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19.二階堂ユウリの朝は早い(中編)

僕の大学では、食堂の隅にカフェテリアが併設されている。わざわざ分けられていることからも分かる通り、食堂は食事、カフェテリアは歓談やデートといった風に役割分担がされている。

メニューの値段は全体的にカフェのほうが高く、ランチタイムになると財布の味方である食堂に学生が集中する。必然的にカフェテリアから客足は遠のき、ガラガラになる。


翔平の様子を見るに、あまり人に聞かれてもいい話ではないはずだ。

なので、僕らはカフェテリアへ移動し、窓際にある席に向かい合って座った。



「……それで、話って──」

「──すまなかった!」

「えぇっ……」



僕から話を切り出そうとすると、突然、頭を下げられた。

テーブルに衝突せんばかりの勢い。椅子に座っていなかったら間違いなく土下座していただろう。そう思ってしまうほどの迫力があった。



「ちょ、ちょっと。頭を上げてよ」

「いや、止めないでくれ」



いや止めるよ。

ここは食堂に隣接しているので人目が無いわけではない。いくら人が少ないといっても、こんな状態だったら人目を引いてしまう。



「……ダメ、か?」



おずおずと、申し訳なさそうに僕を見る。


ダメもなにも、いきなり迫真の謝罪をされても僕としては困惑するばかりで、一向に事情が見えてこない。



「いや、あのさ……まず、事情を説明してよ。何に対して謝られてるのかもわかんないし……」

「む、そうだな」



そう指摘すると、翔平は少しバツが悪そうな表情を浮かべた。


天然というかなんというか。翔平って頼りになるんだけど、ちょっと抜けてるところがあるんだよなぁ。



「俺が謝ってるのは、先週の件だ」

「それって……エミちゃんの件?」

「あぁ」

「僕が犯人じゃないって、信じてくれるの?」

「そうだ」

「どうして……」



あの日以来、僕は翔平と一度も会話をしていない。それなのに突然僕のことを信じるなんて、何か理由があるに違いない。



「……違和感があってな。ユウヤが恵美を脅したとすると、色々とおかしい点がある」



先週、食堂で鉢合わせたときの翔平の態度は冷たいままだった。彼が違和感に気が付いたとすれば、その後なのだろう。



「まず、前提からしておかしいんだ」

「というと……」

「仮にユウヤが犯人だとして。あんなメッセージを送る理由はなんだ?」

「……」

「本当に恵美の体が目当てなら、適当に付き合って……言葉は悪いが、ヤリ捨てればいい。告白されたんなら、それは難しいことじゃない。わざわざ写真を用意して脅す必要なんて、どこにもない」



そうなのだ。

僕は冤罪をかけられる前日、エミちゃんに告白されている。彼女の体が目当てなら、普通に付き合ってそのまま……という正当な手順を踏めばいい。いや童貞だからすんなりと手順を踏めるのか怪しいけど。それでも、わざわざ断って盗撮の写真を送りつけ、脅して無理矢理……なんておかしな話だ。

そんなことをするなんて、よっぽどの特殊性癖かイカれているかのどっちかだろう。あいにく僕はノーマルだ。



「それに、食堂にいること自体おかしい。俺たち――サークルメンバーと顔を合わせれば、話を蒸し返されて、もしかすると刑事事件になる可能性がある。本当に脅したなら、通報されることを恐れて俺たちを避けるはずだ」

「……」

「そもそも、脅すのにTwitterのDMを使った理由は? 普段使いのLINEじゃないのは、ユウヤじゃない誰かが不正な操作をしたからじゃないのか」



翔平が違和感に気が付いてくれて嬉しい反面、どこかこの状況を当然だと考える自分がいた。


この冤罪は杜撰(ずさん)で場当たり的だ。


冷静に考えれば、いや、冷静でなくたって、不自然な点が多すぎることに気がつけるはず。

にも関わらず、サークルメンバーが冤罪を信じ込んだのは、その場の雰囲気や、サークルの姫であるエミちゃんが被害者であったことが影響しているのだろう。判断できる材料が少ない今、僕はそう考えている。

それなら───



「翔平の言うとおりだよ。あれは冤罪で、僕はエミちゃんを脅してなんかない」

「あぁ。気づけなかった俺が言うのもなんだが、間違いなくそうなんだろう」

「それで……他のメンバーは?」



もし彼らが勢いに流され信じ込んでしまっていたのなら、ある程度時間がたった今、他にもこの事実に気づいている人間がいてもおかしくはない。


しかし、翔平の返事は芳しくないものだった。



「あいつらは……ダメだ」

「それって……」

「ユウヤが犯人だって完璧に信じ込んでる。俺も説明したんだが、取り合ってもらえなくてな。それどころか、『お前も共犯なのか?』なんて言われたぐらいだ」

「そんなっ!」



思わず席を立ってしまい、がたりと音が響いた。

店員から訝しげな目を向けられ、慌てて座り直す。


どうしてだ。

自分で気づかないならまだしも、翔平に言われても納得するどころか、疑ってかかるなんて。

あるとすれば……嫉妬、か? エミちゃんに告白された僕を疎んでの言動。

いや、そうだとしてもここまで明らかな冤罪を放置するなんて、常識的に考えてありえないだろう。犯人が誰かもわからない以上、自分が標的になってもおかしくないのだから。


……もしかすると、僕は初めから、彼らに嫌われていたのか? 

そんな後ろ向きな考えが頭によぎる。


僕が黙っていると、翔平は申し訳無さそうにうつむいた。



「……俺の責任だ。本当にすまなかった」

「い、いいから。頭を上げてよ。あいつらが信じないことに、翔平は関係ないじゃないか」

「いや、上げない。そもそも俺が早とちりしなければ、ここまで話はこじれなかったはずなんだ」

「それは……そうだけど」



早とちり、というのは、エミちゃんを振った後、翔平が送ってきたLINEのことだろう。


実際、あのLINEは不自然なまでに言葉足らずだった。僕――友人の犯行を聞いて焦っていたのもあるのだろうけど、確認のメッセージが『エミちゃんの件、マジなのか?』の一つだけなんて、あまりにも雑だ。

確かに、あそこで誤解が生じなければ僕はこんな自体に陥っていなかったかもしれない。

そう考えると、ふつふつと苛立ちが湧き上がってきた。



「そのせいで、寝込んでしまうほど追い詰められるなんて……」

「寝込む?」

「あぁ。冤罪だって気づいてすぐ、アパートまで行ったんだが……いくらインターホンを押しても返事がなくてな。それに、連絡しても返事がないし」

「あぁー……」



それもそのはずだ。僕は今エミリーの部屋に住んでいるのだから、アパートに来た翔平に気づけるわけがない。

それに、連絡だって。僕が衝動的にアンインストールしたSNS達の再インストールをしたのは、昨日エミリーと出掛けることになってからだ。それ以前の連絡のログは残っていないので、メッセージに気づけなかったのだろう。


連絡に気づけなかったことはいいとして、アパートにいなかった理由はなんと説明すればよいのか。

まさか、サークルから追い出された翌日に女の家に転がり込んで女装の練習してたとか言えないしな……翔平、めっちゃ深刻そうな顔してるし。


どうしたものか。

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[一言] 失礼だけど最後笑っちゃう
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