第4話
とうとう、今日から隠し通路の攻略を開始する。糸よし。念のために針よし。準備は万端だ。
早速、図書室に向かった。侍女には集中したいから一人にしてほしいと頼んだ。まあ、頼まなくても入って来ないのは分かっているが、これも念のためだ。
隠し通路の入り口である壁の前に立つ。唾液を指につけるのは少し恥ずかしいが、誰も見てないからセーフ。その指で壁を触り、通り抜けた。
まずは階段を降り、この間の二手に分かれるところまで行く。そこから『アリアドネの糸』作戦の開始だ。
「って、糸を結び付けるところが無い・・・」
仕方ない。糸を針に通し、しっかりと結ぶ。その針を壁のレンガの隙間に差し込んだ。
「これで、抜けないように糸を弛ませながら進んで行こう」
今日は左側に進んでみる予定だ。糸を垂らしながら慎重に進んで行く。
「あ、階段があった」
きっと、出口があるはずだ。上ってみよう。
「え?行き止まり?」
上に登りきると、正面は壁だった。
「そんなはず無いよね・・・そうだ!この壁にもDNA認証システムがあるのかな?」
唾液で濡らした指で壁を触ってみると・・・
「やっぱりそうだった!!」
壁が空けて向こう側が見えた。
「この風景は・・・外よね。中央のお庭かな?」
周囲に人は居なさそうだったので、上半身だけ出てみることにした。
「えい・・・やっぱりお庭の隅だわ」
人が寄らなそうな端っこの方みたいだった。確認したので、また壁の内側に戻る。
「とりあえず、外への通路を発見っと」
刺繍も進めとかないと怪しまれるため、今日はここまでにしよう。糸を手繰って元の場所まで戻った。
「毎日、こうやって攻略していこう。でも、何年かかるかな?」
タイムリミットまで後10年・・・。
「地図を作る?ううん。誰かに見られたらマズいよね・・・覚えるしかないか」
私は刺繍をすべくハンカチを手に取るのだった。
私は毎日、図書室へ通い隠し通路の攻略に勤しんだ。ある日は宝物庫に、ある日は皇帝の間・・・謁見する部屋に辿り着いた。そして、とうとう自分の部屋にも出入り口があることを知った。
「これからは自分の部屋を起点にしよう・・・夜中も攻略できるわね」
わざわざ図書室に通う必要はなくなった。その頃、7歳になった私は図書室の本を読みつくしていたのだった。
そして、隠し通路の中である部屋を見つけたのは8歳になってからだった。
その日の夜も、私は隠し通路の攻略を進めていた。
「あれ?壁に何か彫ってある・・・これって『黒翼の鷲』のマーク?」
『黒翼の鷲』はレメゲトン皇国の国旗にもなっている皇帝の血族の印だ。
「何か仕掛けがあるのかしら・・・?」
私はいつものように唾液を付けた指で『黒翼の鷲』に触れた。
「あ・・・」
扉が現れた。私は恐る恐る中を覗いてみた。
「寝室?」
中は小さい寝室の様だった。ベットに机に椅子・・・ワインの棚もある。机の上には、一冊の本が置いてあった。
「なんの本だろう?」
パラパラとめくってみると書いてあるのは日付と・・・。
「これ、日記だわ。誰かの日記。かなり古い。何十年、いえ、百年以上前のものだわ」
一ページ目からを読んでみよう。
「この日記を発見した我が子孫へ。我が名はバエル・レメゲトン・・・バエル・レメゲトン!?」
バエル・レメゲトンとは初代皇帝の名前だ。
「初代皇帝の日記なの!?我が子孫のために、この日記を残す。この日記は我が悪魔を召喚し、契約した日から書いたものである・・・悪魔を召喚したのって本当の話なんだ」
日記の内容は初代皇帝の悪魔との日常を記録したものだった。隠し通路を作らせるために、悪魔に酒を飲ませたとか、宝石を与えたとか・・・「先払い」が悪魔の口癖だったみたいだ。召喚した悪魔と仲が良かったんだな。他にも奥さんや部下への愚痴なんかも書いてあった。現在では、建国をした初代皇帝は神話の神のような扱いなのに、日記を読んでいると随分と人間臭い。
「最後に、再度、悪魔を召喚する方法を残す・・・『黒翼の鷲』の血を日記に垂らし、焼き払うことによって、悪魔は召喚される・・・簡単じゃん!」
簡単ではあるが、今すぐ悪魔を召喚する気は無い。召喚するとしたら、クーデター後に逃げる時かな?またまた、新しい逃げ道を発見してしまった。
「とりあえず、日記はこの部屋に置いておこう」
部屋に持って帰って誰かに見られでもしたら大事になる。私は日記を机の上に置いた。
その後も隠し通路の攻略を進めた私は、とうとう10歳の時に城の裏の森に繋がる道を発見した。クーデターが起こっても、隠し通路から城の外へ出られることが確定したのだった。
「隠し通路攻略完了!」
通路を発見してから実に5年の月日が流れていた。
そして2年後。私が12歳になったら17歳の主人公が現れる。それまでは、弟を可愛がりつつ「美しいもの好きの皇女」として暮らしていこうと思った。