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18.ごめん。ご主人様に呼ばれちゃった

「ハティ。パーティへ戻って俺の世話をしろ」


 体中に包帯を巻かれたアレンが強い口調で告げてきた。

 ここはヒースルの治療院にある一室。

 俺を追放したパーティメンバーが全員揃っている。

 全員が大怪我をしている。


「はい。わかりました……ご主人様」


 ハティが痛みを我慢しているような返事をする。

 体に怪我はない。

 しかし、アレンに心を引き裂かれている。


 俺には……アレンの奴隷への命令を止めることができない。

 俺は……




 ――――




 俺たちがヒースルに着く3日前。

 王城の前で城塞都市クヴェリゲンが危険との知らせを聞き、急いで王城を出た。


 馬車を乗り継いで移動している途中、クヴェリゲンの町にいた人は隣街のヒースルへ避難していると聞き、針路をヒースルへ変更した。


 今のクヴェリゲンは魔物との戦場と化しており、とても危険らしい。


 俺たちはスムーズに馬を乗り継ぐことができ、通常は5日かかる距離を3日に縮めてヒースルへ到着。

 昼にヒースルへ到着し、まだ寝ているリリアンを宿屋へ置いていく。


 けが人はヒースルの治療院へ集められているらしい。

 治療院へ移動すると、聖女ディアナがいた。


 聖女ディアナはハッと俺たちを見つめ、


「お久しぶりです。エルクさんですね。魔角を1体倒したことは聞いております。クヴェリゲンで戦っている人の救援も大事でしょうが、今は人々の治療に力を貸していただけませんか?」


 祈るような視線。


「もちろんだ。そのために来た」

「ありがとうございます」

「だけどさ。ちょっと聞きたいんだが、回復魔法をかければすぐ治せるんじゃないのか?」

「それは……回復魔法が効かないんです」


 聖女ディアナは怪我について説明してくれた。

 ガルアスト砦に現れた魔角は小さな人形を操っていて、人形の攻撃は回復魔法が効かない呪いが込められているらしい。

 今できることは応急処置しかないが、怪我人が多くて1人でも人手が欲しい。ということだ。


 アリアは聖女ディアナと軽く視線を合わせた後。


「回復魔法が全く効かないなんてことはないでしょう? わたくしの全力の回復魔法で治してみせます。一番怪我のひどい方はどちらにいますか?」


 アリアは近くにいたシスターに案内してもらい、治療へ向かう。


「まったく……変わりませんね……」


 聖女ディアナのささやくような声。

 あきれているような言い方だけど、昔からの知り合いか?

 同じプリーストだから会ったことあるのかも。


 俺とハティも治療を手伝うために怪我人がいる部屋に入る。

 入った部屋にはアイツら。俺を追放したパーティがいた。


 勇者候補のアレン、エリート宮廷魔法使いのドロシーと……背の高い女戦士のような見た目のお姉さん。

 大司教の愛弟子ハンナはいない。


 全員が包帯に巻かれてボロボロの格好をしている。

 体を起こしているのはアレンだけで、他は寝ているようだ。

 こいつらも魔角にやられたんだな。


「あん? 急に入って来やがって誰だおま……エルクに……お前あの奴隷か? いい体になったな」


 アレンは包帯だらけの格好でニタニタ笑う。

 ハティを下から上へ舐めるように見る。

 元仲間を見る目じゃない。


 ハティはビクリとして、俺の後ろに隠れる。

 奴隷として命令される立場のハティ。今のアレンの目は恐怖でしかないだろう。


 アレンはハティへ命令する。


「ハティ。パーティへ戻って俺の世話をしろ」


 ハティはうつむいて返事をする。


「はい。わかりました......ご主人様」


 ハティは俺の後ろから、おそるおそる前へ出た。

 奴隷契約の命令は絶対だ。怖くても行くしかない。


 俺には……アレンの奴隷への命令を止めることができない。


 ハティの返事に上機嫌となったアレンは、俺へ憎しみの声を吐き出す。


「あん? なんだその目は? 俺が命懸けで守ってる町でのんきに暮らしてるくせに偉そうにするな!

「追放した俺がケガしてんのを見てお前はざまぁみろって思ってるんだろ? ホントくっだらねー奴だな

「俺が一番前で戦ってたからこんなケガをしたんだぜ? わかってんのか? 俺が戦わなかったら、今頃はこの町も戦場になって死体がゴロゴロしてただろうな。

「わかってんなら、お礼の金やいい女持ってこいよ。ノロマ!

「ムカつく目ぇしてんじゃねぇぞ臆病者!

「そうだ。お前! たまたま弱っていた魔角を倒したらしいじゃないか。お前は運だけはいいな。

「でもな、聞いたぞ。お前は何にもせずにオロオロしてただけで、他の魔法使いが魔角を倒したらしいじゃないか。

「強い仲間に助けられただけのお前が! 周りにチヤホヤされてイイ気になってんじゃねぇぞ!

「お前はまともに戦う力の無い雑魚だってことを自覚しろ!

「ていうか、いつまでココにいるんだ? 失せろ


 コイツ!

 だが、俺が弱いことは本当だ。

 俺が魔角を倒したわけじゃない。


 両脚の力が抜け始めた俺の手を、ハティがスッと握る。

 暖かい手だ。


「後輩君。キミはココにいちゃダメよ。だから、早く出て行きなさい。

「あなたにはあなたの場所があるでしょ。そこに戻るの。

「私もココにいるとダメになる。だから、コイツの怪我が治る前に先輩を迎えに来なさい。

「私の居場所がどこか、あなたなら知ってるでしょ? これは、先輩命令よ」


 ハティは表情を変えず、俺を見つめる。

 その目には信頼があった。


 アレンの怒鳴り声。


「おい。コイツって誰のことだ?」

「わかりません。ご主人様」


 再びうつむくハティ。

 俺は、一度強く手を握り返し、黙ってココを立ち去った。


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