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29 金で好感が買えるなら安いもの



「——これか。皓月こうげつせん。異能は予想通りの『転移テレポート』、推定レベル8。『皓王会』の現頭目、と」


 俺が出会った長身の男は『皓王会』のボスらしい。

 元々『皓王会』は千の祖父が設立したようだが、実権を握っているのは千なのか。

 てかこれ自分の名前を看板にして王とか名乗ってんの?

 ちょっとばかり正気を疑うな。

 俺なら外に顔出せないぞ。


 数年前の顔写真と比較し、確信をもって男の情報を調べる。

 だが、『異特』のデータベースにしては不自然なまでに情報量が少ない。

 目立たずに活動してきたとも思えない。

 意図的に操作したような虫食い状態だ。


 一組織を率いているのだからマークされていてもおかしくないはず。

 厳重なセキュリティをかいくぐってハッキングする技術力があるのだろうか。

 ここは年中外部からの攻撃を受けているらしいからな。

 日本で最も異能者関連の情報が多い場所と考えれば無理もない。


 もちろん初めからこの程度の情報しかない可能性もある。

 なんにせよ無いよりはマシと思って読み込む。


「でも、直接戦闘が得意そうなタイプじゃないよな。裏で糸を引いていそうな黒幕タイプか? いや、『転移テレポート』がどこまで応用が利くかだな。体内に異物を仕込まれたら強度なんて関係なしに死ぬ」


 そもそも、『転移テレポート』の異能は世界的に見ても珍しい。

 能力の幅も数メートルから、果ては地球の裏側まで範囲内という場合もある。

 詳細不明だが、最低でも同時に三人まで転移できるのは確認した。


 これを確保するのは骨が折れそうだ。

 少なくともまともな手段では無理だろう。

 十四年前から世界指名手配されても捕まっていないのは驚愕の一言に値する。

 世界各地を転々として逃げ回っていたようで、日本に潜伏していたのも最近判明したらしい。


 だけど、『異特』にはあの人がいる。


「うーん……転移がどのくらいの頻度で使えるかにもよるけど、伽々里さんの『世界観測ラプラス』なら対応可能……ってか天敵だろ」


 問題は星の数ほど存在する未来の分岐を伽々里さんが演算できるか次第。

 意外とせっかちだからどうだろうなあ……まあ、なるようになるか。


「あとは……賢一か。知ってるようで知らないことも多いんだよな。やたらと情報統制厳しいし」


 俺の記憶にあるのは狂気の実験に手を染め、憎しみの対象となった賢一だけ。

 秘密裏に行われていた『超越者創造計画イクシード・プロジェクト』も、賢一本人の異能も詳しく知らない。

 二度と会うことはないと思っていたからだ。


 だが、それも『異特』のデータベースならば調べられるはず。

 佐藤賢一の名前で検索をかけて、該当する人物のプロフィールを開く。


「佐藤賢一、世界最高の頭脳……その一角。異能者研究の最前線で数々の論文を発表し、多大な功績を残した……か」


 ずらりと並ぶ輝かしい経歴。

 事実、賢一がまれにみる優秀な研究者なのは間違いないのだろう。

 現状『異特』を悩ませている『禁忌の果実アップル』も賢一が作成したと目されている。

 要注意人物であることに変わりない。


 そんな賢一の経歴は、一時を境に暗雲が立ち込める。


「2014年、非合法な人体実験をしていたとして逮捕。捜査の結果、主導していた『超越者創造計画イクシード・プロジェクト』が明るみとなり死刑判決が下る」


 これは俺が身をもって知っている。

 だが……一つだけ驚くべき情報が載っていた。


「異能なし《ノーマル》……マジかよ。異能者じゃなかったんだな」


 驚きながらも一通り眺め見て、もういいかと息をつく。

 画面を見続けていたせいか目が疲れたし、このくらいで切り上げてもよさそうだ。

 本格的なまとめは伽々里さんとかがやってくれているだろうし。


 他力本願とかいうな、適材適所と言ってくれ。

 絶対俺よりも精度高いし情報源も多いはずだから。


「さて、それじゃあ帰るかー」


 電源を落としたのを確認して部屋を出て、まだ仕事中の伽々里さんと夜泊さんに挨拶をしてフロアを後にする。

 まだ時刻は昼過ぎ。

 今から帰って美桜に昼食を用意してもらうのも申し訳ないし、どこかで適当に食べていくか。


 パパっと連絡を入れて歩いていると、


「——あれ? 先輩じゃないですか」


 こんな場所に出入りするのが一見適当とは思えない金髪少女——十束瑞葉と鉢合わせた。


「十束? なんでここに?」

「仕事ですよ、仕事。そういう先輩は?」

「俺はちょっとした調べものだ」

「ふーん。あ、先輩。お昼まだなら一緒にどうですか?」


 何気なく十束は俺を昼食に誘う。

 俺が年下の女の子と並んで昼食とか下手したら警察案件だぞ?

 妹の美桜ならまだしも十束との一対一はハードルが高い。

 有栖川はそれなりに慣れているというか、半ば恐怖が先行しているからあれだし。


 とはいえ、断る理由がないのも確かで。


「どうせ予定ないですよね?」

「失敬な。奇跡的にあるかもしれないだろ」

「実際は?」

「飯食って帰って寝るだけ」

「じゃあ決まりで。どこにします?」


 つい口車に乗せられて吐いてしまった。

 しかも十束の中では俺がついていくのが確定しているらしい。


 ……まあ、いいか。

 有栖川と違って精神的には楽だし。

 周囲の視線が痛いのはいつも通りだから問題ないな!


「ラーメンにするか。どっか近場で評判いいとこ」

「絶対女の子を誘っていく店じゃないですけどね。いいですけど」


 承諾も得たところでスマホで検索をかけ、見つけた徒歩五分程度の家系ラーメン店に入った。

 美少女と並んで食べるラーメンの味は普段と変わらなかった。


 ちなみに支払いは俺が全部持った。

 これくらいのサービスはしておこう。

 俺にあるものなんて『異極者ハイエンド』の肩書と大して使わない金くらいだし。


 それで美少女からの好感が買えるなら安いものさ。


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