表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5-tune 四神獣達のカウントアップ  作者: 黒機鶴太
1.5-tune
120/437

八の三 さすがに無理

「ドロシー、龍はいずこだ?」

 思玲が意に介せず彼女をにらむ。


「教えない」

 痛みに耐えながら、ドロシーが言う。


「白猫であった人の噂、聞いたことはあるか?」


「知っていても教えるか!」ドロシーが叫ぶ。


「カカッ。俺達が聞いてもいいんだぜ」

 俺の肩でカラスが笑う。

「手負いの獣と猫女。まずはどっちを選ぶ? あきらめろよ」


 ドーンまでなにを言ってやがる。こいつもたしかに荒っぽい一面はあったけど(有り金勝負するんだよとか、あの白人笑いやがったぜとか)、こんな残忍な言葉を口にださなかった。むしろ真逆の男だった。異形に堕ちたからかよ。


「頼みたいこともある」

 思玲がドーンを制すように片手をあげる。「琥珀を開放してくれ」


「あの子をあなたになど二度と会わせない」

「私の式神だ」

「だから? 私を食い殺せばいい。魔道団は仲間の復讐を必ず成し遂げる」


 ドロシーは泣いていた。もう我慢できない。


「話をあわせろって」

 俺の感情にドーンが感づく。

「ブドウ畑で化け物が主を待っていた。俺達を襲う命令をだ。それに、あいつが来るかも。はやく逃げださないと」


 あいつとは峻計のこと。俺の生存本能が気づく。


「復讐か。たしかに、そのために生きる者こそ怖い」少女が笑う。

「ならば仲間のもとに逃げかえれ。――フサフサ、その娘の背荷物を頂戴しろ。それ以上腕をひねらぬようにな」


「ふん。指図ばかりで気にいらないけど、ここも従ってやるよ」


 フサフサが片手ずつ放して、ドロシーが背にしたリュックを器用に奪いとる。ドロシーは地面に落ちる。そのままうずくまる。


「カカッ、はやく立ち去りな」とドーンが笑う。立ち去ってくれよと、聞こえぬようにつぶやく。


「まだだ」

 思玲は気絶したリクトを盾のように抱えていた。「その異形についた印を消してからだ」


 俺の頬を顎でしめす。

 すでに暗闇だ。虫しか鳴いていない。なのに、ドロシーが地面に手をつき立ちあがるのがはっきりと見える。彼女が俺を見つめる。思玲がタクト棒の提灯をドロシーにかざす。悔し涙がとめどなく流れていた。


「その式神が、印を消したと言っていた。貴様は昼間の人間だ」

 彼女は俺をにらむ。

「貴様だけは、異形でなく人間として扱ってやる」

 呪いのようににらむ。


「当然だ。こいつらは人だ」思玲がきっぱりと言う。「ここに式神などいない」


「ふん。私は猫だけどね」

 フサフサが鼻を鳴らす。

「私はマチ育ちだから、こんなところにいたくないのだよ。はやくしておくれ」

 鎖を振りまわす。


「……魔女め。黒魔女め。王思玲、貴様は災いをもたらす魔女だ」

 ドロシーが俺のもとまでやってくる。涙が闇にまぎれてくれない。ドーンが肩から飛びたつ。

「私をだましたな。ここにおびきだしたな」


 そう言って、ドロシーは俺の頬にくちづけする。彼女の温かい唇が離れ、印が消え去ったと感じる。


「愚かだな。貴様の印がみなを集めただけだ」

 女の子がとどめのように笑う。

「感謝はしているぞ。夜道だ。気をつけて帰るがいい」


 思玲が提灯を踏みにじる。完全な闇のなか、なにも持たぬドロシーが俺をにらむ。最後に少女の陰影をにらみ、真っ暗な林道を去っていく。曲がり道で見えなくなる。


「はやく消えろよ」


 ドーンが見届けるために飛ぶ。漆黒の闇空にカラスがまぎれる。


 *


「哲人、スマホを……、いや私が取りだす」

 思玲がリュックを拾い、意を決したように外ポケットに手を突っこむ。安堵の顔を見せる。

「ドロシーは木霊を怒らせたようだな。電波をゆがめられた。つまり、これはここでは役立たずではあるがな」


 スマホを握る女の子の顔はゆがんでなどいない。それを道に投げる。


「フサフサ、スマホを念入りにぶっ壊し残骸を藪に捨てろ。哲人はリュックを背負え」

 女の子が指図を始める。

「リクトに鎖をつけろ。念入りに蹴っ飛ばしてからな。抱えるのはフサフサだ……。箱は?」


 リュックの中だと言うと複雑な顔をする。

 俺は蹴っ飛ばさずに、若い柴犬を鎖につなげる。鉄塊だ。ずしりと重い。リュックを受けとる。ふわりと背負えた。……背中の傷にこすれて痛い。ドーンがばさりと頭上にとまる。首も痛くなる。


「魔道士のカバンは術のかたまりだ。絶対に手を入れるな。では早々に立ち去るぞ。森を避け人も避けて、お天狗さんを目ざす。なんとしても土着の札を手に入れる」

 女の子が矢継ぎ早に言う。

「だが、ちょっとだけ休ませてくれ。……私は魔女なんかでない」


 思玲は真っ暗な林道に大の字にあおむけになる。

 ドロシーを行かせてはいけないけど、この子を見限られるはずはない。林から覗く空はかすんだ星だけだ。月の光も届かない。そもそも月など……。


「ご本尊に行かなくていいのかよ」

 ドーンがリュックの上に乗りなおす。


「もういいや」俺は答え「思玲をおんぶしてやってよ」

 フサフサにお願いする。


 それでもご神体のある森を見あげる。――お天宮さんは白けていた。

 俺達はまるで悪の一味だ。こんな展開を認めるはずない。だから護符をあきらめる。





次回「触れ合っていた二人」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ