プロット
主人公
名前:東山 彼方
顔のイメージ:覇気のない顔、線のはっきりしない目、口元は小さい、いつも少し眉間にシワがよってる、
年齢(見た目年齢):17(18)
性別:男
一人称:僕
口調:暗くてゆっくり
髪と肌の色:少しボサついた黒髪、インドアなので色白
身体的特徴2つ:身長175、やる気のない猫背
性格:真面目で嘘は付けない、暗くて人と話すのが苦手。
将来の夢:未だなし
ヒロイン
名前:星野 此方
顔のイメージ:軽いメイクで大人っぽい。切れ長の目、美人。
年齢(見た目年齢):17(20)
性別:女
一人称:私
口調:なんでもハキハキ言う
髪と肌の色:陸上や水泳をやっているので色素が抜けて茶色のロングヘア、そして雪のように白い肌。
身体的特徴2つ:身長170。出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでる。
性格:誰とでも仲良くなれる明るい性格。
将来の夢:体を張って人を助ける仕事
旧友
名前:幸田 朋旧
顔のイメージ:目元や口元が優しい顔立ちのイケメン。
年齢(見た目年齢):17(17)
性別:男
一人称:俺
口調:柔らかて和やか。
髪と肌の色:天パの黒髪、バスケをしているが室内競技なので肌は白い。
身体的特徴2つ:身長180。細マッチョ。
性格:相手を慮る優しい性格。ノリはいいのでイジってくることもある。
将来の夢:大切な人を守るために医者
あらすじ
梅雨入りした雷雨の夜に彼方は一人で傘もささずに駅から叔母の家へと歩く。
駅の改札を出て階段を降りると外は雷雨だったが、彼方はものともぜず歩き出した。彼方の背中にはバックパック、手にはスーツケース。パチンコ屋やスーパーの賑やかさが遠ざり、人気の無い路地へと入る。そして叔母の家に辿り着く。
ずぶ濡れになって帰ってきた彼方を見た叔母はすぐにタオルを持ってきてくれた。見兼ねた叔母は濡れた荷物を彼方の部屋へ運んで行きながらとりあえず風呂に入りなさいと言った。
風呂を出た彼方はダイニングキッチンへ行く。叔母は2人分の弁当をチンしていた。そして味噌汁を作ってくれた。
叔母は、私は仕事が忙しいし家事も苦手だからこんなものしか作れないけど、と言って配膳した食事に手をつける。
彼方は味噌汁を啜って病死した母親と、事故死した父親の2つの味噌汁を思い出して泣き出す。叔母は泣きじゃくる彼方を見つめながら夕飯を食べ終え、パソコンで仕事をし始める。
親が死んで引っ越したとはいえ、電車で通える距離だったので転校はしなかった。
翌日、彼方は学校に行く。裏門で一人の男子生徒が彼方と同じクラスのいじめっ子に絡まれていた。彼方はいじめっ子たちの声にイラっとしてつっかかったのだが、結果的にその男子生徒を庇うような形になった。
その男子生徒の名前は星野 譲。まだ1年生の後輩だった。
次の日から、今度はいじめの標的が彼方に移った。
「両親は死んで友達もいないぼっちのゴミカス」と罵られてから彼方は茫然自失になった。それからずっと毎朝行く度に絡まれていた。此方がずっといじめを止めようとしていたが結局止まらなかった。
1週間ほど経つといじめっ子たちは茫然自失の無反応な彼方に飽きたのか絡んでこなくなった。
いじめっ子が絡んでこなくなると、いよいよ彼方に話しかけてくる人間はいなくなった。人はこんなにも脆いのかと思った。
孤独を感じて一人がとてつもなく怖くなった彼方は、旧友の朋旧に助けを求める。
放課後、由比ヶ浜に座りながらメールでメッセージを送信すると、別に頼んでもいないのに朋旧はすぐに海岸に来た。
「相変わらず早いなトモ」
そして彼方の隣に腰を下ろすと沈む夕日を眺めながら「俺たちが小学校低学年くらいの時、お前が車に轢かれそうになった女の子を助けただろ。それくらい勇気のある優しい人間って知ってるから」と言って助言をくれる。
そしてバスケ部を途中で抜けてきた朋旧は、彼方の希望が少し見えてきた顔を見ると部活に戻って行った。
それから数日して彼方は部活を始めた。
運動も兼ねて朋旧のいるバスケ部に入り、朋旧のサポートを受けながら部員たちと交流を深めあった。彼方が入るほんの少し前に此方もマネージャーとして入部していた。
部員たちとは結局、話してみれば互いに悪いやつじゃないと分かり仲良くなり、気づけば梅雨は明けてもう7月に入っていた。
そして学校が夏休みに入る少し前に彼方はバイトを始めた。
朋旧の紹介でコンビニでバイトをすることになった。上司や仕事仲間とは友達との関係よりもやりやすかった。
平日は放課後にシフトが入るので、元々バイトしてた此方とシフトが被ることが多かった。
変な客が来るとこも少なくなかったが、此方が代わりに対処してくれた。それに仕事に慣れるとそういう客のあしらい方のコツを掴んできた。
しかし男として、仕事を此方にカバーしてもらっている現実をプライドが許せずストレスが溜まっていった。
着々と彼方が交友関係を広げていくことに納得していない人間もいた。いじめっ子たちである。
ある8月に入ってすぐの雨の夜、下校途中に再びいじめっ子たちに絡まれる。いじめっ子のリーダーは此方のことが好きだったので、此方と一緒にいることが多い彼方が鼻についたのだった。
「調子に乗ってんじゃねぇ」という旨の話をされて傘を持った彼方の体を押して壁に押し付ける。
彼方の傘は地面へ落ち、彼方は濡れる。そして彼方が殴られそうになったところに此方が現れる。
それに気づいたいじめっ子たちは慌てて何も無かった振りをして平然と帰って行った。
またしても此方に救われた彼方のプライドは極めつけの大ダメージを受けたことで、ぷつんと何かが切れる。
すると彼方は「いつも付きまとってきてウザいし鬱陶しい。俺だって一人でもやれば出来るから助けなんていらない」という旨の暴言を大声で吐く。
すると此方は傘を落として「ただ、恩返しがしたかっただけで……」と彼方にギリギリ聞き取れない音量で言う。そして目に涙を浮かべた此方は傘を拾わないまま立ち去ってしまった。
そして内心「やってしまった」と思いながら立ち尽くす彼方の前に朋旧が現れた。
朋旧が「部活が終わって帰ってる途中になんか大声が聞こえたから……ごめん、聞いてた」と言うと、罪悪感を抱いた彼方は反抗してしまう。
彼方のその反抗心に流石にカチンと来た朋旧は「お前がそこまで最低な人間とは思わなかった」
と言った。そしてこうも言った。
「俺は此方のことが好きだった。けど……いや、やっぱりなんでもない」と言って彼方の頬を1回ぶつ。
「此方も、俺も、みんなお前のために、お前を思って協力してやったのに……此方の気持ちにも気づかず、それどころか傷つけるなんて最低最悪だ」と言って立ち去った。
此方と自分の傘を拾った彼方は家へと歩き出した。
頭がクラクラする。視界が雨のせいか涙のせいか分からないが歪んでいる。体には力が入らない。
のらりくらりと砂漠で今にも死にそうな旅人のように腰を曲げてしょぼくれた態度で歩く。
今、先刻知った真実にショックを受けた彼方は足を引きずりながらびしょびしょになって歩き続ける。
すると急に横から強い光を受けた。それがトラックだということに気がついたのは衝突する瞬間だった。しかし実際に衝突したのは彼方ではなかった。彼方は誰かに「助けさせて――!!」と言って後ろから突き飛ばされて轢かれなかった。
しかし数メートル先ではトラックが急停止しており、その下には誰かが転がっていた。
彼方はその『誰か』へ近づこうとするが、突き飛ばされた衝撃でくじいたのか足首の痛みで上手く立てなかった。だから這いつくばって自分を助けてくれたであろう人物の下へ向かう。
何十秒たった頃か分からないが、彼方が辿り着く頃には周囲が警察や救急車を呼んでいた。
嫌な予感がした。というか展開が読めていた彼方の目頭はじんわりと熱くなって先程より視界がぼやけてしまう。
涙を拭って『誰か』の顔を覗き込んで彼方は絶叫する。『誰か』は此方だった。地面についた自分の手を見ると赤く染っていた。鮮血が雨水に溶けていく。
しばらくするとサイレンが聞こえてきた。そこで記憶は途切れている。
此方と一緒に彼方も救急車で搬送される。
救急車の中で目覚めた彼方はしばらくボーッとしていたが、そのうち現実に引き戻されて状況を思い出す。
開口一番、此方の容態を聞いてきた彼方に救急隊員らは驚く。彼方の身元を確認した上で隊員は此方が重症で命の危険があることを伝える。臓器が深刻な損傷を受け、腎臓を移植しないといけなくなるが、此方の姉弟がドナーになり一命は取り留めた。そのドナーの名は『星野譲』だった。
手術後、容態が安定すると此方と譲はICUから普通病室に移された。彼方は付きっきりでその病室にいた。
受付にいた朋旧に先に譲の病室に行けと言った。
彼方の入室に気づいた譲は起き上がって真っ先に彼方にお礼を言った。
「あの時、先輩が助けてくれたお陰でいじめっ子には絡まれることは無くなりました。」と言った。どうやらいじめっ子に此方のメアドを教えるよう強要されていたらしい。
しかしそれと同時に此方に対しての無礼をきつく叱った。
「別に恨んではいませんが、姉さんの思いと善行を踏みにじった挙句、事故に巻き込んで命を落としかけたことに関しては怒りを覚えました。先輩を許すにはこれから長い年月がかかると思います」と言ってまたベッドに横たわる譲。
そして「なぜ姉さんがそこまであなたにこだわるのか、その様子だと先輩は気づいていないようですね。僕も幸田先輩も知っています。が、それは本人に訊くべきだと思うので、姉さんが目を覚ますまで考えておいてください」と言って、久しぶりに力を使って疲れたのか寝てしまった。
その後、此方の病室に行くと此方は風の入ってくる窓の外の夕闇を眺めていた。彼方は、憤りを感じていた朋旧の制止によってICUに行けなかったので実質、事故後は初対面となった。
こちらに気づいた此方に彼方は「酷いことを言ったこと、それに事故に巻き込んだこと、本当にごめんなさい」と謝罪を告げた。
しかし此方は言う「一つ目の謝罪はもう気にしてないからいいよ」と。
「でも……」と彼方。
彼方の話を遮るように「でもね、二つ目はダメ。私は自分の命と彼方くんの命を天秤にかけた。そしたら天秤は彼方くんに傾いた……つまり助けたくて飛び込んだの。だからね、ありがとうって一言だけ添えてくれればいいの。それだけで嬉しいから」
「うん、そう……かもしれない。教えてくれてありがとう。そして、命を救ってくれてありがとう」と彼方は今までの出来事を噛み締めるように言った。
そして話題のなくなったその場は沈黙する。
しばらくして此方が口を開く。
「実はね、彼方くんを助けたのにも理由がちゃんとあるの。……覚えてない? ちょうどこの季節のこの時間帯だった」
そこまで聞いて彼方はやっと思い出した。
窓の外に目をやる二人。外は日が沈んで鈴虫の音色だけが聞こえてくる。
そうあの日もこんな鈴虫の鳴く、日が沈んで少したった寂しげな夜だった。
彼方が小学校低学年の頃、叔母さんに朋旧と動物園に連れていってもらった日の帰りに家の近くの路地を歩いていた時のこと。
叔母さんと歩いていた彼方は幼い女の子の泣き声を聞いた気がした。その方向に目をやると一人の少女が泣きじゃくっていた。
迷子かなと思ってしばらく見ていた叔母さんだったが、その下を急に離れた彼方に戸惑った。
放たれた矢のように少女に向かって走っていく彼方。
すぐに叔母さんは気がついた。あのまま少女が泣きながら前も見ずに交差点を進もうとすると『死ぬ』ということに。交差点は車のライトでうっすらと白く照らされている。
間に合わないと思った叔母さん。
そうかと思えば彼方はその少女を抱きしめるようにして交差点の向こうへと飛び込んだ。
後に残るのは鈴虫の合奏と少し冷たいそよ風。
その時は間一髪、かすり傷で済んだ。そして当の車の運転手が慌てて駆け寄ってきた。
その後、その運転手と共に交番へ行き、無事に何事もなく穏便に事は済んだ。その少女も母親と再会して帰っていった。
その少女こそが星野此方であった。
海馬の彼方に忘れ去られていた記憶がやっと蘇ったのだった。
そして此方は言う。
「今度は自分が誰かを助けたい。その一心で運動も水泳もやってきた。おかげで彼方くんを助けられた」
「終わりよければすべてよし、なんてよく言ったものだね」と彼方。
そして過去を懐かしむように沈黙が続く。
しばらくして口を開く彼方。
「ごめん。そしてありがと、トモ」
部屋の入口の方でゴトっと物音が聞こえた気がした。
そして此方は座りなおして彼方の肩に寄りかかる。