第三十話 葛藤
第17話リアム目線
「リナ、感じるか?」
リナの手を取り、自分の魔力を少しずつ彼女に流す。
「…ぅう。…はい」
彼女の指先から掌、手首、腕、二の腕、そして肩に流れると、首筋と脇腹を流れて胸に広がるだろう。
「そのまま流れを感じて、最初は指先、そして腕、次に首と胸に分かれるから…そう…そのまま…肺に溜めるように…」
彼女の顔が不快からか歪み、息が乱れ苦しげに喘ぐ。
そろそろ限界だろう。
強く縋るように俺の手を握り返してくる。
この瞬間が俺はなんとも形容し難い気分になる。
『んんっ!…ぅあっ!ぁあっ!!だめだめだめ!』
この時ばかりは彼女はあちらの言葉が出てしまうらしい。
握られた手が離されて、彼女は荒い息を吐く。
「…少し休憩するか。最初の頃より大分魔力を滞留できるようになったな」
あの黒の疾風が出てからリナとはこうして手を取り俺の魔力を流して受け止める練習をしている。
もう1週間になる。
最初の2日は大事をとって練習をしなかったが、その2日共、彼女は悪夢を見て飛び起きた。
リナが起きる前に俺は自分の魔力が引っ張られる感覚がして起きる。
彼女はうなされて目が覚めて、その瞳に涙を溜めて震える声で俺の名を呼ぶ。
大丈夫だ、ここにいる。と頭を撫でて手を握ると落ち着くようだった。
リナを一人にさせるのは心配で、すぐ彼女を安心させる為にも今ではベッドをもう一つ隣に置いて寝ている。
彼女は部屋が狭くなるだ、俺を起こしてしまうことに罪悪感を覚えるようだが、ひと時も離れたくない俺にとっては造作もない事だった。
そして、3日目に練習をしたその日はリナは悪夢を見なかった。そして練習をしなかった日はやはり悪夢を見た。
何故か、彼女にとってのこの苦行をした方が悪夢を見ないらしい。
リナに悪夢を見せるのも、この黒い魔力を彼女に流さなければいけないのも、嫌で仕方がない。
彼女が苦しむ姿を見たくないのに、俺は彼女が俺の魔力を受け入れれば受け入れるほど、彼女が不快な顔で縋り付くように手を握るほど、胸の内に広がるなんとも言えない暗い悦に飲み込まれる。
そのまま彼女の腕を引いて、この腕に閉じ込めて、荒くなった息ごと口付けて飲み込んでしまいたくなる。
もう俺の方が限界なんじゃないかと思う。
彼女は俺がこんな劣情を抱えていると知ったらどう思うだろう。
彼女の匂いが、彼女の声が、彼女の全てが俺を狂わせる。
運命の番なんて本当にいると思わなかったが、あの時、リナの項に触れた時に確信に変わった。
あの痺れるような電流が体を巡った時、リナが俺の運命の番だと訴えかけてきた。いや、最初に会った時にはもう気付いていた。自分の中にある黒い影の正体に。だが、この気持ちを認めたくなかった。
彼女は人族で異世界人だ。
そもそも、この世界の人族は他の種族にある「番」の概念や特性を持たない。
獣人、鬼人、竜人には「運命の番」という遺伝子レベルで唯一無二の存在がいるとされている。
匂いやフェロモンのようなもので嗅ぎ分けたりするらしのだが、番に対する独占欲が強いのだという。
リナはそんな事など何も知らない。
彼女はこの世界に来て失ったものが多すぎる。
これ以上、彼女に何かを強いるのは酷すぎる。
俺はリナのそばにいない方が良いのかもしれない。




