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第二十六話 真実

第十話、第十一話(途中)のリアム目線&後半はエレーヌ目線


 

 朝、リナが寝室に運ばせたことを申し訳なさそうに眉尻を下げて謝罪と感謝を述べてきた。


 「リアム、ごめんなさい、私寝た。ベッドに運ぶ、ありがとう」


 「気にするな」


 彼女の頭にポンと手を置いてすぐキッチンに向かった。


 「エレーヌは来る?」


 隣に来て見上げて聞いてくる。いつも彼女の距離感が近くて不意に怪我などさせないか気が気でない。

 

 「もうすぐ来る。座ってろ」


 椅子を指差して座っているように言う。




 今朝の朝食時にリナが野菜をフォークで突きながらエレーヌに聞いていた。


 「トマトの色はなんて言う?」


 今朝はリナ達は色の名前を学習するようだ。そういう時は殆どエレーヌが答える。俺はそれを何となく聞いているだけだ。


 エレーヌが目につく物を指差しては色の名前を言っていく。

 

 「トマトは赤、この野菜は緑、この椅子とテーブルは茶色、このコップは黄色」


 そして、エレーヌが閃いたように俺の目を指差してから言った。


 「リアムの目は青よ」


 いきなり話題に上がって驚いているとリナの黒い瞳とかち合った。俺の目を至近距離で覗き込んでくるから居心地が悪く目を逸らしてしまう。


 彼女が反省する様に項垂れたのを視界の端に捉えて、目を逸らした事を少し後悔した。

 それが気になってその日の午前中は何にも身が入らなかった。




 昼の鐘の音が鳴った。


 昼にリナの様子を見に帰ると、彼女が料理をしたと言う。

 彼女の世界のソースのようなもので、マヨネーズと言うらしい。

 あまり気にした事もなかったが、確かにこの世界の食事は味気ないものが多い。今回の彼女のサンドウィッチはボリュームがあって美味そうだった。

 また彼女がハラハラと心配げに胸の前で手を握っていたが、「うまい」っと言って食べていると、嬉しそうに彼女も食事を始めた。

 小動物が頬に食べ物を詰めて食べるように、楽しそうに美味そうに食事をする彼女を見ていると、一人だった時の食事がどんなだったか思い出せない。最低限の栄養補給くらいにしか思っていなかったから特に何も考えないで食べていたんだろう。

 腹も満たされて、嬉しそうにする彼女を見れて、昼は満ち足りた気分で過ごせた。




 そして夕食の時間にはまた彼女の料理を食べれることになった。リナがよく食べていたものらしい。

 今朝も見た、マヨネーズというソースは野菜とも肉ともパンとも合うから食べる手が止まらなかった。

 エレーヌもマヨネーズは初めてのようで感動していた。

 彼女が揚げたという唐揚げも一つたりとも残らなかった。

 空になった皿を嬉しそうに下げている彼女を見ていると、満腹とは違う何かが満たされる気がした。

 彼女が言葉を覚えてこちらに溶け込むように、俺も彼女を通していつもの日常が変わっていく。それが不快じゃないのが不思議だった。



 夕食後にいつもの勉強会が始まった。


 「この子は魔じゅう?名前わかる?」


 リナがノートをエレーヌに見せて聞いている。


 「それは…狼?」


 エレーヌが言った言葉にギクリとした。まさか…


 「おおかみ?この子森で会った。黒の毛で目は青」


 エレーヌがハッとして俺を見上げた。

 「言っていい?」

 「言わなくていい」

 

 さっきまでの幸せな空間がガラガラと音を立てて壊れていく気がした。


 できれば、もっと後に言いたかった。隠すつもりは無かったが、リナを驚かせたく無かったし、拒絶されたらと思うと言えなかった。


 「おしえて!この子、森で会った。私助かった」


 エレーヌが意を決したようにリナに目を向けた。


 「言うな!」


 エレーヌは俺の声を無視して獣化した。


 光りを放つ彼女をリナはエレーヌの名を叫んで抱き締めた。


 リナは腕の中の白い狼を凝視して、エレーヌと同じヘーゼルの瞳を覗き込む。そして、気づいたのだろう。俺を真っ直ぐ見上げてきた。


 彼女の真撃な瞳を目の前にして嘘はつけない。


 諦めて一息つき獣化した。


 彼女がジッと見詰める中、何と言われるか身構えた。


 「リアム、だったんだね。ありがとう。」



 今まで騙していたのかと罵られると覚悟していたが、リナはあっさりとありがとうと感謝を口にした。優しい彼女のことだから、そう言ったのかも知れないが、肩の力が抜けて酷く安堵したと気付く。


 エレーヌと俺は獣化を解いた。


 「これも魔法なの?」


 エレーヌに獣人という人型と獣型の両方を取れる種族だと説明されてリナは黙り込んだ。


 その沈黙がやけに長く感じて嫌な汗が背中を流れる。


 彼女はああは言ったが、人族でましてや異世界人の彼女には衝撃的だったろうか。

 

 ここを出たくなったかもしれない。


 そう考えだすと目の前が真っ暗になった。



 「今まで黙っててごめんね。時が来たら言おうと思ってたんだけど…」


 エレーヌが申し訳なさそうに言うと、人族の自分が一緒で迷惑がかからないかと不安そうにしていた。


 彼女が何か言う前にここから離れたかった。何も言わずにふらりと部屋に向かう。



 「エレーヌ。私なるべく早く、ここを出て働く。リアムの迷惑、ならないようにする」


 部屋のドアが閉まる前に聞こえてきた彼女の言葉に体が強張る。ドアに背を預けてしゃがみ込んだ。


 やはり、彼女はここを出たいのか…


 予想していたはずなのに衝撃が大きく、頭が働かなかった。




 しばらくして、エレーヌが帰るのか、玄関に張っていた結界を抜けたようだった。


 ふらりと立ち上がって玄関に向かう。

 玄関先で急に振り向いたリナとぶつかった。


 「ごめんなさい」


 涙目で鼻を押さえている。怪我をしていないだろうか?


 「大丈夫か?」

 「大丈夫! 2人とも、気をつけてね」


 彼女は俺を見ずに横をすり抜けた。


 避けられた…?


 一瞬、頭を殴られたような衝撃があって、動けないでいた。

 

 その後どうやってエレーヌを送ったかあまり覚えていない。






 上の空でトボトボ歩くリアムを振り返る。これじゃ、どっちが送っているかわからない。


 ため息が出る。

 

 「もう…別に送ってくれなくていいよ。心配なんでしょ。リナが」


 「彼女も一人の方がいいだろう」


 力なく隣まで歩いて来た兄を見上げる。


 「…ちょっと!しっかりしてよ!リナは獣化なんて気にしてないよ?迷惑掛けたくないって言ってたけど、リアムから離れたいわけじゃないからね?働きたいのも、欲しいものがあるんだよ。それにリアムがベッドで寝れないのも気にしてたわけで…」


 必死にフォローを入れるが、今の兄には届かないだろう。


 「明日、リナと街に行って、色々教えてやってくれ。これで、好きな物があるなら買えばいい」


 そう言って、お金や魔石が入った巾着を手渡して来た。


 「もー!話聞いてる?そういうのは自分で渡しなよー」


 顔をしかめながら巾着を彼に押し返す。


 「いや、彼女は気を遣って受け取らない可能性がある」


 目を伏せて無表情で見下ろしてきた。


 「あー、確かに。リナは優しいもんね。わかった」


 今の兄に何を言っても無意味だろうと諦めて巾着を受け取った。




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