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2. 非現実的な状況

 目を覚ますと、明るめの蛍光灯が眩しくて顔を顰めた。


「やっと……気がついたか」


 聞き慣れない男性の安堵の声。


 どうやら私に向かって言っているらしい。

 そこで、自分が横たわっているのが、今日は使われない予定の診察室のベッドだと理解した。


「あっ! 申し訳ありません! 私また……」


 過呼吸で迷惑をかけてしまったと言おうとして、ハッと息を呑んだ。

 夢で見た王子がそこに座っていた。さっきのは見間違いではなかったのだ。


 ど……どうして彼が!? 

 いや違う、似ているけど別人? 髪も黒だし……あっ、確かハーフらしい先生が来るって。


 混乱する頭を整理しようとするが、なかなか上手くいかない。椅子に座ってこちらを見ている人物が、上司に言われた新しい小児科医だと気付くのに少しかかった。

 

「覚えているようだな」


 淡々と話すイケメン。倒れる前の話かと思い「はい」と答えた。


「ならば話は早い。向こうの世界には君が必要だ」

「それはどう言う……()()()()()()()()


 ゾクッと全身が粟立った。

 

 イケメン先生は立ち上がる。

 ――否。肉体から浮き上がった。まるで幽体離脱のように。

 椅子に残された白衣の人物は、まるで別人だった。


 まさか、これって憑依!? じゃあ、やっぱりあの王子……本人!?


 そして、うっすら透けた王子らしきイケメンは私に向かって手を差し出す。


「さあ、一緒に行こう」


 無理――! 思わず手を引っ込める。


「……行くって、どこにですか?」


 もう嫌な予感しかしない。

 断片的な夢に出てきた王子にそっくりな男。その上……あちらの世界ときたら、オタ脳は異世界という言葉しか浮かばない。


 冗談じゃないっ。


「私がはいと答えたのは、倒れたことを覚えているという意味です。あなたが……何を仰っているのか分かりません」


「嘘をつくな。この顔を覚えているのだろう?」


 ズイッと近付けられた顔に、またも呼吸が止まりそうになる。手も尋常じゃないほど震えてしまう。


「おっと、また倒れるなよ。俺はお前が知っている奴とは別人だ」と、私が覚えている前提で話してくる。


 ……は?


 言っていることが滅茶苦茶だ。双子やそっくりさんでもあるまいし……と思って、マジマジと顔を眺めた。


 あれ?


 確かに、私を見下ろした王子に似ているが、雰囲気が違う。チラリと椅子で眠っている医者の姿を見て、もう一度イケメンに視線をもどした。


 憑依と関係なく、髪が黒い。


 イケメンは、自分の首にかかったネックレスのチェーンを引っ張りだすと、それに通された指輪を見せる。


「それは……」


 夢で見た覚えのない映像が脳裏に浮かんだ。


 閉じ込められていた塔の格子窓から、堀に向かって、その指輪を――私は確かに投げた。


「お前の物だろう?」


 それにしても、さっきからこの男はお前お前と煩い。私にはちゃんと名前があるのに。

 

 そうだ。私はクリスティナ・シャテルロー……

 いやまて、無い無い! 私は純日本人、花巻琴音だ。


 慌てて浮かんだ名前を消し去るように、頭をブンブン振った。


「……何をしている?」


 ぐっと言葉に詰まる。


 本当は、指輪が自分の物であると……漠然とだが分かった。

 名前と同時に夢の出来事も鮮明になっていく。今の私には到底理解できない感情までも。

 断片的な記憶ではあるが、受け入れたくないものだった。


 ――だって、怖い。


「なんでもありません! それより、私はこの世界を離れるつもりはありませんから。指輪も……もしも私の物だったとしても、必要ないので差し上げます」


 今の生活が幸せとは言えないし、私が居なくなって悲しむ人なんていない。ハピエン確定の、異世界ファンタジーが待っているなら喜んで行くけれど。

 あの夢の世界は……。


「それは無理な話だ。この指輪がお前を見つけたのだからな」


 一瞬表情を曇らせ、男は小さくため息を吐く。


 そのまま有無を言わさず、指輪を私に握らせた。焦りがあるのか、重ねられた大きな手は振り解けないほどしっかりと私の手を包みこむ。


 すると、手の中から漏れ出した閃光が部屋全体を覆う。


 ――な、何!?


 眩しさで目をギュッと瞑った。



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