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第2話

 歴史の授業に地理的な要素が加わって来た頃、私は空いた時間に城の図書室に籠るようになった。未来を変えるために、今できる事と言ったらそれくらいしか無かった。歴史や地理の本だけでなく、医学や薬草学といったあらゆるジャンルの本を乱読していた。私が図書室に籠っている間、侍女たちは外で待っている。


(まあ、5歳の子供が活字中毒みたいに本を読み漁ってたら気味が悪いよね)


 私のこの態度を皇帝である父は面白がっているようだが、母は心配しているらしい。母へのフォローを考えながら本棚の間を進む。


「あ、この本初めて見る。新しそう」


 本を手に取り、お気に入りの窓の方へと向かう。この窓の下で壁に寄りかかって本を読むのが、私のスタイルだ。


「ふーん。三代皇帝の伝記か・・・」


 とりあえずは読んでみようとページを捲っていく。その時


「痛ッ」


 指を紙で切ってしまった。薄く血がにじむ。


「やっちゃった・・・」


 血のにじむ指を口に運ぶ。指をしゃぶっている姿なんて侍女には見せられないな。


「小さい傷だけど・・・気が付かれたら面倒だし、薬を貰っとこう」


 壁に手をついて立ち上がった。


「え?」


 と思ったら体が壁の方に傾く・・・支えが無くなったからだ。そのまま倒れこむ。


「痛い・・・本日2回目・・・」


 体を起こす。


「え?ここって・・・」


 そこは図書室ではなかった。倒れこんできた方を振り向く。


「は?」


 壁が空けているように見えた。空けた先に先ほどと変わらない図書室が見える。


「どういうこと?」


 反対に目を向けると、下りの階段があった。


「もしかして・・・隠し通路だったりして」


 私は意を決して階段を降りてみることにした。


 外からの明かりが無いはずなのに、暗さで困ることが無い。天井が淡く光っている気がする。


「この世界に魔法は無かったはず・・・かと言って科学って訳でもなさそう」


 天井を見上げながら考える。


「そう言えば、このお城って初代皇帝が契約した悪魔に建てさせたって言われているんだっけ」


 本当にそうなら、この隠し通路も悪魔に作らせたものだろうか。


「あ、分かれ道だ」


 通路が二手に分かれている。


「どうしよう」


 何を隠そう、前世の私は方向音痴であった。ここまでは真っ直ぐだったから良かったものの、どちらかに曲がった後で、図書室まで帰れる自信が無い。


「・・・今日はここまでにしよう」


 私は図書室の方へ戻ることにした。


 すり抜けた壁の前に戻ってくと、相変わらず図書室が壁の向こうに見えた。壁に手を突こうとすると、やはり、そのまますり抜けた。


「本当に、どういう仕掛け何だろう」


 もう一度、壁に手を当てる・・・今度はすり抜けない。


「何か条件があるのかな?」


 さっきは何故、この仕掛けが反応したのだろう。


「あ!もしかして、血かな」


 血に反応する仕掛けとかありそうな気がする。でも、また本で指を切る訳にはいかないし・・・。


「う~ん・・・唾液でも良いのかな?」


 唾液って元は血液とか聞いたことあるし。やってみるか。


 私は指を舐めて、壁に触れてみた。


「正解だ!」


 腕が壁をすり抜けていった。 


「血というか、DNAに反応してるとか?」


 思わず壁の仕掛けを考えてしまう。ふと、仕掛けよりも大事な事に気が付いた。


「もしかして、入り口が城中にあったり、城の外に繋がってたりするのかな」


 もし、そうだとしたら・・・。


「クーデターの時の逃げ道になるんじゃ・・・」


 名案に思えた。この隠し通路を使って、クーデターが起こったら逃げる。そのためには、隠し通路を攻略せねばなるまい。


「でも私、方向音痴なんだよな」


 迷路だったら絶対に迷う自信がある。地図とかないのかな?図書室中を探してみようか。 


「そう言えば、お父様は知ってるのかしら・・・」


 知ってたら原作の小説でも使用して逃げているだろう。だから、きっと知らないはずだ。それに、クーデターは辛いけど、起こるべきだと思う。お父様に話してしまうのは、きっと原作を崩壊させる。


「明日から、図書室に地図が無いか調べてみよう」


 結果から言おう。地図は無かった。図書室の本を片っ端から捲ること1週間。全く見つからなかった。


「う~ん。自力で道を覚えるしかないのかな・・・せめて、目印があれば」


 何か迷路を攻略する方法とかなかったっけ?


「そうだ!『アリアドネの糸』だ」


 前世で読んだギリシャ神話。入り口に糸を巻き付けて、糸を垂らしながら迷宮を進む。あの方法なら、迷っても元の場所までは帰って来られる。


「まずは、糸を手に入れないと」


 侍女にいきなり「糸が欲しい」と言っても不審がられるだけだ。


「・・・そうだ!これなら一石二鳥じゃない」


 私は糸を手に入れ、最近、図書室に籠りきりの娘を心配する母親を安心させる方法を思いついたのだった。


 早速、母の元へと向かう。この時間なら弟と一緒だろう。乳母任せにしないのが、母の良いところだと思う。部屋前に着くと、侍女が扉を開けてくれた。


「お母様!私、刺繍を習いたい」

「あら、ジーナ。お勉強は良いの?」

「お勉強もする。でも、刺繍もしたいの」


 刺繍は婦人の嗜みである。5歳から習うのは早すぎるかもしれないが、今は兎に角、糸が欲しい。


「でも、ジーナにはまだ早いわよ。針も危ないし」

「大丈夫。私、お姉さんだから。ね~サブノック」


 弟の頬を突きながら言った。


「ジーナはノックが生まれてから、本当にしっかりしてきたわね・・・良いわ。先生を付けましょう。でも、本当に気を付けるのよ」

「はーい」


 やったー!糸をゲットだぜ。

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