悪魔の所業
2021.01.24 ラストが解りにくかったようなので、修正
悪魔が本当に召喚出来た時、男は後悔した。
一目見て、心の底から恐怖を感じたからだ。
『要件を言え』
地獄の底から響くような声で、悪魔は喋った。
「む、娘を……。殺された娘を生き返らせてくれ!」
『……良いだろう。但し、条件がある』
「わ、解っている。俺の魂だろう?」
『違う』
何故か、悪魔は否定した。
『我が望むのは、お前が、娘と同じ日に生まれた者を娘がされたのと同じ手口で殺害する事』
男は悩んだ。
それは当然だろう。
何の罪もない人間を殺すだけでも躊躇うのに、娘がされたのと同じ事をしろと言うのだから。
まともな人間に出来る殺し方ではなかった。
あれは、まるで、悪魔の所業だった。
あれ以来、男はまともに眠れていない。
だからだろうか?
悪魔を召喚しようと本気で思ったのは。
ちゃんと眠れていたら、悪魔なんている筈無いと、召喚しようなんて思い付きもしなかっただろう。
つまり、何もかも、彼の娘を殺害した犯人が悪いのである。
男は悩んだ。
悩みながら、娘と同じ日に生まれた人間を探した。
一人見付ける事が出来て、どんな人間なのか調べた。
彼女は、男の娘とは正反対だった。
所謂、不良。
家には帰らず遊び歩き、悪い友人とつるみ、未成年でありながら酒も煙草もやっていた。
おまけに、万引き・売春、麻薬にまで手を出していた。
ピアスだらけで、タトゥーもしていた。
何故、こんな人間が生きていて、娘が殺されなければならなったのか?
男の頭を、理不尽な怒りが支配した。
どうして、こんな目にあってんのかなあ?
やっぱり、わたしが悪い子だからかなあ?
わたしが悪い子だから、お父さんもお母さんも愛してくれないんだよね?
わたしは悪い子だから、自分でいっぱいバツを与えたんだよ。
わたしは幸せになっちゃいけないんだって、ずっと思ってた。
でも、殺されるのはイヤだ。
だれか、助けてよお。
わかってるよ。
だれも助けてくれないよね。
だって、わたしは悪い子だから。
ああ。良い子に生まれたかったなあ。
そしたら、こんな目にもあわなかったよね?
「これで、娘を生き返らせてくれるんだな?」
娘と同じ年の少女の無残な死体を前に、男は悪魔に尋ねた。
『ああ。生き返らせたぞ』
「お、お父さん……?」
背後から、懐かしい声がした。