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28.ファイト・ナイト(1)

リビングに入ると、エミリーがソファに突っ伏していた。



「助けるつもりが傷つけてしまうなんて……ワタシは……ボクは……ウゥッ」



スラっとした両足をばたばたと上下させ、なにやら嘆いている。



「ど、どうしたんですか」

「ユウ……」



こちらを向いた彼女の目は潤んでいた。なにか辛いことがあったみたいだ。



「ワタシはダメな子デス……」

「? 知ってますけど」

「うぅっ、ユウは優しいデス……what?」

「はい?」

「『今更何言ってるの?』みたいな顔しないでくださいっ!」



なんだか凹んでいるみたいだけど、言い返す元気はあるようだし大丈夫だろう。

辛いことといっても、大方ガチャで爆死したとかそんなところだと思う。エミリーだし。

というか、僕のほうが凹んでるって。まさかあんな別れ方をされるなんて。エイル君、今度のサークル来てくれるかな……。



仰向けのエミリーをぐいっと起こし、ソファに腰掛ける。 

まずは経過報告だ。

そうして僕は今日あったことを彼女に話した。



「────という感じです」

「つかみは上々、デスね」



彼女の言うとおり、なかなかよくやれた思う。

正体が露見するようなミスはなかったし、問題なくサークルに入ることができた。そして何より、重要人物である昭人の連絡先も入手できたのだ。



「このまま昭人との仲を深めてもいいデスが……正直それはオススメできません」

「どうしてですか?」

「リスクが大きい。これに尽きマス。もしもあの女とデキていたら、ユウがサークルを追い出される可能性もありマスから」

「それは……たしかに」



もしも彼がエミちゃんと付き合っているとすると。(ユウリ)が彼に言い寄ると、エミちゃんとの関係が悪化するのは明白だ。そしてそれはサークルでの活動が制限されることを意味する。



「とりあえず、アザラシと話してみることにするよ」

「それがいいと思いマス。昭人は最後にしましょう。仮に人間関係が崩壊しても、そのまま去ってしまえばいいんデスから」



(ユウリ)が複数人に言い寄り、それによってサークルの人間関係が壊れても、情報を聞き出した後ならば僕としては問題ない。真実を知ることができ、復讐も完了する。あとは野となれ山となれだ。

……そのはずなんだけど。



「浮かない顔デスね」

「……そうかもしれません」

「あんなサークル、滅んで当然デス。気にする必要ありませんよ」

「それはそうなんですけど、少し気がかりがあって」

「気がかり?」



気がかりとは、エイル君についてだ。

彼はこの件に無関係だ。ありもしない嘘を鵜呑みにし僕を追い出した彼らとは違う。そんな彼を、僕の復讐に巻き込んでしまっていいのか。それが胸に引っかかっていた。


僕は彼について話した。



「だから、このままサークルを掻き回してしまったら、彼が悲しむんじゃないかって………」



せっかく入ったサークルが自分の預かり知らぬところで崩壊していく。彼からしたらいい迷惑だろう。


けれど、エミリーの反応は冷たいものだった。



「別に気にする必要ないデスよ。エイルとやらもそこまでサークルに思い入れがあるわけじゃないでしょうし」

「でも、私のことを助けてくれたんです。そんな、恩を仇で返すみたいな……」

「わたっ──彼もカッコをつけたかったんでしょう。向こうも好きでやってるんデスから、ユウが気を使う必要なんてありませんよ」

「そんな言い方……」

「彼は……そうデスね。乙女ゲーの親友キャラみたいな感じデスよ。友人Aってやつデス。必要な時は利用して、そうでなければ放っておけばいいんデス」

「……エミリーさん」

「はい?」

「そこに座って」

「えっ」

「えっ、じゃなくて。早く」



ふつふつと怒りが湧き上がってくる。

彼のことを知りもしないのに、まるで心の中を知っているかのように語るなんて。そんなの根拠のないレッテル貼りと一緒じゃないか。彼女はそういうことをするタイプではないと思っていたけれど、どうやら違ったらしい。


そんな考えを改めてもらうため、僕は語りだす。

何を? もちろん、彼の魅力についてだ。



「───そこでエイルさんは言ったんです。『淑女に手を上げるなんて、男の風上にも置けない』って。ともすれば前時代的な男尊女卑と捉えられてしまいそうなこの言葉ですが、これは彼の高潔さの証明でもあるのです。典型的なヒロイズムに感化されがちな中高生ならまだしも、大学生という立場でそれを口にするには並大抵の覚悟では足りません。つまり彼は───」

「Stop! もう十分デスからっ! 勘弁してくださいっ!」



時計に目をやる。まだ語り始めてから15分しか経ってない。

エミリーは顔を両手で覆い、体を不規則に揺らしていた。よく見ると頬が染まっている。まるで痛いポエムを書き綴ったノートを知り合いに見られた、みたいな反応だ。

……まぁ、続きは今度にしておこう。



「そ、その話はもういいデス。それよりも──」

「なんですか? エイル君の連絡先ならあげませんよ。まだ私も教えてもらってませんし」

「そうじゃなくって! あの、ユウって……」



彼女は恐る恐る、といった感じで────



「男の人が好きなんデスか……?」

「………はっ?」

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