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第5話

 12歳になると皇族は正式に皇族の一員としてお披露目される。そして、今日が私、サミジーナの12歳の誕生日当日であった。


「ジーナ、なんて美しいの・・・」

「本当にお美しい」

「夜の女神の様です」


 母の称賛に侍女たちが追随する。私は姿見に映る自分を眺めた。


 黒い絹のドレスには多くの黒真珠が品良く縫い付けられている。首元にはブラックダイヤモンドの首飾り。髪はセットされ、オニキスの髪飾りが飾られている。黒一色の姿で、赤い眼だけが色を添えていた。


 黒いドレスを身に纏う事が許されているのは、『黒翼の鷲』に連なるものだけ。黒いアクセサリーも同じだ。第一夫人である母ですら着ることの、身につけることのできない品々を、今日の私は纏っている。

 

(黒って喪服のイメージだったけど、こんなに華やかになるんだ・・・価値観が変わったわ)


 いわゆる晴れの日にしか着る事が出来ない一張羅。今日という日に黒を着られるのは、私と父だけである。次期皇帝であるにも関わらず、サブノックはまだ7歳なので着ることが出来ない。黒衣は皇族として認められた証だ。


「もうジーナも12歳なのね・・・月日が経つのは早いわ」


 紺色のドレスを着た母がハンカチで目元を押さえている。


「お母様、泣くのが早いわ。これからが式典なのよ」

「式典の後からが忙しくなるから、先に泣いておくのよ」

「もう・・・」


 社交界の華にして後宮の女主人である第一夫人は、私にとっては唯々優しい普通の母である。


(3年後のクーデターでは母も・・・)


 最近、弟だけを助けて逃げるという自分の計画に自信がなくなってきた。この人たちを見捨てて逃げて行くという自信が・・・。


「あら?流石のジーナも式典は不安?」

「そ、そんなことない」

「ふふふ。はい。最後の仕上げね」


 母が私に黒のベールを被せる。ベールは、そのレースの意匠が見事なものであった。


「では、皇帝の間で待ってるわよ。ジーナ」


 母は部屋を出て行った。部屋に残された私は窓の外を眺めていた。見えるのは広い庭と遠くにそびえ立つ高い塀。


(3年後に、この庭が荒らされる日が来るのね)


 思わず物思いに耽っていると、侍女に声をかけられた。


「サミジーナ様、皇帝の間へ」

「分かったわ」


 私は思いを押し殺し、部屋を出た。


 大きくて荘厳な装飾がほどこされた皇帝の間の扉の前に立つ。中からはざわめきが聞こえてくる。それが静かになり、大きな拍手が聞こえた。皇帝一家が壇上に上がったのだ。皇帝の言葉の後、私が入場する。


 トランペットが鳴り響く。入場の合図だ。目の前の扉が開かれる。中の人が一斉にこちらを向く「ザッ」という音が聞こえた。ベールのお陰であまり見えないが、すごい視線を感じる。視線って本当に痛かったんだ・・・。私はモーセの如く、人の波の間を抜けて皇帝の元へ進んだ。


(周りはカボチャ。ここはカボチャ畑よ。そういえば家庭菜園で作ってたミニトマトはどうなったんだろう・・・)


 緊張していた私の脳内は若干壊れていた。


 人波を抜け、なんとか父の前に到着した。私は跪いた。跪いた私のベールを父が持ち上げる。


「立て」


 父に促され立ち上がる。肩に手を添えられ、後ろを向くよう力を込められた。


 あまりの人の多さに圧倒されて声が出そうになった。


「ここに、サミジーナ・レメゲトンが皇族の一員となったことを正式に宣言する」


 ワッと皇帝の間の人々が歓声を上げた。拍手も耳が痛いくらいに鳴り響く。私は固まってしまった。


「笑えサミジーナ」


 父が耳元で囁く。その声に我に返り、にっこりと微笑んだ。


 その後は父の隣に座り、貴族たちの挨拶を受けた。顔の筋肉がつりそうになったころ、貴族の挨拶が終わった。


「来たか将軍」

「陛下、この度はサミジーナ様の皇族入りおめでとうございます」

「サミジーナ、この者はガードナー将軍だ。我が軍の最高責任者だ」

「サミジーナ様、おめでとうございます」

「ありがとうございます。将軍」


 貴族の後は軍属の人からの挨拶?まだ続くのかと内心ため息を吐いた。すると、父が心を読んだかのように言ってきた。


「ここでの挨拶は、この者が最後だ」

「そうなのですか」

「貴族の皆様の末席に加えていただけること、光栄に思います」


 将軍が深々と頭を下げる。


「よい。お前は特別だ。勲章しかやれぬ我を許せよ」

「もったいないお言葉です」

「サミジーナ。ガードナーはレメゲトン人では無いのだ」

「え?」

「はい。私の先祖はクローリー国の者です」


 クローリー国とは先々代皇帝が滅ぼした国の名前だ。


「三十余年でここまで上り詰めた男だ。まあ、貴族には嫌われているがな」

「軍を実力主義にしてくださった先代の皇帝陛下には大変感謝しております」

「その武功を祝して、この場に侍ることを許したのだ。これからも励めよ」

「かしこまりました」


 再度、深々と頭を下げた将軍は去って行った。確かに、将軍を見送る貴族たちの視線は冷たい。


「どう思う。サミジーナ」

「どう・・・とは?」

「レメゲトン人以外を重用することだ」

「私はあまり気になりませんが・・・陛下の御心のままに」

「おや、父とは呼んでくれぬのか」

「公式の場ですもの」

「ははは。立派になって・・・では、大丈夫だな」


 父の言葉の意味を知るのは、もう少し後のことであった。 

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