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大暑一 秘密工場

 一年で最も暑い季節、それが大暑だ。

 土用の丑の日には鰻を食べて、暑さに負けないようにする人も多い。

 花火が空を賑やかに飾り、子どもたちには待望の夏休みの季節でもある。


 青葉の予知夢では、博多の街を多くの戦車が走り回っていた。

 それならば博多の近くのどこかに多くの戦車が隠されているはずだし、戦車のような大きな物を運べば目立つので、博多近郊に戦車を密かに造る工場があるはずだと継之助は考えた。

 どうやって工場の場所を突き止めようか、護民官と師匠からは危ないことはもうするなと言われているし、万吉やきぬ葉たち芸者衆に探ってもらうよう頼むことはしたくないと、継之助とお佳さんが悩んでいると、意外なところから情報がもたらされた。

 「じゃあ、秘密工場は博多の南方、大野城のあたりにあるんだ。」

 「そのとおりだよ。」

 秘密工場の場所を教えてくれたのは南天だった。

 「南天ちゃん、どうもありがとう。でも精霊は人の社会には関わらない決まりじゃなかったの?」

 「うん、お佳さんの言うとおりだよ。でもね、今回は別なんだ。」

 南天によると、異世界からこの世界にとっては未来の技術がもたらされ、人の在り様を大きく変えてしまうことは通常の人の活動とは見なされない。さらに、その未来の技術が環境の破壊につながることは精霊としても看過できないとのことだった。

 「そんなわけで、蛟も力を貸してくれるよ。木蓮様も出張ってくるんじゃないかな。」

 「それは心強いな。木蓮さんが来てくれるなら、僕だけじゃ使えない大規模精霊術が使える。」

 継之助は強力な精霊術を行使できるようになっているが、特に大規模なものは自分だけでは制御できず、精霊力も足りない。

 人の身に余るような精霊術を南天から教えてもらったときに「どうしてこんな危険な術まで教えてくれるんだい」と聞いたら、「もしかすると必要かもしれないって木蓮様が考えておられるんだ。大丈夫だよ、木蓮様が一緒にいないと発動できないから。」と言われていた。

 今になって思えば、このときのためだったのだろう。


 南天に導かれて博多の南に向かう。

 今では継之助も人並み外れた速さで走れるので、朝に町を出て、昼頃には着いた。

 「ここだよ。」

 秘密工場は森の中に隠されていた。

 「こんなところに、こんな大きな工場が。」

 継之助は驚いた。考えてみれば、素人でもスマホで写真を撮ってすぐに拡散できるもとの世界と違い、情報の隠蔽はこの世界のほうが容易なのかもしれない。

 工場の周りには多くの警備兵が巡回している。しかし、継之助はお佳さんや南天と工場を見ながら相談しているが、森の中なので木の精霊術を使って敵から見えないよう、聞こえないようにしている。精霊術が使えると、いろいろと便利だ。

 「これだけ大きな工場だと、普通の精霊術でどうにかなるとは思えないなあ。やはり大規模精霊術を使ったほうが早いと思う。」

 「そうだね、私もそう思うよ。あっ、木蓮様が来られたみたい。」

 南天が宙を見上げると、木蓮の姿があった。

 「継之助さん、お久しぶりです。お佳さんは初めてかしら。」

 ひとしきり挨拶をすると、継之助は木蓮に状況を話した。

 「ここが戦車をつくる秘密の工場ですね。確かにこれだけ大きなものを何とかしようとするなら、大規模な術が必要でしょう。」

 「はい、分かりました。宜しくお願いいたします。」

 継之助は集中して術を発動する準備を始めた。

 まず、周囲を視覚ではない精霊の感覚で把握して、術を発動する工場の範囲を決める。その作業は南天がサポートしてくれた。

 次に、自分の中の精霊力を引き出して練り上げ、大規模精霊術に必要な形に転換していく。このプロセルは木蓮が導き、さらに周囲から精霊力を集めてくれる。継之助の精霊力は人外の域に達しているが、それでもこの術を発動するには足りない。

 目を閉じている継之助の体は淡く発光し、膨大な木の精霊力が集まっていく。

 「これは凄いね。隣にいるだけで威圧感がある。」

 継之助の精霊術の強力さを知っているお佳さんも驚きを禁じ得ない。

 やがて継之助は目を開いた。その目は緑色に輝いていた。

 「時の歯車よ回れ。地から生まれた樹木は再び地に戻る。再び芽吹くために眠れ、森に生まれし樹木たち。」

 呪詞を継之助の口が紡ぐと、膨大な精霊力の圧力が強まった。

 それは、お佳さんは立っているのもつらくなるほどだった。

 「輪廻流転」

 継之助が術を発動すると、精霊力が爆発的に広がり、工場を覆っていく。

 「な、何だこれは。」

 「一体何が起こっている。」

 警備兵たちが驚愕する中、工場に使われている木材は急速に枯れていき、やがて粉になり、風に吹かれていった。

 金属製の装置が多いといっても、工場の建物には多くの木が使われている。また、警備兵が持っている小銃にも木の部品がある。

 それらがすべて粉になって散って行ったことで、工場は崩壊した。警備兵たちの持っていた武器も使えなくなった。

 これで危機は未然に防がれたかのように見えた。


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