第二十五話 ここにいる
第9話リアム目線ですが、後半はリナに変わります。
夕飯の時にエレーヌがリナに歳を聞いた。
「リナは歳いくつなの?」
「とし?何?」
「私は14、リアムは23よ」
リナは聞いたことのある単語を頭の中で結びつける様に天井を睨んだ。
思い当たるものが見つかったのか、パッと表情が晴れた。
昼間、数字を覚えるのに苦戦していたのを知っているが、彼女は学習した単語が分かると、こうして表情が明るくなる。
エレーヌの言った数字がわかったようで「18」と答えた。
幼い顔立ちだとは思っていたが、予想より上だった。
エレーヌが口をあんぐりとさせて「同い年くらいかと思った…」と言っているのを聞いて、彼女は言われ慣れているように苦笑いした。
夕飯の後は、エレーヌと動詞を勉強していた。
リナが身振り手振りコロコロと表情を変えて聞いている。
くすくすと女同士で二人は笑い合いながら、彼女が色んな動作をしてはエレーヌが答えて、彼女はノートに書き込んでいく。
ノートに描いた絵を見せて、またくすくすと二人で笑い合う。
その光景を見ていると心が凪いで穏やかで温かい気持ちになる。
ずっとこのまま、こんな日常が続けばいいと思う。
エレーヌの帰る時間になり、送るために席を立つ。
この辺は街から離れているので特に暗くなる。
一緒に出て来たリナも外の様子を見て顔色を暗くした。
不安げに揺れる瞳で見上げて来る。
「リアムも行く?私ひとり?」
彼女の癖だろうか、不安な時、彼女は胸の前で手を握る。
「エレーヌを送っていくだけだ。すぐ戻る。リナは先に寝ていろ。外には出るなよ。わかったな?」
彼女はふと何かを我慢し、押し隠すようにスッと大人びた表情をする。
「わかった。家から出ない。リアムを待つ」
彼女の歳がそうさせているのかもしれないが、気丈に笑って見せる彼女に胸が締め付けられる。
彼女は手を振って送り出しはするが、ずっと姿が見えなくなるまで見送る。
小さくなっていく彼女の不安げな顔に後ろ髪を引かれる思いでつい早足になる。
「ねぇ、心配なら私はもうこの辺でいいよ」
エレーヌが呆れ顔で言った。
揺り起こされて目が覚めた。
「お母さん!なんで起こしてくれなかったの?」
ここは、家のリビングだ。
長い長い夢を見てた気がする。
「今更、徹夜したってダメよ。日頃からしなさいって言ってるでしょ。ほら、早く朝ご飯食べちゃって」
そう言っておでこを小突かれた。
もー。と額を押さえてダイニングテーブルに座ろうとしてギクリと動きを止めた。
家のダイニングテーブルじゃない。
一冊のノートを手に取って周りを見る。
そこは家のリビングではなく暗闇で、母の姿はもうどこにもなかった。
『…お母さん?どこ?』
振り向くと、1匹の狼が座ってこっちを見ていた。
『あ、あの子は…?』
すると、狼は小さな光に向かって歩き出した。
『行かないで!』
暗闇に置いていかれる気がした。
ここにはもう母はいない。
あの幸せな日常はもう戻って来ない。
『ひとりにしないで!』
狼が目指した小さな光が大きくなって全体を包む。その光の眩しさに目を瞑る。
「大丈夫だ」
誰かに頭を撫でられる感触。
ずっと前から知っているかのような感覚に全身の力が抜けて安心するのがわかる。
「ここにいて」
答えるように温かい大きな手が何度もなでてくれる。
なんて心地が良く、幸せな夢だろう。
「大丈夫だ。ここにいる」




