第十八話 蒼月の夜
後半から第二話のリアム目線になります。
暗闇…?
子供の頃に頻繁に見ていた悪夢か?
いや、真っ白?
なにもない。何も見えない。
これは子供の時に見ていた夢と違う…?
「…黒。黒の力を持つものよ」
黒…
黒の力、か…
ふっと自嘲気味に笑う。
そう。この力が小さい頃から嫌いだった。
他と違う力。禍々しい力。黒の力。
人はこの力を羨望の眼差しで見たり、畏怖の目で見たりする。
いつかこの力に支配されそうなそんな恐怖に小さい心は萎縮している事を誰も知らない。
誰かに頼ることも、誰かに近づくことも怖かった。できなかった子供の心を。
自分でも持て余す力になす術もなく。膨大な力に押しつぶされそうだった。いや、今もそうかも知れない。ずっと孤独だった。今も。
「黒の力を持つもの。そなたは、何を望む?」
…何を、望むか?
「力が欲しいか?」
力?…この黒の力こそ必要ない。
「富か、名声か?」
そんなものも、どうでもいい。
「そなたが本当に求めるものは何か?」
そんなものなんてない。何も要らない。必要ない。
「そなたが本当に求めるものを手に入れた時、知ることになるでしょう。甘い甘い蜜の味を」
…甘い…蜜…?
ふと目が覚めて、まだ夜だと気付く。
子供の頃によく見ていた暗闇の悪夢。それとは違う夢だったが、昔を思い出して不快な気分だった。夜風にでも当たろうと外に出た。
見上げた夜空は青い満月が静かにこちらを見下ろしていた。
夜風に乗って不可思議な森の気配に気づく。
妙に静かで、森の魔獣たちが息を潜めるような静けさだった。
この《眠れる森》の奥深くは魔獣達の住処で誰も近づかない。なのに微かに流れてくるこの匂いは…
まさか。
気がついたら走り出していた。
少し気がかりなだけだ。その匂いの元に行って確認だけすればいい。
獣化して狼の姿になる。鼻を利かせてもっとこの微かな匂いを嗅ぎ取る。耳を立てて、僅かな音も漏らさないように意識を集中させる。爪を立てて大地を蹴り上げ、その一点に向かって速く速く走る。
どうしてこんなにも焦燥感に駆られるのか。
息が上がる。走っているからではなく、この不可解な緊張感に。全身の毛が逆立ち身震いするような空気感に。
その気配に近づけば近づくほどに、心臓は早鐘を打つ。
居た。見つけた。
そこには鮮烈な赤を纏って伏せている人。
起き上がったその顔はまだ幼い少女のようだった。
流れる黒髪に目を奪われた。
今まで自分以外の黒髪を見た事がなかったが、この青い月夜を纏ったような黒く艶のあるその髪に胸が高鳴った。
光る何かを手にして、彼女の顔が照らされる。
瞳の色は?
すると彼女がふらりと立ち上がり、すぐ横の斜面に滑り落ちた。一瞬、時を止めたように動けなかったが、様子を見に近寄る。
彼女の血の匂いが微かにした。甘い、甘い匂いに目が眩む。
痛みからか泣き出す少女。
子供のように泣く声に狼狽てしまった。出ていこうにも、狼の姿のままで大丈夫だろうか。
泣き声ですら脳を揺さぶられる。もっと近くに行きたい。
しばらく泣いたあと、強く目を擦り、顔をしっかり上げて周りを見る彼女に少し近づいた。
目が合った。
涙で濡れる漆黒の瞳と。
時がまた止まった気がする。
心臓はこの胸を突き破りそうなほど強く打ち、呼吸を忘れるほどの刹那だった。
彼女もずっとこちらを見ていた。
ここが森だと忘れるほどの2人だけの暗闇。
もう何の音も、聞こえなくていい。
ふと、周りの魔獣達が彼女の血の匂いを嗅ぎ取ったのか、空気がざわめいた。思わず舌打ちしそうになる。
このままここには置いておけない。
彼女に近づく。
間近で見る彼女の顔は透き通るように白く、この世のものとは思えない儚さだった。
月の精霊のようだった。
唇が震えている。
小さな肩が揺れている。
怯えさせているのは、他でもない自分自身にズキリと心が痛むと同時に、胸の奥に黒い靄が渦巻く。これは一体なんだ?
気付いたら、彼女の肩口にすり寄っていた。彼女は驚いたのか体が後ろに傾き、狼の首に腕を回した。
一瞬だったが、その肌の柔らかさと濃い甘い匂いに目眩がした。
硬く目蓋を閉じる目を縁取る髪と同じ黒の睫毛が涙に濡れて震えていた。
早く、この腕に、閉じ込めてしまいたい。
疲労なのか、混乱なのか、緊張の糸が切れたように彼女が気を失った。
いや、もしかすると、眠らせたかも知れない。
獣化を解いて彼女に触れる。
そっと抱き上げると、甘い香りが強く立ちのぼる。
疼く体を落ち着かせて、甘く、柔らかく、温かい彼女を強く抱きしめた。
リアム目線まだ先にしようと思ったけど書いてしまった。我慢できんかった(´・д・`)




