30.ファイト・ナイト(3)
「ここで横B! そして着地刈りからの空横!」
「うわっ! それ友情破壊コンボだよ!」
「恋と戦争ではあらゆる手段が許される──デスッ」
「くぅっ、負ける───なんてね! 小ジャン回避っ──」
「はっ、読めてマスっ!」
「な、なんだって!? うわっ、負けた……。くそぅ」
「おやおや、随分と腕が訛ってるみたいデスね。鍛錬が足りていないのでは──って、なんデスかこれ!?」
勝利の喜びもつかの間。欧米人ばりの──というか欧米人なんだけど──オーバーリアクションでコントローラーを放り投げ、エミリーはそう叫んだ。
「なにって……スマ○ラでしょ」
「それは知ってマス!」
「あ、もしかしてマ○カーやりたかった? いいねいいね。あ……でも、僕持ってないんだよね」
「あ、マリ○ーならテレビ台の下に──って、違う!」
またもやオーバーリアクション気味に体を反らす。
元気そうでいいなぁなんて思っていたら、ずいずいずいと彼女は距離を詰めてきて───
「同居中の! 女友達が! なんでも言うこと聞くって! 言ったんデスよ!?」
「ちょっ、近いって! ツインテ! ツインテ当たってるから!」
「あ、すみません──ってなんで髪なんデスか! もっと反応すべきところあるデショ!?」
「うん? あ、胸か」
「反応、薄っ……」
薄いのはお互い様だよ。
「それはさておき」
「さておくかどうかはこっちに選択権があるはずデスけど………まぁいいデス。それより、なぜここで格ゲーなんデスか!」
「いや、だって……去年からあんまり遊べてなかったし」
僕とエミリーはゲーマーだ。それも重度の。
これまで僕らは暇なときにはオンラインゲームを一緒にプレイしまくっていた訳だが、僕が受験期に入ってからはめっきり遊べなくなってしまっていた。大学に上がってからもバイトやらサークルやらで時間が取れず、ここ最近もご無沙汰だった。
謎のインディーズゲームを一緒にぼやきながらプレイしたり、マイナーゲーのランキングを荒らし回ったり。小規模なオンライン大会にも出場したっけ。格ゲーからFPS。戦略SLGからソシャゲまで──いくつものゲームで遊んだが、振り返ってみると楽しかった思い出しかない。
そして肝心の腕前はというと───ほぼ互角。その証拠に、この格ゲーの戦績は196勝196敗25分けだ。
いや、たった今の敗北を加算すると僕が負け越したことになるのか。ぐぬぬ。
早くリベンジしたいので対戦開始ボタンを押そうとするが、当の彼女はコントローラーを放り投げたままだ。なにやら思うところがあるらしい。
「そんなにカッカしてどうしたの? 早く次行こうよ」
「若い男女が一つ屋根の下デスよ。もっとこう──ありマスよね!?」
「一つ屋根の下………あ、ボードゲームとか? 名案だね。対面の方が雰囲気出るもんね」
「いいデスね! ボドゲならドミ○オンがそこの棚に───ってこの流れはもういいんデスよ!」
結構ノリノリに見えたけど、それを指摘してキレられても面倒出し黙っておこっと。
「いいデスか。冷静に、客観的に、この状況を整理してみましょう」
「はぁ……そんなのいいから早く対戦しない?」
「シャラップ!」
ツインテでビンタされた。
あっ、これ結構いいかも……。
「まず、ユウは男子大学生デス。それも盛りざかりの」
「どこで覚えたのそんな言葉……ていうか、人を性欲魔神みたいに言わないでよ。心外だなぁ」
「ハッ。……『量子力学_学術論文』フォルダ」
「!?!? な、なんで!?」
間違いない。僕の秘蔵画像ディレクトリ名だ。
この世のありとあらゆるメイド服orツインテor眼鏡っ娘(基本R18)を記録したそれのデータ量は1TBをゆうに超える。流出した場合、世界のパワーバランスが崩れる(そして僕は社会的に死ぬ)可能性があるので誰にも教えていなかったのに……。
「誕生日と名前の組み合わせなんて……ダメデスよ、パスワードはしっかり設定しないと」
「は、犯罪だ! 不正アクセス禁止法に触れてるよそれ!」
「──それはさておき」
「ぐっ………」
意趣返しのつもりか。さっき同じことをした手前、反撃できない。
とりあえずパスワードを『1103yuuya』から変えておこうと心の中で誓った。
「……それで?」
「目の前には気の知れた女友達がいますね。それもかなりの美少女ときた」
ともすれば傲慢に聞こえてしまうこの発言だが、事実として彼女はモデル級の美少女なので(認めるのは癪だけども)あまり気にはならなかった。
「部屋には二人きり。周りには誰もいない。何かあったとしても、それが周りにバレる心配はナシと」
「まぁ、そうだね」
「そんな状態で彼女は『何でも言うことを聞いてあげる♡』と言ったわけデスが……即ちそこから導き出される結論は?」
「……スマ◯ラ?」
「ではなく」
「ド◯ニオン?」
「でもなく」
「………? ……??? あの、ごめん。ほんとにわからないんだけど」
「そんなの───エロいことに決まってマス!」
「あぁー! なるほど、納得!」
たしかに。
年頃の男女。部屋に二人きり。言われてみれば単純じゃないか。
………ん?




