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第3話

 母が用意してくれた裁縫箱は豪華なものだった。これ、宝石がついてる。多分、ダイヤモンドだ・・・イミテーションじゃない。前世では成人してもダイヤモンドなんて持ってなかったよ。子供用の裁縫箱なのに、この豪華さって・・・皇女スゴイ。

 更に色とりどりの刺繍糸も用意されていた。今日から座学の後に刺繍の授業が始まる。


 図書室通いは当分の間お休みにした。刺繍を一人でしてもおかしくない腕になったら再開し、図書室で刺繍をするフリをして、隠し通路攻略を開始する予定である。

 大丈夫。前世ではクロスステッチが趣味だったし、手先は器用だった。今世はどうだろうか・・・。


 私の心配をよそに、1週間すると基本的なことが出来るようになった。刺繍の先生にも「覚えが早い」とお褒めの言葉を貰った。今はハンカチにサブノックの名前を刺繍しているところだ。白いハンカチに紺色の糸で刺繍をほどこしていく。手元に集中していた私は、扉から人が入って来たことに気が付かなかった。


「サミジーナ、調子はどうだ」

「お父様!!」


 皇帝である父がいきなり現れてとても驚いた。この人、かなり忙しいのに・・・。


「座学に加えて刺繍まで始めたと聞いたぞ」

「はい。私はお姉さんなので。うまく刺繍が出来る様になったら、お父様にも刺繍して差し上げます」


 とりあえず、行動の理由は全て「お姉さん」でゴリ押しする予定だ。


「そうか・・・サミジーナは本当に優しく賢い子だ」

「えへへ。ありがとうございます」


 父が刺繍の教師を下がらせる。部屋には私と父だけになった。


「サミジーナに土産がある」

「お土産ですか?」

「ああ。これだ」


 父が布に包まれた何かを取り出し、私に差し出してきた。布の塊りを受け取り、開く。するとそこには・・・。


「綺麗・・・」


 布に包まれていたのは大きなエメラルドのついた首飾りだった。


「どうだ。気に入ったか」

「はい・・・。とても美しいですね。美しいものは好きです・・・だから、お父様もお母様もサブノックも大好きです」

「ははは。この私を美しいというのは、この世でお前一人だよ。サミジーナ」


 いやいや、お父様もお母様もかなりの美形ですから。特に、お父様は凛々しいという表現が実に似合う。まだ20代なんだよね。確かに、皇帝としては冷酷だけど。私にとっては優しい父だ。


「それで、この首飾りはどうなさったのですか?」

「これは、先日、我が国の属国になったアンジール国の王家に伝わる首飾りだ。勉学に励むサミジーナへの褒美だ」

「まあ、貴重なものではないですか。お母様ではなく、私が頂いて良いのですか?」

「もちろんだ」


 ふーん。アンジール国って国を滅ぼしちゃったのか。やっぱり、戦は止められないんだね・・・うん?アンジール国だって?


「お、お父様?アンジール国とおっしゃいましたか」

「ああ。それがどうした?」

「いえ・・・先日、書物でアンジール国のことを読んだ気がしただけです」

「そうか。では、私は仕事に戻る」

「あ、ありがとうございました。お父様」


 皇帝は微笑んで去って行った。私も笑みを浮かべていたが、内心は冷や汗ダラダラだった。何故なら・・・。


「アンジール国って、小説の主人公の母国じゃない・・・?」


 国が滅ぼされるのって、私が生まれてからだったのか!!でも、よく考えたらそうだよね。年の差5歳くらいだったし。


 小説の主人公はミシェル。本当の名をミカエル・アンジール。アンジール国の第二王子だった。レメゲトン皇国に国が滅ぼされた時は若干10歳。わずかな家来と共に逃げ延び、皇帝一家への復讐を心に誓う。15歳で皇国の兵士になり、どんどん武功を立て、その顔の良さから美しいもの好きの皇女の護衛騎士に抜擢されるのが17歳の時。そして、クーデターを起こすのは20歳になってからだった。


「ん?美しいもの好きの皇女って・・・もしかしなくても私!?」


 うっかりしていた。主人公が皇帝一家に近づくために城へ潜入するのは、私の護衛騎士としてだった。


「綺麗なものは好きだけど・・・そんなに好きだって周りにアピールしてないな」


 これからはもっとアピールしていくべきだろう。そうしないと、主人公が私の護衛騎士に選ばれないではないか。・・・まあ、後7年もあるし。どうにかなるだろう。


 手元に残った首飾りに目を落とす。エメラルドがキラキラと輝いている。眩しいくらいだ。


「主人公が皇帝一家を憎む理由って、国を滅ぼされた挙句に、国宝まで取り上げられたからなのでは・・・」


 そんなことを考えていた私は知らなかった。首飾りを気に入った私を、更に気に入った父が、私へ頻繁に宝石を与える様になるなんてことを。その行為から「美しいもの好きの皇女」像が出来あがっていくことを・・・。冷や汗をダラダラとかいていた私はちっとも知らなかったのである。

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