清明三 万吉の捜索
「貴方の探している人は、万吉さんという猫の獣人ですか。」
「はい、そのとおりです。どうかよろしくお願いします。」
鈴木は深々と頭を下げた。
木蓮はしばらく目を瞑り、何かに耳を傾けている様子だったが、やがて微かに頷いた。
「どうやらこちらの方角のようです。さあ、行きましょう。」
重さを感じさせない動きで木蓮は宙に舞い上がった。鈴木は慌てて木蓮の後を追った。
神社を出て田んぼの畦道を走り、草原を抜け、やがて雑木林の前に着いた。
空中を舞うように飛ぶ木蓮を追いかけて鈴木は走り続けた。
運動部でもなかった鈴木は足が早くなかったが、体の芯から力が湧く感じがして、なぜか疲れることはなかった。
追いついてきた鈴木に木蓮は微笑んだ。
「草原の精霊が教えてくれました。この近くに獣人たちが連れて来られたと。」
雑木林の中の一際大きなクヌギの木に近づき、木蓮はたずねた。
「このあたりで猫の獣人を見ましたか。」
「これは木蓮様。お久しゅうございます。」
太くて低い声で返事があった。
「昨晩、眠っている様子の猫の獣人が人間にかつがれて、この雑木林の奥の小屋に入っていきましたな。」
木蓮は林の奥に目を向けた。
「林の奥の小屋ですか。ああ、獣人たちの気配があります。猫の獣人の男の子もいますね。その近くに人の気配がします。」
どうやら木蓮は気配だけで状況が分かるらしい。
目をこらすと、鈴木にも古い小屋が見えた。この小屋の中に万吉さんは捕まっているのだろうか。
木蓮が鈴木の目に手をかざすと、小屋の中に怯えている獣人たちの姿が脳裏に浮かんだ。
「うわ、これは小屋の中の映像ですか。」
万吉さんは小さな女の子に寄り添っていた。
獣人たちを助けるにはどうすれば良いだろうと鈴木は考えた。
おそらく小屋には見張りがいる。それも一人じゃなく、数人いると考えたほうが良いだろう。戦う力のない自分一人で助け出すことは難しい。
「どうしますか。誰かに話しに行きますか。」
木蓮は、鈴木の考えを読んだかのように声をかけてくれた。
「はい。僕一人では万吉さんを救えないと思いますので、護民官や師匠に報告したいと思います。」
「そうですか。では、少し急ぎましょうか。」
木蓮が鈴木の手を取ると、鈴木の視界は緑一緒に染まった。
次に見えたのは、師匠と護民官の家だった。
「うわ、どうしてここに戻ってるんだ。」
「ふふ。少し急ぐと言いましたよ。さあ、貴方の話を待っている人がいるのではありませんか。」
「そうでした。」
鈴木が家に飛び込むと、奥から師匠の切羽詰まった声が聞こえた。
「万吉がどこにいるのか、まだ分からないのかい。」
「役所の皆もいろいろ当たってくれてるんだが、手がかりが掴めないんだ。警察にも協力を要請したし、やれることはやってる。」
護民官の話を聞いて、お佳さんは悲痛な表情を浮かべた。
「もう一度探しに行ってきます。」
「お佳ちゃん、あんた昨晩から一睡もしてないだろ。少し休んだ方が良いよ。」
どうやらお佳さんは眠らずに万吉さんを探していたらしい。
鈴木は急いで暖簾をくぐって廊下に出ると、食堂を抜けて坪庭に面した縁側に向かった。
「お佳さん、師匠、守恒さん、万吉さんの居場所が分かりました。」
「本当?万吉はどこにいるの!」
お佳さんは勢い込んで振り返った。
「神社の左手の草原を抜けた先の雑木林です。他の獣人たちと一緒に雑木林の奥の古い小屋に捕らわれているみたいです。」
「それは凄い情報だね。しかしどうやって見つけたんだい。」
護民官は喜びながらも、不思議そうに尋ねた。
「実は、神社にお参りすると精霊が見えるようになって、精霊に探してもらったんです。自分でも何を言ってるのか分かりませんし、信じてもらえないかもしれませんが、本当なんです。」
「何だって、君は精霊師として覚醒したのかい。」
「お前さん、とにかく今は万吉のことだよ。頭数を揃えて助ける準備をしなけりゃ。」
「おお、そうだな。役所に行って人手を集めてくるよ。」
護民官は急いで役所に向かった。
「わたし、その雑木林に行きます。」
慌てて飛び出そうとするお佳さんを師匠が止めた。
「あんたは少し休みな。無理をすると、いざ助けに行くときに動けないよ。」
師匠はお佳さんを稽古場に連れて行った。




