表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/27

第8話

 父である皇帝から、その話を聞かされたのは12歳になって6ヶ月ほど経った日のことだった。


「勲章の授与式ですか?」

「そうだ。レメゲトン出身では無い兵士の中にも武功を立てている者は少なからず居る。だが、ガードナーのように城で叙勲という訳にはいかぬ」

「だから、城の外・・・軍事要塞デカラビアで授与式を行うと・・・」

「ああ。皇帝である私が直接行っても良いと思っていたのだが・・・なかなか反対意見が多い」

「そうでしょうね」


 政治は貴族の独断場。血統主義である貴族たちは、皇帝が自ら赴くことに反対するに決まっている。


「それで、お父様の代わりに私が行くと」

「ガードナーに任せても良いが、やはり皇族が行った方が華になる。行ってくれるか」

「もちろんですわ、お父様。私、貴族街より外に行くのは初めて」


 今までは公務と言っても、お茶会やパーティーといったものばかりだった。最初は城の外に出るのが珍しく、貴族街でも出られれば嬉しかった。しかし、人は慣れるもの。ちょうど私は、更に外に行ってみたくて堪らなかったところなのだ。


 サブノックが生まれていなかったら話は別だっただろう。唯一の皇帝の血筋を外に出すなんてと貴族は反対していた。しかし、サブノックという正当な後継者がいる今は、自分で言うのもなんだが、私の立場は少し軽い。だからこそ決まった公務であった。


 その日から「サミジーナの初外出公務」に向けて多くのことが動き出した。要塞はレメゲトン皇国の中にあるとはいえ、馬車で2日ほどかかる。そこまでの旅程、どこに宿泊するか、どういう警備体制を取るかなど、要塞とのやり取りが行われていたらしい。


 らしい・・・と言うのは、私は直接関わっておらず、聞いた話だからだ。私が準備していたのは・・・。


「ねぇジーナ。やっぱり、こちらのデザインにしましょう」

「お母様、私は動きやすい方が良いと思います」


 私が準備していたのは、自身の服であった。服と言ってもドレスである。母はヒラヒラでフワフワな「ザ・お姫様」なデザインばかりを薦めてくる。しかし、前世の記憶を持つ私は、動きやすさを重視したいところだった。スーツみたいな服ってないのかな?


「でも、簡素すぎると侮られてしまうわ」

「では、授与式の際は華やかに、移動の際は動きやすいものにしたいです」

「移動する時だって、貴女は注目の的なのよ」

「馬車ですよね」

「宿泊する時は降りるでしょう?」


 私と母の意見は平行線を辿っている。侍女たちは母側の意見だ。仕方ない・・・


「お母様のドレスでは、子供っぽ過ぎて逆に侮られてしまいます!私は品の良いドレスが良いです」


 必殺!私はもう子供じゃないの作戦。ここで頬を膨らませて子供っぽさを演出するのが効果的だ。


「ジーナ・・・じゃあ、こちらは?」


 効果はバツグンだ!母は先ほどよりはヒラヒラの少ないドレスを薦めてきた。折れるのは、この辺りが妥当だろう。結局、授与式用の紺色のドレス1着、移動用のドレスが行き帰りで変えることになって4着、予備に2着を作ることとなった。お針子さん、頑張ってください。


 そして、とうとう出発の日を迎えた。


 出発は早朝。皇帝である父が自らが見送りに出てきた。もちろん、母とサブノックも。


「サミジーナ、頼んだぞ」

「ジーナ、気をつけていってらっしゃい」

「お姉さま、いってらっしゃいませ」


「いってまいります」


 私は一礼して馬車に乗り込んだ。開門の号令がかかる。扉の開く音がした。馬車が動き出す。


「お姉さま!お気をつけて!!」


 手を振るサブノックに、馬車の中から手を振り返す。お互い、見えなくなるまで手を振り合っていた。


 城を出ると貴族街である。早朝にも関わらず、皇族の出立を見ようと多くの人が集まっていた。


「サミジーナ殿下だ!」

「サミジーナ殿下万歳!!」

「殿下、いってらっしゃいませ」


 私は歓声に答えるように笑顔で手を振った・・・これ、キツイです。いつまで続くのだろうと思っていたところで、貴族街の端・・・城下町の入り口に到着した様だった。


「殿下、カーテンを閉めさせていただきます」


 一緒に乗っていた侍女がカーテンを閉める。平民が皇族の顔を見るのは恐れ多いとされている。だが、皇族の馬車を一目見ようと、城下町も人で溢れているらしい。私は街の様子が見たくて仕方ないのだが・・・。


「殿下、カーテンを開けてはなりませんよ」


 古株の侍女にはお見通しだったようだ。私は大人しく前を向いた。馬車がまた進みだした。


 外からは貴族街以上の歓声が聞こえる。


「レメゲトン皇国万歳」

「スゴイ!騎士様が居る」

「カッコイイ」

「お姫様は見れないの?」

「見るのは失礼になるんだよ」


 ちなみに、護衛騎士であるイサークとミシェルは馬車の真横に騎馬で付いている。馬車の前後も多くの兵に守られている。前世で言うとこの大名行列だな。


 馬車の揺れに気分が悪くなるかと思ったが、意外と平気だ。むしろ眠くなってきた。


「お寝みになられますか」

「ええ」


 私はクッションの間で眠り出した。馬車はまだ城下町を抜けていなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ