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4. 事実と記憶

 私の前世らしき人物――。


 クリスティナは、シャテルロー公爵家の長女であり王子の婚約者だった。病弱で外へも出られなくなった第一王子ではなく、王太子の座に最も近い第二王子アヴェリーノの。


 公爵家にはクリスティナの他に、跡取りの兄と異母妹のエステルが居た。


 その妹のエステルが、ある日――聖女の力を発現したのだ。

 慈悲深く民に尽くしたエステルに、心惹かれた王子。それに嫉妬したクリスティナは、妹であるエステルを毒殺しようとしたのだと。


 未遂に終わったが、この時にはもうエステルは、国王や神殿からも聖女と認められる存在になっていた。

 つまり、クリスティナは――国の宝とも呼べる聖女を殺そうとした悪女、大罪人とされたのだ。


 聖女の実家とはいえ、そんな悪女を育てた公爵家はクリスティナと一緒に連座になった。他所から来た聖女エステルの実母以外は。


 そこまでが、国民に知らされた話。


「けれど、真実は違った」とベルトランは言う。


 確かに違うだろう。クリスティナの聖女毒殺未遂は事実無根、夢の中の私には覚えのない事だった。


『真の聖女は殺され、違う世界に生まれ変わっている。聖女を連れ戻さなければ、この国は滅びる』


 ベルトランは神託でそう告げられたそうだ。

 なぜ、神官でもない病弱な第一王子がこの指輪を手にし、神託を受けることが出来たのかは疑問が残る。クリスティナが聖女だとして、捨てたはずの指輪が起こした奇跡だと考えるしかない。実際、喋ったし。


 思い出したクリスティナの記憶では……子供の頃は、婚約者であるアヴェリーノが大好きな普通の女の子だった。継母とやってきたエステルとも仲が良く、よく三人で遊んでいた。

 それがある日突然、クリスティナに聖女の力が現れたのだ。


 聖女になると、国と民の為に神殿に入らなければならない。


 幼いクリスティナは、大好きなアヴェリーノとの婚約が白紙に戻されると不安になり、年下でもしっかり者のエステルに相談した。

 賢いエステルは継母に相談し、クリスティナが聖女であることを隠そう、自分が身代わり聖女になると言ったのだ。そうすれば、民は幸せになるし、クリスティナもこのまま王子妃になれるからと。


 無知な子供は、甘い言葉を信じてしまったのだ。


 継母は、どこからか高純度の結晶石を用意し、それにクリスティナの神聖力を流し込むように言った。そう、何個も何個も。


 神聖力でいっぱいになった結晶石を持って、エステルは継母との慈善活動の場を使い、小さな奇跡を起こす。撒かれた小さな種は大きな波紋となった。

 暫く経つと、予定通りエステルが聖女であると噂が広まって行ったのだ。


 だが、それは全てクリスティナを陥れる罠だった。気付いた時には、もう後戻りは出来なくなっていた。


 婚約者だったアヴェリーノは、聖女になったエステルに想いを寄せ、クリスティナに婚約破棄を告げた。

 真実の愛の前では、聖女でも王子でも関係ないと。民の為に生きると誓った二人に、国王は了承してしまったのだ。

 慌ててクリスティナが事実を訴えたが、誰も信じなかった。人々を癒す為の神聖力は、ほとんど結晶石に入れてしまっていたから。


 そのせいで――。


 クリスティナは、聖女である妹に嫉妬した偽聖女であると捕らえられてしまったのだ。

 愚かな自分の欲のために、聖女であることから逃げようとした罰なのだと思った。


 だからこそ、私は……。


 曾祖母から受け継がれた指輪に、回復してきた残りの神聖力を全て入れ、幽閉されていた塔から堀に向かって投げたのだ。

 自分が死ねば消えてしまう力が、いつの時代か誰かの役に立つ日が来ることを願って――。




 けれど、指輪は堀に落ちなかったのだ。



 一羽のカラスがキラリと光った指輪を咥えて行ってしまったのが、指輪を見た最後だった。




 ◇




 ベルトランは、自身がいつ頃から病に侵されたのか覚えていないらしい。

 けれど、聖女と言われたエステルが少女の頃、一度だけ癒しを試みにやって来た記憶があると。今考えると、食事に即効性のない毒が入っていたのかもしれないと言う。


 だが当時、聖女の癒しを以てしても治らない病は――病気ではなく呪いだとされてしまったそうだ。

 それから徐々に「病弱な第一王子より、健康で有能な第二王子の方が王太子に相応しい」との声が大きくなっていった。

 そして、この寝室に隔離されたのだと。


 ベルトランは外部から離され、唯一の心の救いは飼っていた鷹だったそうだ。

 昔からの侍従にこっそりと頼み込み、高い位置の小窓だけは外を見たいからと開けてもらっておいた。ベッドから鷹の姿を見る為に。


 指輪はその窓から鷹が落としたそうだ。


「どんな巡り合わせよ、まったく……」


 ボソリと呟いた私は、指輪を睨んだ。まさか、カラスから巡り巡ってベルトランの元へ届き、私のもとへ戻ってくるとは。


 でもまあ、これで合点がいった。クリスティナの記憶の夢に、第一王子ベルトランがいなかった理由。そもそも会ったこともなかったのだから。


「病気ではなく毒だと確信していたから、癒しではなく浄化と言ったのね?」


 そう尋ねると「ああ」とベルトランは頷く。お互いの話を擦り合わせると、利害は一致した。


 そもそも、誰がベルトランに毒を飲ませたのか?

 エステルはベルトランに、本当に結晶石に入っていたクリスティナの力を使ったのか?


 ただ、ハッキリしているのは――。私の前世だったクリスティナは、ベルトランの弟アヴェリーノと、異母妹である聖女エステルによって殺されたのだ。


 クリスティナの記憶はあるが、聖女なんかじゃない琴音である私は――決して二人を許さない。


 だから、もう逃げないと決めた。

 

 

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