表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5-tune 四神獣達のカウントアップ  作者: 黒機鶴太
1.5-tune
15/437

六の二 座敷わらしと飛べないカラス

 交差点から先のあふれる光も、この高さだと気にならない。


「よい眺めじゃね? 川田だったら、ドーンがドローンとか言いそうだし」

 なにも知らないカラスがつぶやく。「帰る前に必ず飛んでやる。そんで師傅さんに、その記憶だけは残してもらお」


 俺はなにも言いかえせない。思玲はなかなか姿をださない。さすがに破壊した校門前から去ったかも。おそらく町中には行かないから、さきほどの側道へと浮いていく。

 しばらく行っても彼女達は見あたらない。


「はぐれるのヤバくね?」


 ドーンが騒ぎだす。……こっちは霊がいたから避けたかな。反対側に向かう。頭に乗せたカラスは重くはないが、じわじわとこたえてくる。

 野次馬だらけだ。正門に横付けされた警備会社の車の上を素通りする。会社帰りの人達が脇道を歩く。彼らを上空から追い越しても思玲は見つからない。


『途方に暮れているか』

『無理もないよな』


 心への呼ぶ声が聞こえた……。

 校内に目を向けると、うす暗い図書館が見える。こっちに思玲が来るはずがない。空中で反転する。


 *


 さまよい続けて、さすがに疲れてくる。「ちょっと枝に降りて」と街路樹に近寄る。


「できればチェンジしたいけど」

 ドーンは枝に飛びうつろうとして躊躇する。「もうすこし寄って」


 へっぴり腰で片脚づつ乗る。俺も並んで腰かける。

 樹木に接すると気持ちいい。街灯の明かりを、イチョウの葉がはばんでくれる。月が半分ほどにカットされて浮かんでいる。メロンみたい。

 休んでいる場合ではない。俺は浮かびあがる。


「思玲達を探してくるから、ここで待っていて」 

「無理無理、マジで無理。猫とか来たらマジでヤバいし」


 おじさんが鳴き声たてて騒ぐカラスを見上げる。それ以上の興味も持たず通りすぎる。たしかにドーンを一人にできないか。また腰をおろす。


「やっぱ哲人は強いな。放っておけば、今も一人で行ったよな?」


 おたがいの姿がおぞましく変わっていようが、違和なく会話を交わせられる。これも楊偉天の術によるためか。そうだとしても、それだけであるはずがない。……ドーンなら飛んでくれそうな気がする。だから、すこしだけ真実を告げる。


「思玲が、人は鳥になっても飛べないと言っていた。それでか、朱雀系の人達はニワトリが多かったらしい」


「チキンかよ! カラスのがまだましだし」

 ドーンがガガガと鳴きながらうける。

「でも飛ぶのむずそうだぜ。そもそもコツが分かんね。川田や瑞希ちゃんは、四つん這いなんて赤ん坊の頃から慣れているのに」


「だからこそ飛んでやろうぜ」

 飛んでくれよ。


「言われるまでもなく」

 カラスが真顔で見つめてくる。「そんで、はやく夏奈ちゃんを見つけないと。いつまでも堅い三人だけだと疲れるし。カカカッ」


 桜井の話がでて、どきっとする。

「ドーンは、桜井のこと許せるの?」目をあわせないで聞く。


「そりゃ思うことはあるけどね」

 そらした目を覗きこんでくる。カラスも目はつぶらなんだと、余計なことに気づいてしまう。

「哲人の本気の想いを抜きにしても、はやく一緒にならないと。そんで、みんなで人間に帰るじゃん。こんなのあまり楽しくねーし」


 ドーンの漆黒の瞳に、俺がはっきりと映っている。ざんぎり頭の男の子が俺を見つめている。横根が言ったように保育園児ぐらいの俺だ。

 ドーンはちょっとだけ間をおいて、くちばしをひろげる。


「あいつの記憶から俺は消えているのかな」


 彼女のことだ。俺までやるせなくなる。またちょっと真実を告げる。


「俺と桜井だけが人間だったとき、みんなのことを忘れた。あの子だけはドーンのことは忘れないよ」

 根拠などどこにもないけど。


「だね。あいつとは丸三年だし。過去最長だし」

 カラスが空を見上げる。「誰も俺のことを忘れるはずねーし」


「お前らは夜になろうと涼むだけか」

 いきなり下から声が届く。思玲がにらんでいた。

「あいつらは必死に探しているだと? 川田の目立てがあてにならぬのが、よく分かった」


 思玲の両脇にいる猫と狼まで、俺達をあきれた目で見上げていた。


 *


「思玲はくたくたになっても、私達を門の外まで連れだしてくれたんだよ」


 憤慨で白猫の目がきつい。最初に言ってくれないと、結界をまとって移動する労苦など分かるはずない。


「かまうな瑞希。私が術をだすのに身を削るのを何度も見たのに、あやつには所詮は他人ごとだったのだ」


「俺が引きとめたんだよ」

 ドーンが俺から飛びおりる。

「でも、まだ飛べない俺を置き去りにして、みんなを探そうとするし。それもひどくね?」


「全員がそろったのだから、もういいだろ」

 川田が低くうなる。「桜井も探してやる。ドーン、今度は俺の上に乗れ」


 さすが川田。横柄な優しさだ。


「犬の上にカラスが乗ったら速攻で拡散じゃん。俺は思玲の肩に乗るのが一番おさまりよくね?」


「哲人は充分に休んだから、まだまだ和戸を乗せられる」

 思玲が間髪入れずに返答する。

「めぼしい場所は見つけられたか?」


 俺に目を向ける。今夜を過ごす隠れ家か。思玲達を探す以外になにもしていない。


「本当に涼むだけだったのか」


 思玲があきれだす。頼まれた覚えなどないのに。


「すみませんね。俺一人で探しにいきますから、結界の中ででも休んでいてください」

 嫌みを込めて言う。


「当然だ」思玲が道ばたによって腰をおろす。「お前達もこっちに来い。私も消えるから、この場所を忘れるな」


 川田とドーンが素直に彼女へと近寄る。思玲が扇をだす――。

 マジに俺一人で行かせるつもりか?


「結界にこもるだけでOKじゃないですか? 俺は木の上にでもいますよ」


「お前らは結界慣れしていないから、心が圧迫されない薄いものしか張れぬ。朝になれば使いの鴉が飛びまわる。そんな結界など、そいつらさえ感づく。質より量だ。それから逃げても遅い。そして、あいつらは平気で人を巻き添えにする。強いパッションがあれば、雑魚の異形でも人を襲える。道沿いなどに潜っていられるか。

そもそもお前が外をうろついていたら即座に見つかる」


 そこまで並べたてるのか。


「分かりましたよ」俺はみんなに背を向ける。

「私も行きます」横根の声がした。


「瑞希、遊びではないぞ。哲人だから頼んだのだ」


 思玲の声が聞こえないかのように、横根は浮かんだ俺の真下へと駆けよる。


「横根はみんなといるべきだよ。俺は人には見えないし、護符もあるから平気らしいけど」

 おそらくそう言うことだろう。


「一人より二人のがいいよ。絶対に」

 白猫が俺を見上げる。

「それに、もう狭いところはやだ」

 正門方面へと歩きだす。


「さきほどの野良猫がおるかもしれぬ。お前達が独断ですることに、私は手をわずらわさない」


 思玲は追ってこない。やはり彼女は疲れているのか。横根を断るべきだけど、そりゃ二人のがいいに決まっている。町なかをうろつくだけだし。


「了解。一緒に行こう」

 俺は横根のあとを追う。「遠出はしませんから」

 背後にいるだろう思玲に声をかける。





次回「座敷わらしと純白猫」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ