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第19話

 私はすぐにサブノックの元へ向かった。サブノックは心配そうな顔でガードナー将軍の執務室で待っていた。


「お姉さま」

「サブノック、2人で話したいことがあるの」


 ガードナー将軍が気を利かせて人払いをしてくれた。部屋には私とサブノックの2人だけ。扉も壁も厚く、外に声が漏れることは無い。


「お姉さま、話ってなんですか?」


 私はクーデター軍の使者であるガブリールとの話を端的に説明した。


「そんな提案、無視すれば良かったんだ!クーデター軍が新レメゲトン皇国を認めなくても、戦いを仕掛けて来ても、こちらが勝てる。国も城も取り戻せるのに」

「それでは城の周りが、城下町や貴族街が戦場になってしまうかもしれないでしょう」

「それは・・・」

「戦争になれば犠牲が出るわ。こちら側にもね・・・サブノック、私は貴方に言わなければならないことがあるのよ」

「この話の他に?」

「ええ」


 私は呼吸を整えた。なのに、体が震える。それでも言わなくては。今、言わないと一生後悔する。


「サブノック、私はクーデターが起こることを知っていました」

「え?」

「クーデターが起こるずっと前から知っていたのです」

「知っていたって・・・」

「ええ。そのままの意味よ。ミシェルの正体も、彼がクーデターを起こすことも知っていた」

「そんな・・・」


 前世の記憶があることは言わなかった。そのことまで話したら、本格的に頭がおかしくなったと思われるだろう。


「お姉さまは、クーデターを止めようとは思わなかったのですか?」

「思わなかったわ。ただ、家族で逃げられればと思っただけ」

「・・・生き残っているのは僕たちだけだ」

「そうね。そうなってしまった。私は両親を見殺しにしたのよ」


 自嘲するような笑いが浮かんだ。ああ、ずっと私はこの罪を誰かに告白したかったのか。


「自分勝手でしょう?」

「・・・そうですね。そして、今もそうだ。そんなこと今、僕に言ってどうしようと?」

「分からない。ただ、伝えるなら今しかないと思っただけ」

「お父さまとお母さまの代わりに許せと?」

「・・・許されたいのかもしれないわね」

「やっぱり、自分勝手じゃないか」

「ごめんなさい。まだ11歳の貴方に話すことではなかったのかも」

「本当に・・・」


 サブノックの目には涙が浮かんでいた。


「僕は許せないよ。そんなことを聞いて、許せるわけ無いじゃないか」

「そうよね」

「クーデターを知っていたのに、誰にも言わなかったお姉さまも。今、勝手に決めてクーデター軍の元に行こうとしているお姉さまも。どっちも許せない」


 いつの間にか、私も泣いていた。


「ごめんなさい。サブノック」

「許せない。許さないから」


 サブノックは涙を拭って部屋を出て行った。私は追いかけられなかった。


 2日後にガブリールは戻って来た。こちらの条件を全面的に飲む代わりに私が行くことを再び要請した。


「では、行きましょう」

「1週間後に迎えに参ります」


 用意が色々あるでしょうからと言ってガブリールは去って行ったが、用意なんてない。1年を過ごした村から着の身着のままで要塞に来たのだ。私が持っていく・・・連れて行くのはジーンくらい。


「そうだ。ジーン・・・」


 願いがまだ1個残っている。全ての願いを叶えるまでジーンは傍にいると言っていた。


「最後の願い・・・」


 私はあの時から碌に話せていないサブノックの元へ向かった。


「サブノック」

「・・・お姉さま」

「サブノックはジーンの願い事が後1つ残っていたことを覚えている?」

「うん」

「私、貴方のこれからを願おうと思うの。私が居なくなった後、貴方が無事でいられるように」

「・・・いらないよ」

「え?」

「罪滅ぼしだというならいらない。願いは、お姉さまが自分のために使いなよ」

「サブノック・・・」

「むしろ、そうするべきだ。僕は味方の中に居る。敵に囲まれに行くのは、お姉さまなんだから」

「・・・これだけは言わせて。貴方が生まれた時、絶対に貴方だけは守ると誓ったのよ」

「そう・・・」


 この後、サブノックと会話することは無かった。


 1週間後、ガブリールが立派な馬車を連れて要塞に訪れた。私は少ない荷物を預けて、自分はジーンだけ腕に抱えていた。


「ガードナー将軍。サブノックをお願いします」

「お任せください。サミジーナ様こそご自愛を」

「ありがとう」


 サブノックは見送りには来なかった。少し寂しいが、仕方のないことだと思った。 


「参りましょう」


 ガブリールに促されて馬車に乗り込む。


「サミジーナ皇女殿下、万歳」

「「「サミジーナ皇女殿下、万歳」」」


 馬車が出発した。万歳の声が段々と小さくなっていく。幼い頃、侍女に閉められた馬車のカーテンは開いている。私は旅の間中、カーテンを閉めずにいた。昔、見ることが出来なかった景色を見ながら、懐かしい城へと戻って行った。


 城下町も貴族街も静かだった。あまり人を見かけない。貴族街なんて特にそうだった。城門の前に着くと、高らかにラッパが鳴らされた。


 馬車が止まり、扉が開かれる。ガブリールのエスコートで馬車を降りる。目の前に居たのはミシェルだった。

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