夏至三 未来視
梅雨の合間に、久しぶりに太陽が顔を出した。
良いものが見られるから出掛けようと金剛に誘われ、承の助とお佳さんは郊外の川に出掛けた。
万吉に加えて、師匠とめいちゃんも付いてきた。
「金剛さん、今日は何を見に行くんですか。」
見てのお楽しみだと言って、金剛は何を見に行くのか教えてくれていなかった。
「はは、もうすぐ分かるよ。」
星でも見に行くのかなと承の助は思った。この世界は、もとの世界よりも星がよく見える。
「夏の夜に川に行くといえば、分かりそうなもんだけどねえ。」
「分かりそうなもんだを。」
師匠の言葉にめいちゃんも乗っかったが、本当に分かっているのだろうか。
やがて、川沿いの小道に着いた。
小道には浴衣を着た人たちが他にもいる。
日が暮れて、あたりが暗くなっていく。
すると、小さな光が川の上にぼんやり浮かび始めた。
「ホタルしゃんだ。」
めいちゃんが叫び、承の助は合点がいった。
ぽつぽつと見えていた光は次第に数を増し、やがてあたりを数多の蛍が乱舞し始めた。
まるで星が降ってきたような幻想的な光景だった。
承の助は立ち尽くして、しばらく見惚れていた。
「どうだい、綺麗だろう。蛍の舞いは素晴らしいよね。僕はこの光景は、国の宝だと思うんだよ。」
嬉しそうに言う金剛さんに承の助は深く頷いた。
「綺麗ね。」
お佳さんは、承の助の隣で蛍を静かに見ていた。
普段はきりっとした印象の強いお佳さんだが、このときばかりは、儚い笑みを浮かべる横顔が綺麗だった。
師匠はめいちゃんが蛍を追いかけるのを微笑んでみている。
承の助は、この世界に来て良かったと改めて思った。
蛍を見に行った翌日、青葉が師匠を訪ねてきた。
「おや、今日は稽古の予定はなかったと思うけど、どうしたんだい。」
「はい、実は久しぶりに予知夢を見たんです。」
青葉は少し蒼褪めているようだ。
「おや、そうかい。立ち話もなんだから、中にお入り。」
師匠は青葉を稽古場に招きいれた。
「急にお邪魔してすみません。でも、早くお耳に入れた方が良いように思って。」
「何か深刻な話のようだね。自分一人で抱えているのがつらいことは、誰にもあるもんだよ。」
「ありがとうございます。実は、私の見た予知夢では、博多のまちを石炭を燃やす車が走り回っていました。」
「石炭を燃やす車かい、海の向こうの英吉利では増えてるらしいねえ。でも日本では精霊から止められているはずだね。」
「ええ、自然に宿る精霊は、自然を壊す石炭を燃やす内燃機関を嫌っています。でも、私の視た未来では、精霊の嘉するこの国の在り様は変わってしまっていました。
予知夢はそれだけじゃありませんでした。獣人たちは襤褸を着て、痩せていて。中には鞭打たれている人もいました。」
「おやまあ、それは酷い夢を視たねえ。」
俯く青葉の後ろに周り、師匠は背中を撫でた。
「未来が視えるってのも大変だね。だけど、青葉ちゃんの視た未来は変えることができるんだろう。そんな酷い社会はあたしらも御免だよ。」
「はい、私が視るのは、未来の可能性の一つだと思います。」
「それじゃあ、何とかしないとねえ。実は、名のある精霊も不穏な空気を感じると言ってたし、万吉も政治屋の悪巧みをつかんできたんだよ。青葉ちゃんの視た予知夢のことはみんなに伝えておくよ。」
「ありがとうございます。皆さんも悪い気配を感じ取っていたのですね。師匠の家には力のある人や精霊が集まっています。何とか未来を変えてくれると良いのですが。」
「ああ、承の助やお佳ちゃんには名のある精霊が力を貸してくれてる。うちの人も何とかしようとしてるよ。」
青葉にはそう言ったものの、師匠はできれば若い承の助やお佳さんには負担をかけたくないと考えていた。
実は護民官には個人的な人脈もある。何とか大人が事態を解決できると良いと師匠は思った。




