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小満二 土雲~お佳さんと地の精霊

 いつものようにお佳さんが森の中で感覚を研ぎ澄ませていると、微かに不思議な気配がした。

 お佳さんは、気配を辿って木々の間を駆け抜けると、その者に槍を突き付けた。

 「うわ、あんた、俺のことが見えるのか。」

 振り返ったのは、逞しい体をした男性のようだった。

 「ようだった」というのは、その者の体は半透明だったからだ。

 「人みたいだけど、怪しい。いったい何者?」

 「俺は地の精霊の土雲つちぐもだ。俺の姿は人には見えないはずなんだがなあ。」

 土雲はじっとお佳さんを見つめると、精悍な顔に面白そうな色を浮かべた。

 「ほう、随分鍛えてるじゃないか。霊力の量はなかなかだし、質は随分と良いな。そのおかげで俺が見えたみたいだな。」

 土雲は、褐色の肌に縮れた黒髪がよく似合う、野性味が強いが、どこか大人の色気のある風貌だった。そして、獣人のような尾を持っていた。

 「あんたがそうまでして鍛える理由は何だい?」

 「私はそれなりに強いつもりでいたけど、全然駄目なことが最近分かった。自分の周囲の人を守れるくらい強くなりたい。」

 「そうかい、守るためか。うんうん」

 土雲はしばらく唸ってから、膝を叩いた。

 「よし、それじゃ俺が力を貸してやろうか。あんたは俺と同じように尾があるのも気に入った。

 ただ、俺の教えを受けるには試練に合格する必要がある。ちっと危険もあるんだが、受けるかい。」

 「受ける。私は強くなりたい。」

 「即答かい。いいねえ。まあ、あんたなら大丈夫だろ。それじゃ、いくぞ。」

 

 「ここは、どこ。」

 お佳さんは周囲を見渡した。何も無い白い世界が広がっている。

 「ここは物質界と精霊界の狭間の一つだ。物質界で試練を課すのは難しいんだよ。」

 土雲の声がした。

 「さあ、構えな。」

 土色の獣のようなものが現れ、お佳さんに襲い掛かってきた。

 お佳さんは反射的に身を躱し、振り向きざまに槍を振るった。槍を受けた土色の獣は消えたが、いくつもの土色の獣が周囲に現れた。

 槍をいくら振るっても、土色の獣はいくらでも湧いてくる。お佳さんの額には汗の玉が浮き、次第に余裕がなくなってきた。

 「ただ槍を振るうんじゃ駄目だ。自分の中の霊力を意識するんだ。物質界よりもここの方が意識しやすいはずだ。」

 そんなことを言われても、周りを囲まれた状態で落ち着いて自分の中に意識するなんて無理だとお佳さんは思った。

 「考えるんじゃない、感じるんだ。力はお前の中にある。」

 「力が私の中に?」

 お佳さんは四方から襲ってくる獣に対応するので精一杯だった。

 だが、踏み込んで槍を振るうときにお腹に力が入れたら、そのとき暖かい何かを感じた。丹田のあたりに意識を向けると、力が湧いてくるような気がした。

 「それだ、それを全身に巡らせるんだ。」

 土雲の声のとおり、お佳さんは湧いてきた力を手や足にまで巡らせるよう意識した。

 土雲が指を鳴らすと、土色の獣は消えた。どうやらお佳さんが力を扱うことに集中できるようにしてくれたらしい。


 最初はうまくいかなかったが、何度も繰り返すうちに、お佳さんは丹田から湧く力を手や足の先にも巡らせることができるようになった。

 「だいぶできたようだな。よし、じゃあ実践だ。」

 再び四方から土色の獣が襲ってきた。

 「体が軽い。手足が速く動かせる。」

 今度は苦も無く四方の獣に対応できる。

 「あっはっは、できたな。それが精霊術の基本の身体強化だ。」

  土雲は豪快に笑った。

 「よし、合格だ。」


 気づくと、白の世界から、もといた森に戻っていた。

 「試練は合格だ。これから俺が地の精霊術を教えてやる。」

 土雲は精悍な顔をくしゃくしゃにして、白い歯を見せて笑った。



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