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5. 立ち向かってやる

 考えることすら避けてきた悪夢の内容や、ベルトランの話から、引っ掛かる点がいくつも出てくる。だてに異世界ファンタジーを読んでいた訳じゃない。


 さすがに実際に起こるとは思いもしなかったが。


 ベルトラン自身も毒の効果が消えたせいか、使用人たちの様子がおかしいと気付いた。まるで、何かに操られている様だと。

 だから、事実を確かめる為に強硬手段を取ることにした。


 計画を話すと、ベルトランは予想外に心配そうな表情をする。

 さっきまでの、私を無理矢理連れて来た強気な態度はどこへ行ったのか?

 

「大丈夫です! どうにかなります。いざとなったら助けくれるのですよね?」


 私を守ると言質は取ってあるのだから。


「わかった」とベルトランはしぶしぶ頷く。


「その代わり、離宮から出るのは俺が完全に回復してからにしてくれ」


 このままでは、私を守るのに限界があると言う。

 私もそれについては賛成だ。今のベルトランは風が吹いても倒れそうなくらい弱々しい。


 だからこそ、それを利用すべきだと思った。

 

 解毒できたベルトランの体調は良くなったとはいえ、体力もなく見た目も変わっていない。油断させるにはもってこいだ。

 具合の悪化を装って、呼び鈴を鳴らし使用人を呼んでもらうことにした。


 ここは療養の為という名目だけの離宮で、実際はベルトラン付きの使用人は交代制で一人しかいない。

 ベルトランは、使用人が互いに呪いを怖がって最小限の人数になったと考えていたらしいが……。それも怪しく思えてくる。


 私はベッドの下に隠れ、息を殺しその時を待った。


 やって来た使用人が、無表情のままベルトランを覗き込む。

 もしも、死が間近であるなら報告をしなければいけないから、確認のための行動だろう。


 タイミングを見計らい、ベルトランの手刀が使用人の首に命中する。気絶し、バタンと床に転がったところで、私は這い出るとそのまま浄化した。


 本当は私が使用人の背後から気絶させるつもりだったが、ベルトランは自分がやると譲らなかった。


 こんな細く弱々しい見た目で、俊敏に動けるとは驚きしかない。

 不思議そうに見た私に、どうだと言わんばかり表情でベルトランは口角を上げる。


 ……あ、笑った。


 なんだか不意打ちの笑顔に戸惑ってしまう。


 すると、使用人が「ぅう……ん」と唸った。


 いけない、気を引き締めなきゃ。

 

 意識が戻った使用人は、何が起こったのかといった感じで、ベルトランの状態に驚いていた。

 彼の記憶では、ベルトランはまだ子供だった様だ。

 混乱する使用人を落ち着かせ、それまでの記憶を問い質すが、まるでモヤがかかったかの様に何も覚えていないらしい。

 

「これはもしや…… 」

「何ですか?」


「子供の頃に読んだ本の知識でしかないが」とベルトランは記憶を探るように話し出す。


 使用人の様子から、ベルトランはこの国では禁忌とされる黒魔術――魅了を使ったのではないかと言った。


 魅了……ね。定番のやつだ。

 

「けれど、その黒魔術を私が浄化できるなら……」

「急いだ方が良さそうだ」


 ベルトランの状態の悪化が仕組まれていたものならば、生きていること自体が向こうの不信を招く。

 対策を練り、慎重に動きつつも急ぐことにした。


 術が解けた使用人がベルトランの手足となり、以前からベルトランに仕えていた信頼できる者から順に寝室へ引き入れ、片っ端から同じように浄化して行く。


 当然、アヴェリーノやエステルに悟られないように。




 ◇




 離宮の使用人全員の浄化が終わる頃には、ベルトランの体つきは年相応に……いや、立派過ぎるほどの肉体美に変わっていた。目のやり場に困るほど。


 味方が増えた離宮で、先ずは食事を改善した。

 もちろんメニューは私が考え、食材は使用人が外部から調達して来てくれた。

 そして軽い運動から始め、プラスアルファで私の癒しの力を使い、短期集中で鍛えまくったのだ。

 

 幸いなことに、今この離宮で働く使用人は亡き王妃に仕えていた、ベルトランに優しかった者ばかり。

 だからこそ魅了をかけられ、ベルトランと一緒に離宮へ放り込まれたのだろうけど。


 私は侍女としてメイド服に身を包み、『コトネ』の名で使用人として働いてるフリを続けた。処刑された前世の名前はもちろん使えないからだ。

 偽名を使おうかとも思ったが、ベルトランはそのままでいいと言った。なぜか、やたら名前を連呼されるのはよく分からない。


 さすがに髪色は目立つので、仲良くなった侍女仲間に染めてもらうことにした。ベルトランの姿に慣れているせいか、黒髪でも嫌な顔はされなかった。


 その上純日本人の地味な私は、自由に動いても誰にも気にされない。


 この離宮がメインの宮殿から遠かったことと、アヴェリーノが王太子として宣誓する日が迫っていた為、一介の使用人を気にする者など居なかった。

 


 そして、ついに好機はやってきた――。



 忙しなく働く本宮の使用人の目を掻い潜り、エステルの部屋に潜り込むことが出来た。宮殿にある隠し扉の位置は、ベルトランが教えてくれたから。


 広く物がたくさん置かれたエステルの部屋。

 探すのは大変かと思ったが、目的の物は簡単に見つけられた。

 自分の……クリスティナの力は私に在処を教えてくれた。力が共鳴するかのように引き寄せられ、強く感じたクローゼットの二重底に結晶石は隠されていた。

 

 よくもまあ、こんなに沢山の結晶石を用意できたわね。


 毎回、空っぽの結晶石を渡された。

 エステルと継母は空になったと嘘をつき、新しい結晶石を私に渡していたのだ。

 神聖力は民の為に使われていなかった。

 二人は私を騙し、神聖力が込められた結晶石をため込んでいたのだ。


 呆れると同時に、クリスティナであった自分の愚かさに胸が締め付けられる。


 今は……感傷に浸る時じゃない。


 気持ちを奮い立たせると、大量の結晶石に手を置いて目を閉じ祈る。結晶石に入った神聖力を全て抜き、自分に戻す。


 そして結晶石をもとあった場所にしまい、何事も無かったかのように離宮へ帰った。


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