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第15話

 この村に来て1年が過ぎた。私はいつの間にか16歳に、ノックは11歳になっていた。ノックはかなり身長が伸びた。成長期に伸び伸びと過ごせたのが良かったのだろう。


 私たちの生活は変わらない。誰かの畑や動物の世話を手伝い、庭の小さな畑を耕す。初めてトマトが取れた時は、とても嬉しかった。


「ジナが好きだ!俺と結婚して欲しい」


 私は今、自宅の居間で、いつもの様にお茶に誘ったサムから告白されていた。ちなみに、ノックはジョーと遊びに行っているため、二人っきりだった。


「サム・・・」

「ジナが村に来るまで、どんな生活してたとか、そんなことは気にしない。村に来てからのジナは働き者だし、優しいし・・・親父やお袋も賛成してくれた」

「おじさんとおばさんも・・・」

「ずっと、この村で一緒に暮らさないか?」


 私は嬉しかった。けど・・・。


「少し、考えさせて。ノックとも相談したいから」

「・・・分かった」


 サムは帰って行った。夕方になってノックが帰って来たので、サムに告白されたと話した。


「本当!サムが兄さんになるんだ!!」

「まだ、結婚するって決めてないわよ」

「結婚すれば良いじゃないか。サムが嫌い?」

「良い人だと思うわよ・・・でも」

「でも?」


 私は膝の上のジーンに聞いた。


「ジーン。私とサムが結婚して、子供が生まれたら、その子の髪と目は?」

『黒い髪に赤い眼である確率は100パーセント』

「やっぱり・・・」

「それのどこに問題があるのさ?」

「忘れたのノック。黒髪に赤眼は皇族の証なのよ」

「・・・でも、この村の人は知らないよ」

「そうね。けど、将来・・・私たちの子孫はずっとこの村に居るかしら?町に出たいって思うかも。その時、この髪と眼の色の意味を知らなくて、周りが知っていたら・・・殺されてしまうかもしれないわ」

「そんな・・・」

「この髪と眼は私たちで終わらせないと」


 コンコン


「こんな時間に誰かしら?」

「きっとサムだよ!返事が待ちきれなくなったんだ」


 ノックに促されて玄関に向かう。


「はい」

「こんばんは」


 外に立っていたのは、見たことのない男、つまり村の人間ではなかった。


「どなた?」

「少しお話したいことがあります。中に入れて頂けますか?皇女サミジーナ様」


 背筋が凍るとはこのことを言うのか。


「どうしたの?姉さん」

「ノック・・・奥に行ってて」


 少なくとも、いきなり襲ってくることは無さそうだと判断した。いざとなればジーンに『願え』ば良い。私は来訪者を招き入れた。


「綺麗にされてますね。今まで家事をしたことのない人とは思えない」

「・・・村の人が良くしてくれます」

「そうですか。本当に田舎で驚きました。ああ、私はウリックと言います」

「私に・・・私たちに何の御用でしょうか」

「そうですね。早速、本題に入らせていただきます。貴女方は今、多くの勢力に狙われています」

「多くの勢力?」

「そう。まず最初に、貴女方は城で幽閉されていることになっています」


 そうだったのか。


「しかし、城に居ないことは調べればわかる。そこで動いているのは皇国再建派。レメゲトン皇国の旧貴族で構成されています。彼らは貴女方を旗頭に皇国を復活させようとしています」


 確かに、お父様が殺された今、貴族たちが考えるのは自分たちの利権を取り戻すことだろう。


「次にミカエル王・・・ミシェルを筆頭としたクーデター軍の穏健派。とりあえずは、貴女方を保護しようと動いています。次にクーデター軍の過激派。皇族や貴族は全員殺せという奴らですね」


 なんと、クーデター軍は一枚岩ではないのか・・・。


「最後にガードナー将軍が中心となった属国派」

「ガードナー将軍・・・」

「彼らは貴女方を保護し、レメゲトン皇国から独立した国を作りたいようですね」

 

 外の世界では、そんな動きがあったのか。驚きもするが、納得もした。


「ウリックさんは」

「ウリックで結構ですよ」

「では、ウリック。貴方はどうして此処が分かったの?」

「ある男が情報を持ってきたんですよ。その男は、この村出身の娘に聞いたとか言ってたかな」


 やっぱり、村に籠っていても情報は漏れてしまうのか・・・。


「次に、貴方はどこの派閥なの?」

「そうですね・・・強いて言えば穏健派かな?」

「強いて言えば?」

「私は属国派の諜報員でしてね。ですが、穏健派に貴女を渡した方が、国が平和になりそうなんですよ」

「・・・諜報員がそんなにベラベラと話すものかしら?」

「これは手厳しい。ですが、私は正真正銘の諜報員ですよ。そして知りたがり屋です。どうやって、貴女方がこの村に逃げたのか、その方法が知りたい」


 ウリックが身を乗り出す。


「教えていただけるなら、貴女方が望む派閥にお連れしますよ」

「・・・黙って帰って欲しいのだけど」

「それは出来ません。私は嘘が付けない性格なので、この村に居ることを誰かに話してしまいます」

「諜報員なのに?」

「矛盾してますねぇ。ですが、どこかの派閥には報告するでしょう。そうしなければ、皇国・・・元皇国は崩壊するばかりですから」

「・・・どういうこと?」

「そのままの意味です。今、皇国は崩壊寸前ですよ」


 この後、私は外の世界に余りにも疎い自分を知ることになる。

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