大暑三 戦車隊の猛威
「何、鉄の装甲で覆われた車だと。」
九州政府防衛大臣室で釜島は耳を疑った。
「そんなものがあるとは聞いたことがないが。本当に博多に攻め寄せて来ているんだな。」
大臣室に報告に来たスタッフは直立不動で答えた。
「はっ。現場からはそのように報告を受けております。」
釜島は考え込んだ。
そんな聞いたこともない兵器がつくれるとしたら異世界の技術だろう。
そうなると怪しいのは平山大統領だ。
与党の幹事長に平山の悪事を伝え、大統領の弾劾決議がもうじき発議される予定だ。
そのことは平山も察知しただろうし、最近になって東京から姿を消したと聞いていた。
「九州政府軍に緊急出動だと伝えてくれ。」
釜島は指示を出した。
だが、機銃を装備した鉄の車には州政府軍でも苦戦するだろう。
州政府軍の大砲で止められると良いのだが。
釜島大臣の命を受けて、九州政府軍は博多の街に緊急出動した。
街の入り口に土嚢を積み、その背後に大砲を設置する。
外国に近く練度の高い九州政府軍は、どうにか平山と原谷の戦車隊が来る前に大砲を3門準備した。
「見えたぞ、あれが報告にあった鉄の車だな。」
隊長は敵影を確認すると、指示を出した。
「なるべく近寄られる前に足を止めるぞ。大砲の発射を準備せよ。」
部隊は慌ただしく弾を込め、準備をする。
「準備が整いました。」
「よし、初弾撃て!」
まず一門から弾が発射された。
戦車隊の右横に着弾する。
そこで照準を再調整する。
「次弾、撃て!」
次弾は正しい方向に撃ち出された。
だが、相手は動いているので当てるのは難しい。
戦車隊の後ろの方に着弾し、一両の戦車は横転した。
しかし残りの戦車は速度を上げて近づいてくる。
「もっと手前に向けて撃て!」
三門目の大砲は手前に向けて撃った。
今度は戦車隊の真ん中に着弾した。一両に直撃し、その隣の車両も余波で止まった。
動いている目標に三弾目で当てるとは、九州政府軍の砲兵は優秀だ。
戦車といっても装甲は薄いため、大砲が直撃すると大破した。
だが平山と原谷は二十両を用意していた。
残りの十七両が機銃を掃射しながら、大砲の陣地に向かってくる。
「総員、退避!」
こうなっては止めようがない。
戦車隊は無人となった砲兵隊陣地の土嚢を押しつぶしながら進軍した。
秘密工場から博多の街へ、継之助やお佳さんたちは急いだ。
次第に見えてきた街からは煙が上がっている。
戦車隊が九州政府軍を蹂躙している。
「やはり戦車は秘密工場を出ていたのか。」
継之助は悔しそうに言った。
「何とか食い止めないと。」
お佳さんは戦車に対して土魔法を発動した。
突然地面が盛り上がり、1台の戦車が横転した。
しかし、そこで敵もお佳さんと鈴木に気づき、数台がこちらに向かってきた。
轟音と共に機関銃が斉射される。
「くっ。」
お佳さんが土の魔法で壁をつくるが、長くは持たない。
継之助は水の精霊術を使って1台の戦車の車輪を凍らせて止めた。ただ、それだけでふらついてしまう。やはり霊力が回復していないようだ。
継之助とお佳さんは逃げ出すほかは無かった。
精霊術のおかげで向上した身体能力のお陰で人並外れたスピードで走り、南天の助けもあり、何とか戦車の追撃を逃れることはできた。
街はずれで荒い息をつきながら、二人は座り込んだ。
「どうにか逃げることはできたけど。」
お佳さんは唇を噛みしめる。
「うん、戦車隊を止めることができない。」
鈴木も悔しそうに答えた。
「何とかさっきのような大きな精霊魔法を撃てれば。」
「お兄さん、残念だけどそれは無理だよ。お兄さんの霊力は大きいけど、さっきの輪廻流転で霊力をほとんど使い切っている。明日になればかなり回復していると思うけど、今日はもう無理。」
「そんな。」
南天の言葉に継之助はうなだれた。
異世界に来て強い力を得て、もう役立たずじゃないと思えたのに、博多の危機を救えない。
今日のうちに戦車隊は博多の街を占領してしまうだろう。
その過程で多くの犠牲が出るに違いない。
明日では遅い。
そのとき、継之助の脳裏に声が響いた。
「継之助さんはよく頑張ってくれたわ。」
それは鈴木を異世界に誘った声だった。
本編担当の象三です。外伝を書いてくれているグラスゴーのはりねずみさんによると、今回でストックが尽きるようです。本編と違って重厚で本格的な時代小説の外伝はいかがだったでしょうか。もし気に入ったら、いいねやブックマーク、評価点などを頂けると嬉しく思います。
本編も結末が近づいてきました。何とかきちんと書き上げるよう頑張ります。




