第一話 赤ずきん
初の投稿作品となります。稚拙な表現などは温かい目で見て頂けると幸いです。
7月上旬、日本各地で梅雨入りを迎え、記録的な大雨が降り続いていた。
エアコンの効いたリビングでチョコミントのアイスを片手に望月璃奈は夕方のニュースをなんの気なしに眺めていた。
「西日本から東日本かけて停滞する前線に向かって暖かく湿った空気が次々と流れ込み、大気の状態が非常に不安定となって…」
天気予報士の話を聞き流しながら、食べ終えたアイスの棒を前歯で齧り、窓の外を覗き込んだ。
昨日の朝から大雨が続き、蒸し暑さも重なって、折角の土曜日も家から出る気になれず、ずっと家の中でボーッと過ごしていた。
外の雨が少し弱まっているのを目視してスマホの画面を指先でタップし、天気予報のアプリを開く。雨雲レーダーで数時間先の雨雲の動きを確認して、注意報が出ていないかも見る。
「ねぇ、お母さん、大雨洪水警報に高齢者避難レベル出てるよ。おばあちゃん迎えに行ってこようか?今なら少し雨も収まるみたいだし」
そう言ってキッチンに立つ母を見やった。
「そうねぇ。お昼に一度電話はしてあるし、璃奈が行ってくれたらおばあちゃんも大人しく出て来てくれるかしらね」
眉尻を下げて母も外の雨雲に目をやった。
今朝の土砂降りよりは大分マシになっていた。
エプロンで手を拭きながらキッチンから出てきた母はそのまま玄関に向かった。
祖父は3年前に他界して、両親と暮らす家からはそう遠くない母の生家に祖母は今も一人で暮らしていた。
仲の良かった祖父母を見てきて、おじいちゃんおばあちゃん子だった私はよく遊びに行っていた。
おじいちゃんとの思い出の家はここから歩いて15分くらいの少し小高いところにあり、ハザードマップでいう土砂崩れ警戒区域に当たるため、避難警報などが発令された場合は念のためこちらに避難してもらうのが母との約束のようだった。
「傘も良いけど、おばあちゃんの荷物とかも持つからレインコート着て行きなさい。ここ最近雨続きだから塾に行く時にも使えると思って買っておいて良かった」
リビングに戻って来た母が出して来たのは真っ赤なレインコートだった。
「うっわ…真っ赤じゃん。もっと落ち着いた色にしてよ。恥ずかしくて塾には着て行きたくない」
受け取ったレインコートを広げながら、口をへの字に曲げて言った。
「別に良いじゃない。落ち着いた赤よ?それに可愛いでしょ。赤ずきんちゃんみたいで」
ふふ。と笑って言う母に、やれやれと大袈裟にため息を吐きながら玄関に向かいレインコートを羽織った。
ポンチョの形をしたそれは、本当にグリム童話の赤ずきんのようだった。
「おばあちゃんの家に着いたら一回連絡して。雨も今だけ収まってるかもしれないから。寄り道せずにね」
そう言って見送りに出てきた母に、はいはい。と手を振って家を出た。
主要な駅からは歩いて20分ほどの海に近いこの場所は段々になっていて坂も多い。
歩き慣れた道を進み、海の方を見ると灰色の分厚い雨雲と薄暗い紫の雲間が不気味さを際立たせていた。
最後の角を曲がって真っ直ぐ行くと祖母のいる家が見える。
ふと、足元が揺れた気がして立ち止まり、地震だと思い、その場で頭を庇いながらうずくまってやり過ごそうとした。
何かを飲み込むような、大きな車が曲がってくるような低い地響きと引きずるような金属音がして顔を上げた時だった。
土砂の濁流が目の前に迫って来ていた。
え、と思考が停止し、固く目を瞑り、視界は暗闇に飲み込まれていった。
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