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閑話

 父と母と兄が、住んでいた城が燃えた日のことは絶対に忘れないだろう。でも・・・。


 いつか復讐を果たすためにミカエル・アンジールという名とアンジール国の第二王子であるという立場を捨てた。俺はミシェル・グリーと名を変え、レメゲトン皇国の兵士となった。


 敗戦国出身の兵士が付くのは国境兵という任。その名の通り国境で隣国との間に立つ。ただ立ってるだけなら良かった。隣国に逃げた残存兵が向かってくることもあった。だから、俺はそいつらを、アンジール国の兵士だった奴らを殺した。それが手柄になった。


 俺に一世一代のチャンスが訪れたのは17歳の時だった。なんと、将軍が国境を訪れ、俺を皇女の護衛騎士へと大抜擢したのだ。城へ入り込めるチャンスだった。俺は拝命した。


「レメゲトン人であろうが無かろうが、皇国に忠誠を誓うものならば構いません。ミシェルとやら、私を守る栄誉を与えるわ」


 屈辱的な言葉だった。誰が忠誠なぞ誓うものか。今なら、皇帝と皇女を殺せるかもしれない。だが、それは俺が望む復讐ではない。奪ってやるんだ。何もかもを・・・。俺から奪った分を全て!


 俺は復讐のための仲間を集めたかった。だが、城で働いているのはレメゲトン人ばかり。すぐ外に広がるのはレメゲトン人の貴族街。城下町まで出れば何とかなるかもしれないが、焦ってはいけない。そう思えたのは護衛騎士になって6ヶ月ほど経った頃であった。


 皇女が軍事要塞デカラビアへ行くことになった。俺も護衛騎士として一緒に向かう。軍事要塞の中を見られるのは後々役に立つかもしれない。そんな思いもあった。


 事件が起きたのは授与式の最中だった。勲章を皇女が次々と手渡していく。その者の動きに気づいたのは、俺とガードナー将軍だけだった。


 俺は咄嗟に皇女を自分の方に引き寄せた。と、同時に将軍が犯人を取り押さえるのが見えた。皇女は何が起こったのかも分からないようだった。俺は将軍の指示で皇女を外に連れて行った。


 城に戻った後に聞かされたのが、今回の授与式は反乱分子を炙り出すためのパフォーマンスだったということ。俺はゾッとした。もし、すでに仲間を集めていたら、俺も今回の事件で捕まっていたかもしれない。だが、それよりもゾッとしたのは、実の娘すら敵陣の中に放り込む皇帝の冷酷さに対してだった。


 数日後、俺は皇女に呼ばれた。改めて礼を言われた。


「私の気が済まないの。貴方、何か望むことはある?私ができることなら叶えましょう」


 俺は少し躊躇いながらも、アンジール国の王家に伝わっていた宝飾品を見せて欲しいと頼むことにした。


「これかしら?」


 皇女が侍女に持って来させた箱の蓋を開ける。中には大きなエメラルドが付いた首飾りが納められていた。


「・・・これがアンジール国の王家に伝わっていたという首飾りですか」

「そうよ。ミシェルは見たことが無かったのかしら」

「私のような平民は見たことがございません」


 嘘だった。幼い頃、何かの式典で母が付けていたことをおぼろげに覚えていた。その緑の輝きを忘れることは無かった。


「それを、付けてみてくださいませんか?」

「私が、この首飾りを付ければ良いの?」


 何故、皇女にそんなことを頼んだのだろう。ただ、その姿を見ることで復讐心を高めようとしたのかもしれない。


「私、眼が赤いからエメラルドは似合わないでしょう」

(私、眼が青いからエメラルドは似合わないでしょう)


 母が見えた気がした。そうだ。母の目は俺と同じで青かった。そんなことはない。似合っていると俺は言った。


「いえ、お美しいです」

「あら。ミシェルもお世辞が言えたのね」

(ミカエルもお世辞が言えるようになったのね)


 母と重なる皇女の姿に、憎しみと・・・懐かしさを覚えた。


 その日から、俺は皇女の傍に居ることが多くなった。皇女は些細なことでも話しかけてきた。城下町には行ったことがあるのか?街の様子は?街の人々は?

 皇女の質問に答えるためという理由を付けて、俺は城下町や更に外へと行けるようになった。そこで仲間を集め始めた。


 俺の答えに喜ぶ皇女に対して胸が痛み始めたのは、いつ頃からだったか。


 皇女は俺の答えを聞いた後、切なそうに窓の外を見やる。城壁の更に先を想像しているのだろうか。噂で聞いていた『多大な浪費家の美しいもの好きの皇女』では無いということは、初めの頃から心のどこかで分かっていた。


 皇女にドレスを与えるのは第一夫人である母親。宝石を与えるのは皇帝である父親。受け取った皇女の瞳は揺らいでいた。近くに居なければ分からなかったことだ。


(俺は近づきすぎた・・・)


 近づきすぎて、皇女に情が湧いてしまった。そんな自分を否定できないでいる。


 ある日、密かに会っている仲間たちに言われた。


「クーデターの暁には、ミカエルが王になれ。皇帝一家は、民衆の前で処刑しよう」


 その言葉に頭が一瞬、真っ白になった。処刑する?皇女も?次の瞬間、自然と言葉が出ていた。


「・・・皇女は殺さずに、俺が妻に迎える」

「なに!?正気か」

「ああ。レメゲトン皇国の血筋のものと結婚すれば、クーデター後の反乱も抑えられるだろう」 


 そうだ。皇女を妻に迎えれば万事解決するのではないか。そして、本心を聞いてみるのだ。貴女は、国を憂いていたのかと・・・。


 そして、クーデター当日。俺は皇帝の間で皇女を除く皇帝一家と対峙していた。すると、入り口の方が騒がしくなり、仲間が駆け込んできた。


「大変だ!皇女に逃げられた」

「何だと!?いったいどうやって・・・」

「分からない!皇女を捕まえに行った奴らの言ってることがイマイチ・・・」


 仲間に詰め寄るが、明確な答えが返ってこなかった。その時。


「お父様!こちらに!!」


 皇帝一家の後ろから皇女の声が聞こえた。とっさに振り返るが、皇帝が邪魔で姿が見えない。


「お早く!」

「行け!」


 皇帝が俺の前に立ちはだかる。


「逃がすな!」


 剣を抜いて振りかぶる。皇帝の剣にはじかれる。他の仲間が皇帝を避ける様に回り込むが、皇女と皇子は消えてしまった。


「どこへ行った!?」

「さあな。私は知らぬ」

「とぼけるな!!」

「とぼけてなどいない。この城に隠し通路があることなど、私は知らなかった」

「何!?」

「サミジーナだけが知っていたようだな・・・私にまで隠しているとは、あの子は本当に賢い子だ」


 一旦身を引き、周囲の仲間に叫ぶ。


「探せ!皇女と皇子を探すんだ!!」

「無駄だ。あの子は賢く、強い。必ず逃げ切るだろう」


 何故か、その言葉にカッとなった。俺の剣は皇帝の胸を貫いていた。口から血を流す皇帝。叫ぶ貴族たち。駆け寄る第一夫人。


「ミカエル・・・皇帝は公開処刑する予定だったろう」

「すまない」

「仕方がない。首を落として、民衆にさらそう」


 仲間が第一夫人を力づくでどかす。俺は皇帝の首を落とした。


 城のバルコニーに上がる。首を掲げた。


 ワアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!


 仲間たちからは歓声。貴族たちからは悲鳴が上がったが、俺の耳には入ってなかった。


(・・・サミジーナ)


 必ず見つける。絶対に逃がさない。たとえ地の果てに逃げたとしても、必ずこの手に。

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― 新着の感想 ―
[一言]  さて、共通の敵がいなくなったら後は内紛だわなw  吸収された時期が違えば扱いも違うわけで、前線で戦って占領地の管理を勝ち取った者たちからすれば『マジふざけるな!』な状況。  クーデター起こ…
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