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大暑四 世界の織り手

 不思議な声は継之助の脳裏に語り掛けてくる。

 「この国は精霊と人が共存しています。化石燃料を使いすぎて地球温暖化が進み、取返しがつかなくなるまで気候を変動させることがないよう、世界の羅針盤となる役割があるのです。しかし、異世界から持ち込まれてしまった技術で精霊との共存が脅かされています。」

 それはこの世界で暮らしていると実感できていた。

 地球温暖化による気候変動が深刻化している元の世界を思い出せば、継之助には納得のいく話だった。

「私は世界の織り手と呼ばれています。世界のバランスを取ることが役割なのですが、自分では直接世界に影響を及ぼすことはできないのです。そこで精霊魔法の適性の高い継之助さんとお佳さんを異世界から招かせて頂きました。」

 思いもかけない告白に継之助は驚いた。

 お佳さんを見ると、お佳さんも目を瞠っている。

 どうやら僕らの両方に話しかけているらしい。

「お二人のどこか遠いところに行きたいという気持ちに乗じて、勝手に異世界に召喚したことはお詫びいたします。そして、それにも関わらず、この世界の危機を救おうとしてくださっていることに感謝いたします。」

 継之助は心の中で返事をした。

 「僕はこの世界で居場所を見つけました。召喚されたことには驚きましたが、そのことはいいんです。ただ、霊力を使い切ってしまって、このままでは戦車隊を止められない。」

 すると、目の前に可愛らしい少女が現れた。

「ありがとうございます。霊力については、私が何とかします。」

 少女が目をつむると、継之助の中に霊力が溢れてきた。

 「これは、まさか貴方、因果律を歪めたの。そんなことをすれば貴方もたたじゃ済まないわ。」

 南天が少女に驚いている。

 「私のことは良いのです。継之助さんとお佳さんの運命を歪めてしまっていることに比べれば。それよりも、今は目の前の敵です。」

 「ありがとう、これなら何とかできそうな気がする。南天さん、戦車を止めるにはどうすればよいかな。」

 「わかったわ。木蓮様に聞いてみるね。」

 秘密工場でいったん精霊界に戻っていた木蓮に南天は連絡を取ったようだ。

 「こちらに顕現されるわ。」

 南天の言葉と同時に、木蓮は現れた。その隣には蛟と土雲もいる。

 「今後の対応を精霊界で相談していました。ですが、世界の織り手が継之助さんの霊力を回復させてくれたようですね。」

 継之助とお佳さんは、木蓮たち精霊と共に博多の街に戻った。

 戦車隊は九州政府のビルを包囲しているところだった。

 九州政府軍はビルを守ろうとしているようだが、多くの大砲は破壊され、壊滅しそうになっていた。

 「もう時間はありませんね。継之助さん、私が導きます。一度も練習していませんが、きっと貴方ならできます。」

 「はい、木蓮さん。お願いします。」

 継之助に迷いは無かった。自分にできることをする、ただそれだけに集中していた。

 「それでは、蛟さんも協力してください。」

 「承知しました。木蓮殿。」

 継之助は木蓮に導かれ、体内の霊力を練り上げていく。

 蛟も協力することで、継之助の中には木と水の精霊力が溢れていく。

 継之助の右目は水色の、左目は緑色の輝きを放ち始めた。

 戦車隊もこちらに気づき、何台かが銃口を向けてきた。

 「さあ、出番だぜ。」

 土雲に導かれ、お佳さんは継之助の周りに土壁を巡らせる。

 敵の機関銃が火を噴く。

 轟音と共に弾丸が押し寄せてきたが、土壁は跳ね返した。

 土雲が手を貸したことで、壁の防御力が上がっているようだ。

 継之助は木蓮に教えられた祝詞を唱える。

 「水は氷を成し、解けた水は大地を潤し、潤された大地より種子は芽を出し、やがて大樹とならん。それは自然の営み。願わくば、この地にも大いなる森林の育たんことを。」

 「森林創造」

 すると数十両の戦車が一斉に凍り付き、動きを止めた。

 そして氷が溶けたと思うと、地面から急速に樹木が伸びてきて、戦車は樹木に貫かれて宙に浮きあがった。

 空を衝くように樹は伸び続け、樹齢数百年の大樹のようになった。

 戦車の中からは兵士たちが逃げ出してきた。

 「一体何が起こったんだ?」

 「夢でも見てるのか?」

 兵士たちは茫然としている。

 指揮用の装甲兵員輸送車からは平山大統領と原谷が転がるように出てきた。

 「な、何だ、これは。こんなことがあるはずが。」

 「急に森ができるなど。考えられない。」

 平山も原谷も、やがて集まってきた博多署の警官たちに逮捕された。


 「継之助、凄い大精霊術だね。これで博多の街を守ることができたわ。」

 「ありがとう、お佳さん。これも木蓮さんや、霊力をくれた女の子のお陰ですよ。」

 だが、継之助に霊力を与えてくれた少女は姿が薄れつつあった。

 「どうしたんですか?」

 慌てて駆け寄る継之助とお佳さんに少女はお辞儀をした。

 「ありがとうございます。お陰でこの国の危機を防ぐことができました。力を使い過ぎたので私はもうじき消えますが、本当にあなた達には感謝しています。」

 「そんな、消えてしまうなんて。」

 少女は微笑んだ。

 「もともと私は世界に危機が訪れたときに現れ、危機が解決されると消える存在なんです。無事に任務を果たすことができたので満足です。」

 やがて少女の姿は見えなくなった。



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