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小満四 青葉の弟子入り・万吉と猫又

 ある日のこと、青葉が師匠を訪ねてきた。

 「師匠、お久しぶりです。先日は、うちの子の救出に力を貸して頂き、ありがとうございました。」

 「おや、久しぶりだねえ。お鈴ちゃんは元気かい?」

 攫われた雀の獣人の女の子はお鈴ちゃんと呼ばれていた。

 「ええ、お陰様で。しばらくは夜一人で眠れない様子でしたが、今は元気です。もともと陽気で楽天的な子なんです。」

 「それは良かった。ところで、今日は何か用かい?」

 「実は、一つお願いがあって参りました。私を弟子にして頂けないでしょうか。」

 「おや、急にどうしたんだい。小唄に興味があるのかい。」

 「はい、私も日本の音楽に興味があります。でも、師匠には本当のことをお話ししたいと存じます。」

 青葉は居住まいを正した。

 「私はもとの世界では巫女をしていました。実は予知夢を見ることがありますし、不十分ながら未来を感じることができます。この地を黒い影が覆う予感がします。一方、師匠のお宅には力のある良いものが集まる感じがしています。」

 「私はもとの世界では、世界の調和の守り手の一人でした。こちらに来たばかりで僭越とは思いますが、少しはお役に立ちたいんです。」

 「この世界の人間には獣人を差別する人がいて、お鈴ちゃんが攫われたときは、嫌な世界に来てしまったと思いました。でも、師匠や護民官はさほど縁の濃くない獣人の救出のために一生懸命になってくれていました。

 承の助さんのような凄い力のある精霊師も獣人のことを大切に考えてくれて、良い世界だなと思えるようになったんです。

 いろいろ考えましたが、このお宅に集まる方たちのお手伝いをするため、自然にここに伺うには、師匠の弟子にして頂くのが一番良いと思った次第です。」

 不躾なお願いですみませんと青葉は頭を下げた。

 「やめとくれな。そんな大仰な格好されちゃ、断れないじゃないか。」

 師匠の言葉に、青葉は嬉しそうな表情を浮かべた。

 「仮にも弟子って形をとるんなら、稽古は手抜きなしだよ。」

 「もちろんです。小唄にも本当に興味はあります。」

 「ああもう、『にも』の『も』が気に障るんだよ。しかし、黒い影かい。あたしゃ面倒ごとはご免なんだけどねえ。」

 師匠は深いため息をついた。


 雲が月を覆う夜、博多の中心にある承天寺の屋根の上を一匹の猫が疾走していた。

短い手足を一杯に伸ばし、小柄な体に似合わぬ速さで駆けるその猫は、万吉だった。

やがて足を止めると、厳しい目つきで虚空を睨んだ。

 「そこにいるのは分かってるにゃ。出てくるにゃ。」

 「おや、私の隠形が分かるのかい。小さいのに大したもんだねえ。」

 闇夜の中から現れたのは、大きな猫だった。

 「隠形は僕も得意にゃ。でも凄い隠形だから、かろうじて分かったにゃ。僕はそこまでのことはできないにゃ。」

 「そうかい、嬉しいことを言ってくれるねえ。まあでもあたしは何百年も生きてるからねえ。いつの間にか猫又とか呼ばれるようになったしさ。」

 猫又は前足で顔をなでた。

 「ところで、あたしに何か用があるんじゃないのかい。」

 「そうにゃ、実はこの町に猫の情報網を作ろうとしているにゃ。このところ、人の間に不穏な動きがあるのは、猫又さんならお見通しのはずにゃ。ぜひ力を貸してほしいにゃ。」

 「ふうん、不穏な動きねえ。人はよく悪巧みをする生き物だからねえ。でも確かにこのところ、おかしな感じはあるね。精霊たちもぴりぴりしているし、みづちの爺さんも森の古池から出てきたみたいだねえ。」

 猫又は顔を前足でこすった。

 「見たところ、あんたこの世界の猫じゃないね。異世界から来た猫がどうしてそんなにこの世界の人のことを気にするんだい。」

 「僕は獣人にゃ。この間、悪い人間たちに捕まったとき、助けてくれた人間たちがいるんにゃ。どうもその人たちがこれから動乱に巻き込まれそうな感じがするにゃ。今度は僕が彼らを助けたいにゃ。」

 「そうかい、そりゃ律儀なこって。」

 「僕は見ての通り、戦闘では役に立てないにゃ。でも、猫は敵に気づかれずに潜んで情報を得られるにゃ。街中どこにでも猫はいるから警戒されないし、猫の情報を集めれば、たいていの動きは掴めるはずにゃ。」

 「ふふ、若猫らしい気負いだねえ、そういの嫌いじゃないよ。猫も年輪を重ねれば、戦闘でも負けないよ。まあでも、あんたは戦闘で頑張る必要はなさそうだけどね。随分強そうな精霊師が二人いるようだし。」

 猫又は笑った。強大な力を秘めた猫又は迫力があって怖いが、笑うと意外に可愛いなと万吉は思った。

 「いいだろう。ここいらの猫にあんたに協力するように言っとくよ。情報を集めるくらいなら問題ないさ。犬や梟に負けないように頑張りな。ところで、さっき失礼なこと考えただろ。あたしは若い頃から可愛いって評判で、承天寺小町と呼ばれたもんさ。レディを怖がるとか、失礼だよ。」

 「ありがとうございますにゃ。それにしても、さすがに猫又は全てお見通しなのにゃ。」



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