閑話2
私はリリー。とっても田舎にある村に住んでいる。村人たちは全員が知り合い。村の中で起きたことで知らないことは無い。そんな村に住む唯一の若い娘だった・・・1ヶ月前までは。
1ヶ月前、村に旅をしているという姉弟が流れてきた。二人は珍しい髪と目の色の所為で、ずっと旅をしてきたという。二人は布で髪を覆っていたが、目は隠せない。同情した村の人たちが話し合って、空き家に住むことを勧めて、姉弟は村の一員となった。
二人は村の注目の的となった。弟のノックは、村で一番チビだったジョーよりチビの10歳で、村人皆から可愛がられている。そして、姉のジナ。彼女は刺繍が得意で、沢山の色の刺繍糸を持っていた。食べ物を貰う代わりに、村の女たちの無地のハンカチに刺繍をして喜ばれていた。今じゃ、村で一番刺繍が上手いとまで言われている。
ジナは誰かの農家を手伝ったり、家の庭の小さな畑を育てたりして生活をしている。この間、ウチにも手伝いに来た。その時見たジナの手は、畑仕事を知らない手だった。
村にいる若者は私とサムとジョーだけだったのに。同じ年くらいの子が増えて良かったわね。なんて言われる。そりゃ、最初は良かった。町の流行りでも教えてもらおうと思ってた。ケド、ジナってそういうことに疎かったらしい。
何が腹が立つってサムの態度だ。ジナにデレデレしちゃって、恥ずかしいったらありゃしない。おばさんのお使いとか言って、毎日ジナの家に行っている。
・・・私は、なんとなく将来はサムと結婚して、畑を耕し、動物たちの世話をしていくもんだと思ってた。でも、ジナが来たことによって、その将来像は崩れてしまった。どう見たって、サムはジナのことが好きだ。
私の考えは両親に筒抜けだったらしい。ある日。町に行って働いてみるかと聞かれた。私は頷いた。
私は2~3ヶ月に1度だけ来る行商人と一緒に町へ行くことになった。村の人たちが送別会を開いてくれたが、嬉しくない。私は逃げるのだ。ジナとノックは居なかった。二人は行商人が村に居る間は家に籠っているためだ。
「なんで町に働きに行くんだ?」
サムに聞かれた。
「私はこんな田舎の村で終わる人間じゃないってことよ」
強がって答えた。翌日、私は生まれて初めて村の外に出た。
一番近くの村まで歩いて5日かかった。私は町のパン屋で住み込みで働くことになった。
3ヶ月後、そのパン屋の息子が隣町に支店を出すための従業員として、一緒に行くことになった。隣町は、徒歩で3日ほどかかるところにあり、今の町よりも大きな町だった。
その隣町で働いている所をスカウトされて別の町へ、更に別の町へと移っていくうちに、旧首都・・・戦争に負ける前のこの国の首都に行きついた。村を出て1年が経っていた。
その町である噂を聞いたのは、新しい仕事に慣れ始めた頃だった。
「黒い髪に赤い眼の子供を探してる?」
「そう。情報だけでもかなり貰えるらしいよ」
「貰えるって、何を?」
「馬鹿ね。お金に決まってるじゃない」
私の頭にはジナとノックの姿が浮かんだ。
「なんで、その子供は探されてんの?」
「知らない。そんなの探してる側に聞かないと分かんない」
私は二人を探しているという人物に会ってみることにした。その人物が居るのは、町でも大きな宿だという。私はその豪華な宿に恐る恐る入った。
「あの・・・」
「何でしょうか?」
「人を探している方が居ると聞いて・・・」
「はい。あの方です」
ロビーの片隅にある椅子に男が座っていた。私は宿の人間に礼を言い、男に近づいた。
「あの」
「何かな・・・お嬢さん」
「人を・・・黒い髪と赤い眼の人を探してるって聞いて」
「ああ。その話か・・・お嬢さんも賞金目当てかい?」
「賞金?」
「違うのかい。賞金欲しさに眉唾な情報を持ってくる奴が多くて困っていたんだ」
男は溜息を吐いた。
「私は・・・ちょっと聞きたくて」
「何をだい?」
「どうして、その2人を探しているのかって・・・」
「!!」
男が目を見開いた。
「お嬢さん。知っているんだね!」
「え?」
「私は『2人』とは言ってないんだよ」
「あ・・・」
確かに、噂は『子供を探してる』という話だけだった。
「何処に?何処にいらっしゃるんだい?」
「あの・・・理由を聞いていいですか」
「ああ・・・そのお子さん方は、とある高貴な方の血筋でね。跡取りながら居なくなってしまって、みんなが探しているんだよ」
なんだ。旅をしているって、実家から逃げてるってことだったんだ。
「賞金も渡そう。場所を教えてくれるかい?」
「えっと、私の故郷の村で、場所は・・・」
私は男の持っている地図に印をつけた。
「こんな場所に村があったなんて・・・」
「地図に載っていない村なんです」
「そうか・・・お嬢さん。お礼に食事でもどうだい?賞金とは別だ」
私はその宿屋の男の部屋、恐らく宿屋で一番良い部屋で、生まれて初めてルームサービスで食事をした。
「美味しいかい?」
「はい。とっても」
「それは良かった。ワインは如何かな?」
「いただきます」
赤ワインなんて初めてだった。私は一口飲み込んだ。
ガタン
「お嬢さん。本当にありがとう。でも、あの方々のことを知っている人間は少ない方が良いんだ。お礼に、ほとんど苦しみが無い物を用意したんだよ」
男の声だけが部屋に残った。




