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芒種二 蛟~水の精霊

 ある日のこと、いつものように南天から木の精霊術を教えてもらおうと思ったら、「今日は出掛けるよ」と言われて、鈴木は郊外の森の奥を進んでいた。

 「こんなところで何をするんだい。」

 「私も詳しくは知らない。でも木蓮様からここに行くようにって思念が伝わってきたんだ。」

 鈴木の質問に、南天は自分も知らないと答えた。

 木蓮に近い存在である南天は、木蓮の思念を感じることができるようだった。

 「どうもこの森の奥に何かが待っているらしいんだ。」

 「そっか。木蓮さんがいうなら、そこに行く意味があるんだろうね。」

 取り敢えず納得した鈴木は、南天の後を黙々と進んでいく。

 やがて視界が開け、池のほとりに着いた。

 「こんなところに池があったんだ。何だか蛙が飛び込みそうな古い池だねえ。」

 鈴木が感心していると、池の中から大きな蛇のような水色の半透明のものが現れた。

 「誰じゃ、わしの池に踏み込むのは。早う立ち去れ。」

 鈴木は驚いて謝ろうとしたが、南天は鈴木の動きを制した。

 そして片膝を付いて右腕を左胸に当て、口上を述べた。

 「お初にお目にかかります。我は木の精霊の一統に連なる南天と申すもの。木の大精霊たる木蓮様の思し召しにより、この地に参りました。」

 すると、蛇のようなものは初老の男性に姿を変え、南天の礼に応えた。

 「お初にお目にかかる。我が名は蛟。水の精霊の一統に連なる者じゃ。今はこの古池を棲みすみかとしておる。」

 なるほど、大蛇じゃなくて水の精霊なのか。道理で半透明の姿をしているわけだと鈴木は思った。

 「して、木蓮殿の側近であるそなたが、このようなところに何用で参られた。」

 「木蓮様は、この人をこの地に案内するように言われました。おそらく、みずち殿に引き合わせたいということかと。」

 「ほう、この人間をの。」

 蛟は目を細め、鈴木をじっと見た。

 人の姿になった蛟は、綺麗な白髪をしていて老人の姿だったが、整った顔立ちには気品があり、落ち着いた雰囲気を纏っていた。

 「成程、これはまた凄い霊力の量じゃの。それに随分心地の良い霊力じゃ。木蓮殿が気に入る訳じゃの。

 ふうむ、どうやらこの世界の人間ではない様子。何やら人界に不穏な空気があるしのう、世界の織り手が裏で動いておるのかもしれぬ。」

 ぶつぶつと言っていた蛟は、一転して穏やかな表情で鈴木に話しかけた。

 「鈴木殿、いや今は承の助殿と呼ぶべきか。汝はどうやら大きな時代の渦に巻き込まれていくようじゃな。良かろう、儂もそなたに力を貸しても良い。」

 蛟は鈴木のことを承の助と呼んだ。精霊は人の本質を見る。そして名前には意味がある。この世界に転移してから多くの人と関わり、自分の居場所を見つけたことで、鈴木はこの世界の人間になりつつあった。


 「ただし、試練を受けてもらう必要がある。」

 「試練ですか?」

 木蓮の加護を受けるときも、南天の力を借りるようになったときも、試練のようなものはなかったので、承の助は戸惑った。

 「名のある精霊は力を貸す前に試練を課すのが普通なのよ。木蓮様は直感で決めたみたいだし、私は木蓮様の指示を受けてお兄さんに力を貸すことにしたから、試練は課していないけど、それは特別なのよ。」

 「そうだったんですか。何だか「ずる」をしたみたいで、申し訳ないです。」

 承の助は生真面目な性格なので、何だか申し訳ないような気分になった。

 「ほう、木蓮様も南天殿も試練を課しておらなんだか。じゃが、試練を課すのは我らの仕来りなのでのう。」

 「木蓮様と私の対応は特殊ですから。どうか気になさらないでください。ただし、この人は普通ではありませんから、試練の際はお気を付けください。」

 自分は普通の人間だと思っている鈴木は、南天は変なことを言うなあと思ったが、ともかく試練を受けようと思った。

 「蛟さん、どうぞ宜しくお願いします。」

 「それでは、まずは場所を移しましょうかの。」



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