31.ファイト・ナイト(4)
「そんなの───エロいことに決まってマス!」
「あぁー! なるほど、納得!」
単純明快。
僕としたことがそんなことにも気づかないなんて。女装のし過ぎで男としての魂を失ってしまったのではと不安になってしまうな。
そうと決まれば話は早い。童貞だからよくわかんないけど、初めはシャワーからってこの前やったエロゲに書いてあったな。よし───
「──ってなるか! 何言ってるのさ!」
「それはこっちのセリフデス! あからさまにOK出してるのに、なんで手を出さないんデスか!?」
「出すわけ無いだろ! 何言ってんのほんとに……」
「……もしや、本当にソッチ系なんデスか? 興味があるのはツインテ眼鏡のメイド男子だけとか……」
「当たり前のように性癖を把握されてることには目をつぶるとして。一つ勘違いしてるようだから言っておくけどさぁ」
「勘違い?」
「ここでエミリーに手を出したら、それこそホモじゃん」
「……What?」
理解不能とでも言わんばかりに目をぱちくりさせ、怪訝そうな目でこちらを見る彼女。
「Sorry。話が見えないんデスが……」
「それじゃあ順を追って説明してあげるよ。まず、僕がエーミールが女だって知ったのは最近だよね」
「Yes,2週間前デスね」
「それまで僕は、君のことを男だと思ってた」
「でも、実際は違いました」
「そうだね。でもさ、出会ってから最近まで──結構長い年数を、僕はエミリーが男だと思って接してたわけ」
「……つまり」
「男友達が美少女のコスプレしてる感じなんだよ、僕の認識だと」
エミリーはかわいい。かわいいのだが……それを素直に受け入れられない理由があった。
だってエーミールじゃん、中身。
いくら見てくれが変わったって、それは変わらない事実。
英国で販売されているエ○本を国際便で送りつけてきたり、
徹夜して作った何百ものアイコラをスパムのごとく送信してきたり、
黒髪清純派お嬢様の素晴らしさについて夜通し語ってきたり(金髪ツインテっ娘派の僕と戦争になったが、メイド服と乳袋の親和性について合意がとれたので停戦となった。僕たちはバカだ)────クラスに一人はいる煩悩まみれの男子高校生みたいなエーミールが中身である以上、これに興奮したら僕は人間的に敗北したことになる。
「エロマンガとかじゃ、TSした友人に当たり前のように手を出すけどさ……あれってなかなかに頭のネジが外れてる行為だと思わない? 精神的ホモセだよあれ。いや、同性愛が悪いとか言うわけじゃないけどさ。ただ僕としては抵抗があるってだけで」
「よくわかりませんが、エロければよくないデスか?」
「うんやっぱり君はエーミールだ。今ので確信したよ」
彼女の外見と言葉のギャップに脳が悲鳴を上げているのをひしひしと感じた。なんか泣けてきたな。
「というかさ、エミリー」
「なんデスか」
「やめにしない? そういう痴女みたいなマネ」
いくら親友とはいえ、許容できるラインはある。
そこはしっかり伝えるべきだ。
「うっ……」
そう言われた彼女は顔を少し下げ、しょんぼりと俯いてなにやらつぶやき始めた。
「まぁたしかに、グイグイ行き過ぎたとは思いマスけど………こっちはずっと我慢してたわけデスし………今は彼女もいないって言うし………め、迷惑でしたか?」
「? よくわかんないけどさ。そりゃ迷惑だよ」
そういうと、彼女は眉根を下げた。とても心を痛めたかのように。
予想外の反応に困惑する。だって──
「──いくらこっちの反応が面白いからって、そう何度も同じネタ擦られたら迷惑でしょ」
「……ン?」
「そりゃ、僕も同じ立場になったらやってみたいけどさ。美少女になって友人を誘惑するとかちょっと面白そうだし。それでも限度ってものが──」
「s,stop!」
なにやら慌てた顔で両手を突き出し、こちらを制止する。
どうしたんだ一体。
「えっと……つまりユウは、ワタシが面白がってやってるって言いたいんデスか」
「そうだけど……なに?」
「じょ、冗談デスよね?」
「えっ、それ以外にある? 理由」
「………そ、それは」
「あ、ほんとに僕のことが好きとか?」
「ほわっ!?」
「──って、そんなわけないよね。ちょっと前のメロドラマじゃないんだし」
「……そ、そうデスよ。ユウったら、ラノベの読み過ぎですって」
「だよね。いくら異性とはいえ、ネット越しでしか話したことのない相手に惚れるなんて。そんな純情乙女みたいなエミリー、ありえなさすぎて笑っちゃうよ」
「ハハッ、そうデスね……笑えマスよね……はい……」
お互い笑いあう。和やかな空気が部屋に満ちる。しかし、彼女の顔はだんだんと固まっていき──
「ふぁ……」
「ふぁ?」
「Fu◯k!! 」
「え、エミリー!?」
爆発した。
彼女は放り投げてあったコントローラーを拾い上げ、乱暴な手つきでキャラクターを選択する。
「ユウ! 戦争デス!」
「い、いきなりどうしたのっ?」
「知るか! 挽肉にしてやりマス!!」
「な、なんかよくわからないけど───よし、もう1戦だ!」
どうして急にやる気になったのかは知らないが、またとないリベンジの機会。今日こそは勝ち越させてもらおう。
ヒートアップした僕らは対戦を続け、もう1戦、もう1戦と夜は更けていき────
「Zzzz……デス……ぐぅ……」
「ふわぁ……あれっ」
目を覚ますと、隣でエミリーが寝息を立てていた。
まさか一線を──と冷や汗をかいたが、ここはソファの上。どうやらゲームをやったまま寝落ちしてしまったらしい。
壁に掛けられた時計は10時を指していた。あれ、まだこんな時間か。そろそろ布団に入らなくちゃ。ん? 朝──!?
「──エミリー! 朝! 起きて!」
「……もう食べられませんって、ユウ……そんな美味しそうな生足……」
「何言ってんの!?」
こうして二人仲良く遅刻しましたとさ。さらば一限。
ゲームは一日一時間。至言だなぁ。




