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小満三 庭造りは地道に

 地の精霊の力を借りられるようになったことで、お佳さんは無茶な鍛錬を止めた。

 土雲の指導で地の精霊術の訓練はしているが、焦りがなくなり、きちんと睡眠もとるようになった。

 次第に元気な姿に戻っていくお佳さんに、師匠夫妻をはじめ周囲はほっとしていた。

 今日は気分転換のため、庭師の金剛さんを手伝いに来ていた。

 とある豪商が古くなった屋敷を立て直し、庭も作り直すという依頼を受け、金剛さんは張り切っていた。人手がいるだろうと思われ、弟子の鈴木だけでなく、お佳さんにも声をかけていた。

 「いやあ、広い庭だね。大変だけど遣り甲斐があるよ。」

 手を腰に当てて庭を見回しながら、金剛さんはご機嫌だった。

 「全部済ませるには一週間はかかるかなあ。」

 「よし、まずは基本的なことから始めよう。」

 金剛さんはお佳さんに、樹木を植え替える場所に穴を掘るように依頼した。

 「分かった。任せて。」

 お佳さんも久しぶりに穴を掘れることで張り切っているようだった。

 スコップで穴を掘っていると、初夏の日差しに汗が出てくる。

 お佳さんが汗を手拭いで拭っていると、土雲が声をかけた。

 「どうしてわざわざ苦労して穴を掘ってるんだ。」

 「ん、どうしてって。木を植えるため。」

 「いや、俺が言ってるのは何のために穴を掘ってるかじゃなくて、どうしてスコップで汗水たらして掘ってるんだってことだよ。」

 「何かおかしい?」

 「おいおい、あんたは地の精霊術が使えるんだぜ。土に穴くらいすぐに開けられるだろうが。」

 「ああそうか。それもそうね。」

 お佳さんは指示された場所に精霊術で穴を開け始めた。スコップで掘るのと違い、すぐに大きな穴が開いていく。

 半ダースばかりの穴が開いたのを満足そうに見回すと、お佳さんは金剛さんが作業している場所に行った。

 「金剛さん、頼まれた穴は掘った。」

 「え、もう掘り終わったのかい?今日一日くらいかかると思ったんだけど。」

 金剛さんは驚いて顔を上げた。

 「ちょっと見せてもらっていいかい?」

 「もちろん。」

 穴を掘るよう頼んだ場所に、金剛さんはお佳さんと一緒に歩いて行った。

 「うわ、本当に掘り終わってる。どうやったらこんなに早く掘れるんだい。いくらお佳さんが穴掘り名人といってもねえ。」

 金剛さんは首を捻りながらも、穴の状況を確認した。

 「うん、全部指示通りに掘ってもらってるよ。ありがとう。」

 「ただねえ、こうしてみると、右から2つ目の穴はもう少し奥が良かったかなあ。これは僕の指示がまずかったんだから、後で僕が掘り直すよ。」

 「ん、すぐにできるよ。」

 お佳さんは土の精霊術を発動して、穴の位置をずらした。

 「え、え、え。今のは何?何が起こったんだい。」

 金剛さんは困惑した。

 「土の精霊術を使ったの。」

 「土の精霊術?お佳さん、いつの間に精霊師になったのかい。」

 「うーんと、一週間くらい前かな。」

 「そ、そうなんだ。いや、作業が速くて助かるよ。」 


 その頃、鈴木はもとから植わっている木の枝を少し切っていた。

 金剛さんの考えに沿って、もう少し木の後ろが見えるように刈り込んでいく。

 「もう少しかな。いや、もうちょっと切ろうかな。」

 迷いながら切っていく。

 「あれ、右側に比べると左側は切り過ぎちゃった。もう少し右側も切るか。」

 庭師としての経験がまだ足りない鈴木は、初心者の理髪師が髪を切り過ぎるように、つい枝を切り過ぎていた。

 お佳さんの様子を見てから戻ってきた金剛さんは、鈴木の切っている木の様子を見ると、慌てて走ってきた。

 「承の助君、ストップ、ストップ。」

 両手を広げて、切るのを止めるように全身で表現した。

 「うわー、ちょっと切りすぎちゃったね。」

 「すみません。左右のバランスが悪くなって、つい。」

 「いや、初心者にはよくあることだよ。もっと僕が注意すれば良かったね。」

 謝る鈴木に対し、金剛さんは怒ることはなかった。このあたりの人の良さが、庭師としての腕以上に鈴木が尊敬しているところである。

 「初心者のミスをカバーするのもベテランの腕の見せ所だよ。」

 金剛さんは爽やかな笑顔を見せると、考え込んだ。

 「うーん、20センチくらいずつ切り過ぎたかなあ。どうやって修正するかなあ。」

 「20センチずつくらい切り過ぎですね、分かりました。」

 鈴木は明るく返事をすると、木の精霊術を発動して、木に話しかけた。

 「切り過ぎてごめんね。左右の枝を20センチずつ伸ばしてくれるかな。」

 鈴木に応えて、木は枝を伸ばす。

 目の前の木が枝をみるみる伸ばすことに、金剛さんは慌てた。

 「え、え。どうしちゃったんだろう。枝がどんどん伸びていく。僕の目はおかしくなったのかな。」

 「金剛さんの目はおかしくないですよ。木の精霊術で枝を伸ばしてもらいました。これくらい伸ばせば大丈夫ですか。」

 鈴木は笑顔で金剛さんに説明した。

 「そ、そう。木の精霊術なんだ。うん、これくらいの長さなら大丈夫かな。」

 金剛さんの目は虚ろになっていた。


 予定より早く作業を終えて、とぼとぼと帰っていく金剛さんを見送りながら、鈴木とお佳さんは反省していた。

 「お佳さん、何だか金剛さんには悪いことしちゃったみたいだね。」

 「そうね。あまり精霊術は使わない方が良いかも。」

 「うん。考えてみれば、庭師としては反則だよね。」

 「土の精霊術で穴をあけても、穴を掘った実感がなかった。何だか物足りない。」


 翌日、二人は金剛さんにお詫びをして、どうしても必要なとき以外は精霊術を使わないことを話した。

 その日は三人で汗を流しながら、庭と格闘した。

 作業の後で、金剛さんは二人を飲み屋に誘ってくれた。

 「やっぱり、汗をかいて苦労した方が庭を作った実感があるね。働いた後のビールは旨いね。」

 笑顔でビールを飲む金剛さんを見ながら、鈴木とお佳さんは、普段の生活では精霊術をなるべく使わないようにしようと思うのだった。



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