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第12話

 12歳の時ほどではないが、誕生日には盛大なパーティーが開かれる。貴族街に住んでいる貴族のほとんどが出席するパーティーだ。


「殿下、おめでとうございます」

「ありがとう」


 お祝いの言葉が軽く聞こえてしまうのが申し訳ない。でも、祝われ続ければ誰でもそうなると思うの。


「殿下。お誕生日おめでとうございます」


 次はよくお茶会で会う伯爵夫人からの挨拶だった。


「ありがとう」

「殿下も、もう15歳でいらっしゃいますか・・・気になる殿方はいらっしゃらないのですか?」


 流石、社交界一の噂好き。情報収集に余念がない。周りの貴族たちからも興味津々といった視線を送られる。


「おりませんわ」

「そうなのですか?」

「まあ、今度当家のパーティーで息子たちを紹介させてくださいませ」

「当家のパーティーでも」


 今度は自分の息子を売り込もうとするご婦人たちに囲まれた。


「ありがとう。でも、そういうことは皇帝陛下にお任せしようと思っているわ」


 暗に、皇帝陛下が決めた相手に嫁ぐと伝えた。が、ご婦人方の熱意はすごい。


「勿体ないですわ。殿下」

「そうですわ。皇帝陛下とベリス様は恋愛結婚でいらっしゃいますよ」


 実はそうなのである。父と母は幼いころからパーティーなどで会い、愛を育んできたそうだ。幼い頃からクーデターを起こされる未来を知っていた私は、結婚相手なんて考えたことも無かった。


 一瞬、ミシェルの顔が頭を過ぎった。


 ミシェルとは、この3年で大分打ち解けたような気がしてる。気がしてるのは私だけかもしれないが・・・。でも、あの能面の様な表情から感情を少し読み取れるようになったし。雰囲気も少しは柔らかくなった気がするし・・・。


 そんなことより、今はご婦人方の包囲網を突破しなくては。私は笑顔で断りの理由を考え続けたのだった。


 ディナーは家族そろって食べるのが、誰かの誕生日の日の恒例だった。父も皇帝の仕事がどんなに忙しくても都合をつけてくれる。恐ろしい皇帝の顔と優しい父親の顔。両方が父の本質なのだと分かってきた。


「ジーナは気になる殿方はいないのかしら?」


 今度は母からの質問だった。


「おりませんわ。パーティーでも、男性とはあまり話しませんし」

「私が貴方の年の頃には、陛下との結婚は決まっていたのよ」

「そうなのですか」


 それは初耳だった。


「お姉さま、お嫁に行ってしまわれるのですか?」


 悲しそうにサブノックが言う。


「まだまだ先の話よ。サブノック」

「先だなんて・・・ジーナ、貴女も婚約者がいてもおかしくない年齢なのよ」

「お、お父様はどうお考えなのですか?」

「私が決めてしまっても良いのか?サミジーナ」

「お父様は皇帝陛下ですもの。お父様のお決めになったことに従いますわ」

「お前は聞き分けが良すぎるな。サミジーナ」


 父も母も笑っている。サブノックも楽しそうだった。この家族をどうやったら生かせるのか。その答えはまだ見つかっていなかった。


 パーティーもディナーも終わり、自室へと戻った時だった。部屋の扉を開けた侍女が何かを見つけた。


「あら?」

「どうかした?」

「机の上に花が・・・」


 侍女が危険が無いか調べている。一輪の花に危険も何も無いと思うが、毒の花の可能性もある。


「危険は無いようですが・・・如何なさいます?」

「なんの花かしら?」

「これはダリアですね」

 

 侍女に見せられたのは黄色いダリアだった。


「殿下の部屋に入れるものは限られております。誰が置いたか、お調べしますか?」

「調べなくても良いわ。誰かからの誕生日のお祝いね。飾ってちょうだい」

「かしこまりました」


 なんとなく、送り主はミシェルだと思った。イサークなら正面から渡してくるだろう・・・というより、しっかり渡された。イサークはこの3年で少し砕けてきた感じだ。


(そういえば、黄色いダリアの花言葉ってなんだっけ?)


 確か、黄色いダリアの花言葉は『栄華』『優美』・・・それから


(『裏切り』・・・)


 深読みのし過ぎだろうか。でも『裏切り』が正しい気がした。ミシェルからのメッセージ。


(クーデターの決行の時が近いのかしら)


 寝る前に隠し通路をもう一度おさらいしておこう。逃げる日のために。そう思った。


 そして日々は何事もなく過ぎ去っていった。嵐の前の静けさとでも言うのだろうか。


 私はその日、思い切ってミシェルとイサークに頼んだ。


「今度のお茶会の帰りに城下町を見てみたいの」

「城下町ですか?」

「ええ。入らなくても良いから。少しだけ」

「・・・分かりました。馬車の中からですよ」

「ありがとう」


 最後になるかもしれない。国の様子を少しでも記憶に残しておきたかった。


 そして、お茶会の帰りに遠回りをし、城下町の入り口付近で馬車を止めて貰った。


「殿下、どうして城下町を?」


 聞いてきたのはミシェルだった。


「見たかったの。ただ、見たかったのよ。みんなの幸せな様子を」

「城下町の民は幸せでしょうね」

「・・・それは、城下町より遠くの、遠くの方は幸せではないということ?」

「・・・」


 それが、ミシェルとの最後の平和的な会話になった。

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