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第二十三話 エレーヌ

第7話 リアム(&エレーヌの会話)



 彼女は髪を乾かしもせず床で小さな寝息を立てて寝入ってしまった。


 獣化を解いて彼女の顔の横に手をついて、顔を覗き込む。彼女の頬や顳顬(こめかみ)を濡らす涙を掬う。

 彼女はどこまでを理解して、理不尽な現状に涙しているのか。故郷や家族を思って泣いたのだろうか。


 濡れて黒が濃くなった髪を一房持ち上げる。自分と同じ黒髪でもやはり魔素は感じない。


 水気を飛ばして彼女の髪を乾かした。


 無防備で全く起きそうにない彼女を抱き上げて寝台に運ぶ。広がる黒髪に縁取られて眠る彼女は少し大人びて見えた。

 

 


 「ちょっと!何時だと思ってるの?こんな朝早くに!って、なんで人族の匂いがするの?」


 翌朝の早朝に、妹のエレーヌを訪ねた。彼女は玄関を開けるなり文句を言い、次に顔をしかめて声を潜めながら慎重に匂いを嗅いできた。


 勘というか、機転が効く妹にはどうせ直ぐバレるのでリナの事を教えておくことにした。


 「昨日、《眠れる森》で人を拾った」

 「はい?!」


 眠気も吹っ飛んだようで、意味がわからないとでも言うように眉間にしわを寄せて説明を求められる。


 「彼女は眠れる森に突然現れた」


 「彼女って事は女性なのね。でも眠れる森は魔獣の住処じゃない。どうしてそんなところに一人で…」


 間髪入れずに聞いてきた。


 「…ああ。彼女は異世界人のようだ。彼女の意思でここに来たわけではなく、″落とされた″のだと思う」


 「自分で来たわけじゃない?戻れそうなの?」


 戻る…その言葉を聞いてリナの泣いていた姿が浮かんだ。


 「彼女は黒髪で黒目だったが、魔力を一切感じなかった。現段階では多分、戻れないだろう」


 「黒髪で黒目で魔力がない?それ本当?」


 エレーヌも信じられないと驚愕の目で見上げてくる。


 「ああ。…それと、彼女はこちらの言葉がわからない。違う言語を話していた」


 「言葉が違う?!コミュニケーション取れないのに、よく色々わかったね」


 「この世界の地図を見せたが、彼女の国はどこにも無いらしい。名前はリナ。風呂の使い方を教えた時に魔石も初めてみるようだった。彼女自身に魔力もないが、彼女のいた世界には魔法が存在しないのだと思う」


 エレーヌは何か考えているようで少し黙り込む。


 「リナさんね。いくつくらいなの?」


 彼女の風貌を思い出す。背もエレーヌと変わらず、顔立ちも幼く見えた。


 「多分、お前とそう変わらない」


 エレーヌの眉尻が下がり小さく息を吐く。


 「そうなの…可哀想に…それで、お兄ちゃんは私にどうして欲しいの?」


 我が妹ながら察しがいい。エレーヌを叩き起こしたのは他でも無い、リナの面倒を見てほしいからだ。


 「彼女にここの言葉を教えてやってほしい。ここで暮らせるようにしてやりたい。彼女の世界に戻れる方法があるなら、それまで面倒を見てやるつもりだ。同性のお前の方が彼女も安心するだろう」


 「そうだね。魔法も使えなくて魔力も一切なくて、言葉がわからないんだもんね。いいよ」


 思ったより早く承諾を得たことに驚いた。


 「…本当か?…すまない」


 妹には頭が上がらない。


 「今はリアムのお家なんでしょう?こっちに来てもらう?」


 それも考えた。リナは女性だし、歳の近いエレーヌの側の方が過ごしやすいだろうと。ただ…


 「いや、まだ彼女のことは未知数だから、俺の目の届く範囲に置きたい」


 「へー!珍しいね。他人嫌いのお兄ちゃんが」


 なぜかニヤリと意味深に笑われた。


 


 エレーヌは早くリナに会いたいと、いそいそと準備をしだした。

 俺の家にろくな食材がないと文句を言いながら籠に食材を詰めていく。


 そして、俺よりも早足で俺の家へと向かった。


 「おはよう!」


 エレーヌはいきなりリナに抱きついた。


 俺とエレーヌを交互に見ながら困惑の表情で俺を見上げてきた。


 「エレーヌ、やめろ」


 彼女からエレーヌを引き剥がす。

 彼女に向き直ってエレーヌを指差してエレーヌの名前を言う。


 「リナ、こいつはエレーヌだ」


 エレーヌがまだ困惑気味のリナの手を取って上下にブンブンと振った。


 「リナ、私はエレーヌ。よろしく!」


 『エレーヌ?、リナ、です』「よ、よろしく?」


 彼女が辿々しく挨拶しながら、合っているかとチラリと俺を見たので安心させるように頷いて見せた。


 その後はずっとエレーヌが見たがっていた黒髪の話になり、色や「同じ」「違う」など、ジェスチャーも含めて、単語を教えていく。エレーヌも上手く教えるが、リナも吸収が早い。

 

 初めて俺と名前を交わした時以上に彼女の表情が生き生きとして輝いていた。本当にエレーヌを連れて来て良かったと安堵した。昨夜はずっと泣き顔ばかりを見ていたから、彼女が安心して過ごせればいい。


 すると、昨夜も聞いた彼女の腹の虫の知らせ。何か小動物でも腹に飼っているようだと、気づいたら自然と笑っていた。彼女はさらに顔を赤らめて俯く。

 

 恥ずかしさで顔を真っ赤にしている彼女をエレーヌが引っ張った。


 「朝食にしましょう!」


 ニコニコと笑うエレーヌに連れられて彼女はダイニングテーブルに座らされた。


 エレーヌは上機嫌で鼻歌を歌いながら朝食を作った。


 食事中も「いただきます」「ごちそうさま」と昨日も言っていた食前食後の祈りについて、エレーヌは直ぐに聞いていた。お互いに真似たり、リナもあちらの言葉を教えて2人で笑い合っていた。

 楽しそうにしている2人を眺めて、エレーヌを連れて来て本当に良かったと思った。


 リナには笑っていてほしい。



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