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第14話

「ノック!どこへ行くの?」

「川だよ!ジョーが釣りを教えてくれるんだ」

「片づけは?」

「もう終わった!行ってきます!!」


 ノックが家を出て行く。私は腰に手をつき溜息を吐く。


「仕方のない子」

『普通の男の子との遜色なし』


 ノック・・・サブノックが出て行った後の家には私と黒い猫だけが残っていた。


 話は1ヶ月前・・・森の中で逃げている時に遡る。


(このままじゃ逃げきれない?森を抜けて?その後は?)


 疲れで思考が固まらない。グッと腕が重くなる。サブノックが躓いたのだ。とにかく、休まなければと思い立ち止まった。サブノックを木に寄り掛ける。私も隣に座った。空を見上げると星が見えた。もう夜だった。


(そうだ荷物の中に何かなかったかしら?)


 私は荷物を開けた。髪を隠すためのフードが2枚。換金しようと思ってきた少しの宝石類。小型のナイフにマッチに・・・。


(あ・・・)


 底に入っていたのは初代皇帝の日記だった。


(確か、最後の方のページに・・・あった)


 思った通り、最後の方に悪魔の召喚について書かれていた。


(嘘かもしれないけど、今は頼るしかない)


 私はナイフで指の先を傷つけ、血を日記に付けた。そして、マッチに火をつける。


「お姉さま?」

「・・・」


 火を日記につける。どんどん火が大きくなる。その火の色が、真っ赤に・・・私たちの瞳のような赤に変わった。


『レメゲトンの血を認証。名を・・・』


 火から声がした。サブノックが私にしがみつく。私はかすれた声で名乗った。


「サミジーナ・レメゲトン」

『サミジーナ・・・バエル・レメゲトンの子孫と確認』


 火が人の形になる。消えていく。


『現世への顕現終了』


 目の前に黒衣の女性が現れた。


「女性・・・?」

『否。悪魔に性別は存在しない。サミジーナ・レメゲトン。バエル・レメゲトンとの契約により、汝の願いを3つ叶えよう』

「え?」

『バエル・レメゲトンとの契約。私を召喚した子孫の願いを3つ叶えること。バエル・レメゲトンから対価は得ている』

「あ、先払い・・・」

『その通り。願いを言え』


 私は頭を回転させる。逃げるために必要なことは・・・。


「私と弟の髪と目の色を変えて欲しい」

『否。不可能』

「どうして!?」

『黒い髪と赤い眼は悪魔との契約の印。バエル・レメゲトンが契約者のまま死んだ今、変えることができるのは神のみである』

「そんな・・・」


 この髪と目の色さえ変えてしまえば逃げられると思ったのに・・・。


「じゃあ、この黒い髪と赤い眼が皇族の印だと知っている人が居ない所へ連れて行って」

『了承』


 その瞬間、私はある丘の上に立っていた。


「サブノック!?サブノックは?」

『もう一人を連れてくることは2つ目の願いになる』

「それでも良いわ。連れてきて」

『了承』


 すぐ隣にサブノックが現れた。


「お姉さま!」

「サブノック!」


 私たちは抱き合った。それが、この村に来た最初の日のことである。


 本当にこの村の人々は皇族の証を知らなかった。というのも、この村はレメゲトン皇国の属国ではあるが、かなりの田舎なのだ。レメゲトン皇国の名すら知っているか危うい。地図にも載せ忘れられた村だと、村人たちが笑っていた。


 私とサブノックは、すぐに受け入れられた。珍しい髪と目の色の所為で旅をしていたと言ったら、村の空き家に住めば良いと勧めてくれた。私たちは『ジナ』と『ノック』と名乗った。


 村は自給自足で完結している。村の外からは、行商人が2~3ヶ月に1回来る程度だった。村の外の話は、この行商人が持ってくる。しかし、1ヶ月経ってもクーデターの話は無かった。


「ジーン。膝の上からどいて頂戴」

『否。眠るのに最適』


 黒猫の正体は召喚した悪魔である。まだ願い事が1つ残っているからと一緒に住んでいる。ちなみに、ジーンと名付けたのは初代皇帝とのことだった。


「ねえ、ジーン。私があの時、『私と弟を移動させて』って言ってたら、願いは1つで済んだ?」

『否。願いは人間1人に対して1つの割合』

「そっか・・・」


 最後の1つは慎重に使わないと・・・そう思っていたら、家の扉がノックされた。


「はい」

「よ!」


 外に立っていたのは、農家のサム・・・ノックが一緒に遊びに行ったジョーの兄だった。


「これ、母ちゃんが持ってけって」

「わあ卵。いつも、ありがとう」

「良いって。母ちゃん、刺繍して貰ったハンカチを宝物みたいにしてるぜ。毎日、眺めてんの」

「そんなに上手くないわ」

「村で一番上手いよ」

「褒めてもお茶しか出ないわよ」

「いただきまーす」


 サムを家に上げて、お茶の用意をする。


「ノックたら、すっかりジョーに懐いちゃって」

「ジョーも自分より年下のヤツが出来て嬉しいみたいだよ。今まで、あいつが一番下だったからさ」

「魚、釣れるかしら?」

「今から献立を考えときな。1匹も釣れないってことはないさ」


 村の人たちは優しい。その優しさに、あの日の記憶が・・・まだ鮮明に思い出せるけど、受けた心の傷が少しずつ癒されていくだろう。私も、もちろんサブノックも。そう思った。

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