋骨を押さえてうずくまる。


「へへっ、私はなにを言われても平気だからだ」

 彼女が中空へと笑いかえす。

「私はシノよりもアンディよりも強いからだ!」


 こらえきれぬように、キキキと笑い声がもれる。


『娘になっても人とキスできずにいれば、下種なネタなどないからな。――お前は誰よりも弱いから、殺すに惜しかっただけ』

 俺達二人への呼ぶ声。

『俺は爪も牙も汚さないから、いまは嫌がらせなだけ。サービスで哲人にも教えてやるよ。梓群の病的な人間嫌悪の理由を』


 俺は冷や汗を垂らしながら立ちあがる。とどめの衝撃を与えやがった彼女の横にならぶ。こいつを守るために。


「言われても平気だ」ドロシーが中空をにらむ。「松本なんかに聞かれても平気だ」


 まただ。無意識だろうか、彼女が俺の手を握る。


『だったら鮮明に思いださせてやる。――夏梓群。父だった名は夏兆勝シァチャオシャン。母だった名は梁彩華リァンサイファ





次回「奈落へ誘う声」

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