さあやろうか
「ところで、2人はどんな魔法を使うの?」
2人を見つめて、真面目な顔で質問をした。
「俺の魔法は、声だ。物や空間あらゆる場所に音声を設置して、自由自在に再生停止を行うことができる。まあ戦闘には不向きな魔法だが、結構役に立つ。」
「はい、次は私!魔法は泡、小さな泡が出せるの。今は最大で20個の泡を同時に出すことができるんだ。ミラはどんな魔法なの?見た感じ、泥の魔法っぽかったけど…」
「いいや違う。俺の魔法はモノマネだ。相手の魔法を見たら、その技を、俺も使えるようになる。だが、威力はオリジナルより下がるのが、この魔法のダメなところだ。そのせいで俺は…」
家庭の話をすることをためらってしまった。
まだ、自分家庭での出来事が、たまに頭をよぎり、自身を苦しめる。
「どうしたの?」
「いや何でもない。気にしないでくれ…。そうだな、全員の力を合わせれば、この店に客を集めることができるかもしれないな。」
「ホントなのミラ?どうすればいいの?」
アカリが純粋な顔をして、俺に問いかけてくる。
「匂いを使うんだ。このパスタ見た目はあれだけど、香りはすごくいい匂いなんだ。だから、これを町の人々に嗅いでもらい、そして、食べたいという気持ちにさせるんだ。」
「でもどうやって伝えるの?ここに来てもらわないと、匂いなんて嗅いでもらえないし。」
「確かにそうだ。嗅いでもらえなければ、この作戦を成功させることは不可能だ。だから、匂いを能動的に嗅がせるのではなく、受動的に嗅がせてみればいいんだ。具体的な作戦は、こうだ。まず、泡魔法で泡をできるだけたくさん出す。そこに、パスタの匂いと店の宣伝を声魔法で作り、これを泡に設置していく。次に、細工が施された泡を,町の各地に飛ばしていく。そして対象物に接触することにより、泡が破裂する。そして、これがトリガーとなり、匂いと声魔法が発動する。こうして宣伝完了。これで客足が伸びること間違いなしだ。どうかな、2人の意見を聞きたい。」
俺は、自分が頭で考えていたことを事細かく2人に説明した。
「ミラ凄い!私は大賛成だよ。」
「おおー。確かにこれならいけるかもしれない。でも、俺たち2人の魔法だけじゃ町全体に泡を飛ばすことはできないと思うなあ。」
アルジャーノは、俺の作戦の致命的な弱点を突いてきた。
「それは大丈夫。俺が、モノマネ魔法で足りない分を補う。絶対にうまくいくはずだ。」
そこから、作戦実行に向けて練習の日々が始まった。
すべてはこの店のすばらしさを世間に認知させるため…
そして数日後、ついに作戦決行日となった。
この日のために努力をしてきた。
必ず成功させよう。
俺は、そう心で決心した。
「ではいこう」
「ああ」
「うん」
2人の面構えが違うそれほど、この日のために努力を続けていたのだろう。
今日は雲一つない快晴であった。
複数の泡が、宙を舞い、飛び立っていく。
その泡は太陽に照らされ、非常に神々しくそして美しかった。
泡が飛び立ち、数時間が経った。
「そろそろ、夜だね。まだお客さん来ないね。」
アカリの悲し気な発言が、周囲も暗い気持ちにさせた。
最善は尽くしたはずだが、作戦は失敗に終わったかと感じた。
「すみません、この店のパスタ食べさせていただきたいのですが、うまそうな匂いに、ついつられちゃってね。」
年齢は50歳ほど、スーツにシルクハットをかぶった、ダンディな中年男性が店にそろりと入店してきた。
「では、このおすすめをいただくとしよう。」
急なことであったので、兄は、最初は茫然としていたが、すぐに普段通りに戻った。
「ありがとうございます。席におかけになり、少々お待ちください。」
「お待たせしました。当店自慢のパスタでございます。」
「ほう、こりゃまた見たことないパスタじゃのう。ではいただこうか。」
紳士は、パスタの外観にうろたえず、フォークでパスタを巻き取り、そしてそれを、口に運んだ。
俺たち3人は、固唾をのみ、紳士の反応をうかがった。
「うまいのう、長年生きてきたが、こんなうまいパスタは初めてじゃ。あのう、すまんがわしのお願いを聞いてもらえんかのう。」
「お願いですか、私たちにできることがあれば…」
「ほっほっ、そんな斜に構えることじゃないんだよ。わしは様々な国に赴き、料理を評価し、書物に記す仕事をしてるやつでのう。これがまあまあ、売れ行きが良くてのう。」
俺たちは、お互いの顔を見合わせて、にっこりと笑い合った。
「是非この店を紹介してください。お客さんが来なくて困っていたんです。」
「匂いにつられたのじゃが、それは、あなたがたの考えたことじゃろ。泡に香りと声を乗せるとはなかなか粋じゃったのう。今日のために、相当試行錯誤をしたのじゃのう。そんな方たちの店が、繁盛しないわけない。きっとこれから先、この国一番のパスタ屋になるはずじゃ。ではそろそろ、お暇しますかのう。」
紳士は、席を立ち、会計を済ませ、陽気に、鼻歌を歌いながら店の外へと出ていった。
「ご来店ありがとうございました。」
俺たち、3人は感謝の気持ちからか、深々と頭を下げ、数分間それを続けた。
その後、紳士のおかげもあり店は大繁盛、一日数百人のお客が来店するようになった。
しかし、店の繁盛により、とんでもない事態を招いてしまうのである。
「そういえば、ミラの家はどこなんだ?この辺か?」
「いやっ…」
俺は、少しためらってしまった。
自分の魔法が家柄には合っていなかったこと、それが原因で、家から追い出されたこと。
まだ、人に話せるほど気持ちの整理がついていなかった。
「帰る場所がないのか?」
「そう…」
「まあ、事情は分からないが、どうだ、この家で一緒に暮らさないか?三食風呂付きで、かわいいこのアカリと、イケメンの俺と一緒に過ごせる。悪くないだろう?」
アルジャーノは、自分のことを確信しすぎている、いわゆるナルシストだ。
この誘いは俺にとっては、神様の贈り物のようにうれしいことだった。
「いいのか」
「もちろんだ、歓迎する。ただ、このパスタ屋の手伝いはしてもらうがな。」
「ああ。頑張って働くよ。」
こうして俺に、人生二度目の家族ができた。
こんなに心が躍るような、優しい気持ちは久しぶりだ。
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