表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/54

プロローグ

 あれは、もとの世界にいた頃のことだ。

 あの頃の僕は、自分が何の役にも立たないと思っていた。

 別に自分が一番になりたいとか思っていた訳じゃない。

 ただ、自分にも存在価値があると思いたかった。


 ちょうど大学の卒業式が間近に迫っていた頃だった。

 人口は減少して市場が縮小していたところに、地球温暖化の影響で洪水や干ばつが頻発し、不景気は深刻になっていた。

 企業は生き残りのために人件費を削るべく新規採用を絞り込み、就活は茨の道と化した。

 それでも要領の良い友人たちは内定をとってくるが、いくつもの会社からお祈りメールをもらって、心が凍り付いていた。


 「ふーん、そんなふうに悩んでいたんだ。」

 回想していた青年の隣から、不思議そうな声が聞こえる。面白がるような少女の声だ。

 「うん、誰からも必要とされない役立たずだと思っていたんだ。」

 「貴方のような力のある者が役に立たない存在ですか。それはまた驚くべき話ですな。」

 別の声が聞こえた。今度は渋い老人の声だ。

 青年は苦笑しながら答えた。

 「本当ですよ。あの頃の僕は本当に無力でした。今も、そんなに自信はありませんけど。」

 「あはは、まあ、お兄さんが自信まんまんになっても、みんな驚くだろうけどね。」

 少女の声は、今度は僕の頭の上から聞こえた。


 ありがたいことに、僕はこの世界に居場所を見つけることができた。

 別に役に立たなくても、ここにいていいんだと言ってくれた人がいる。

 もとの世界じゃ着たことのなかった着物にも慣れて、下駄で歩くのも少しは上手くなった。

 あまり上手くはないけど、三味線の稽古も続けている。


 人生は何があるか本当に分からない。

 何かきっかけがあれば、意外と人は変われるようだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ