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5-tune 四神獣達のカウントアップ  作者: 黒機鶴太
3.5-tune
178/437

三十一の二 後部座席の二人

 ピンクの車が動きだす。大蔵司は助手席に乗っているから運転手のいない車だ。交通量のすくない裏道を行こうが、すれ違う車が事故を起こさなければいいけど。

 みんなと合流するのは十四時前後か。この時間に考えないと。


 琥珀が呪いの言葉を使った。堂々としているから裏切り者だったのを忘れていた。助けてもらったとしても、こいつの素性がいよいよ分からなくなった。でも、いま考えることではない。大蔵司も影添大社も考える必要ない。楊偉天配下のパワフルな魔道士も、考えたところでどうにもならない……。

 琥珀達が怯えた滅魔の輪はまだ一枚ある。あれだけは意識しておかないとな。か弱い異形は瞬殺と言っていたから。


 夏奈のこと。彼女を人に戻すのが次にすべきこと。深夜の極みに俺が呼んでも、彼女はすでに藤川匠のもとにいるかもしれない。魂を捧げられなかった不完全な魔導師だとしてもだ。だから夜を待たずに……。手紙に記されかけた内容を横根に聞かないといけない。でも、いまじゃない。その質問に彼女が身構えていると感じる。


 滝に沈められた独鈷杵。取りにいくべきかもしれないけど、そんな時間はない。俺のコンディション。三日ぐらい寝て過ごすべきだよな。そんな時間がどこにある。こうして横根の膝でやすめるだけで充分と思え。

 ドーンと川田は元気だろうか。思玲もドロシーも、露泥無も……。フサフサがいまどこら辺にいるか思いだしてやらないと、俺だけでも。


「顔色がよくなってきたよ」

 横根がつぶやく。


 大蔵司が俺の腕から針を抜く。俺は目をつぶったままだ。横根の温かさを感じたいのに、彼女にぬくもりはない。彼女のことこそ考えなければ。


 横根は人間くずれでなかった。幽霊でもない。法董が彼女を見て言った。魂が半分しかないと。では、残りの魂はどこにある?

 決まっている。サキトガが持っている。

 いやしい使い魔達は、彼女の魂をふたつに裂いて持ち歩いた。あとの半分をコウモリから取りかえさなければ、横根は永遠に人の目に見えないかすれた異形のままだ。そして半分の魂を奪還したいのは、サキトガも同じだろう。

 新月の夜が始まるまで六時間、それが終わるまで十五時間。そのあいだに俺達は横根の魂を守り、奪いとらないとならない。

 ロタマモを倒したことで、俺との契約は失効しただろう。今後、使い魔達は見境なく俺を狙える。あさましい奴らにも復讐の心はあるかもしれない。


 楊偉天達もいる。夏奈を青龍にするために、俺と俺の持つ箱を狙っている。あいつらにこそ注意が必要だ。配下はなおも、峻計、麗豪、土壁、竹林、さらに法董……。さらなる異形の登場も予告していたな。ロタマモがいなくなったいま、楊偉天達のが恐ろしいかも。

 それでも餌である俺はみんなのもとに向かう。横根を連れていくなんて建前だ。ドーンに会いたい。思玲にも会いたい。人である川田にこそ、もう一度会いたいのに。


 藤川匠。奴は破邪の剣を持っている。法董の魔道具のおかげで、あの剣の怖さを思いだせた。悪しき魔導師が、あれを使いこなすことができるだろうか?

 おそらく俺達へと月神の剣は輝かない。なぜなら俺達こそ正義だから。


 段差を拾って、車がバウンドする。それをきっかけに横根の膝から頭を起こす。小さい車だと横になるのも窮屈だ。

 彼女を枕にしていたのは、彼女にすがるためだ。彼女が頼られていると感じ、安心してもらうためだ。彼女だって、残りの自分がどこかにいることに気づかされたのだから。


 ドロシーのリュックの傷跡をさする。外ポケットが5センチほど横に切断されていた。俺の鍵が犠牲になったが、スマホは外で充電していて助かった。内側の荷物は無事っぽい。傷口を術がふさいでいる。さすが魔道士のカバン。

 琥珀は四玉の箱を盾にした。俺だって経験あるから文句は言えない。どっちにしろ緋色のサテンがなかったら、箱は切断され琥珀はいなくなっていた。

 隣からの視線を感じる。


「松本君は夏奈ちゃんが好きなんだよね」

 横根が俺へと微笑む。

「でも、私は松本君をもっと好きになったよ。誰もいないし、魂も半分だけだし、どうせ記憶は消えるから、いくらでも告白できる」


 やめろよ。運転席と助手席で聞き耳を立てまくられている。この異形達は拡散させるタイプだ。


「夜になったら、俺はまた物の怪になる」そんな言葉でにごす。「そして、みんなそろって本来の世界に帰ろう」


 横根がうなずき、窓の外を見る。

 フロントガラスも直り、ピンクの軽自動車は大きな道にでる。大蔵司が運転席に戻る。パトカーとすれ違っても、警戒される素振りはなかった。

 昨夜以来、ドーンと会える。あいつの声を聞かされれば、カラスであろうと抱きしめたくなるかも。泣いてしまうかも。

 太陽は西へとじわじわ傾きだす。ちぎれた雲は、ふわふわの毛をした猫達みたいだ。





次章「4-tune」

次回「落城」

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