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第11話

 私の生活は以前のような、お茶会やパーティーへの出席に戻った。城に戻ればサブノックとチェスをしたり、母とドレスの相談をする日々、つまり日常に戻った。


 しかし、私の心には常に一抹の不安があった。このお茶会の意味は?このパーティーには何かあるのかしら?心の片隅に引っかかってしまう。


 特に変わったのが眠る時だった。一人、ベッドに入って目を瞑っていると、あの暗殺されかけた時のことを思い出す。

 そんな私の不安を解決したのが『隠し通路』だった。私は枕と毛布を引きずって、隠し通路に入る。そこで寝るのだ。隠し通路はDNA認証システムがある。皇帝も知らない。私以外は決して入って来れないのだ。私が安眠できるのはココだけだった。もちろん、朝になるとベッドに戻る。


 変わったのはイサークもだった。軍事要塞での授与式の時、動けたのはミシェル。イサークは全く反応できなかったそうだ。私を守れなかったことを非常に悔いており、なんとミシェルに教えを乞うているという。


(最近、イサークがミシェルのことを名前で呼ぶようになったのは、そういうことか・・・)


 侍女の噂話は侮れないな・・・その時、ふと思った。


(私、ミシェルにお礼も何も言ってない)


 今更だが、ミシェルに何か言おう。そう思い、外に待機しているであろうミシェルを自室に招き入れた。


「何か御用でしょうか」

「先日の件、お礼も言ってなかったと思ってね。私を助けてくれてありがとう」

「・・・職務です。殿下が礼を言われる必要などございません」

「私の気が済まないの。貴方、何か望むことはある?私ができることなら叶えましょう」


 ミシェルは少し躊躇った後に言った。


「では・・・アンジール国の王家に伝わっていたという宝飾品をお見せいただけないでしょうか」

「アンジール国?ミシェルはアンジール国の出身だったの?」(知ってるけど)

「はい」

「宝飾品・・・首飾りのことかしら」

「何かを殿下がお持ちだと聞いたことがございます」

「恐らく、何年か前にお父様から頂いた首飾りのことね」


 私は控えていた侍女に首飾りを持ってくるように命じた。豪華な箱が運ばれてきて、机の上に置かれた。


「これかしら?」


 私は箱の蓋を開けて、ミシェルが見えるように持ち上げる。箱の中では大きなエメラルドが輝いていた。


「・・・これがアンジール国の王家に伝わっていたという首飾りですか」

「そうよ。ミシェルは見たことが無かったのかしら」

「私のような平民は見たことがございません」

(嘘・・・)


 きっと、この首飾りはミシェルの母である王妃が付けていたこともあるのだろう。その姿を見ることは、もう叶わない。ならば、せめて思い出の品だけでも・・・そんな思いがあるのだろうか。


「欲しければあげるわよ」

「・・・自分は男です。使い道もありませんし」

「そう?」


 母親の形見なら手元に置いておきたいでしょうに・・・。でも、ここで受け取ったら怪しまれるのも確かだ。


「それを、付けてみてくださいませんか?」

「私が、この首飾りを付ければ良いの?」

「はい」


 侍女に手伝って貰い、首飾りを付ける。エメラルドがずっしりと重い。


「こうかしら」


 ミシェルが私を見つめる。その瞳に一瞬過ぎった暗さを私は見逃さなかった。


「私、眼が赤いからエメラルドは似合わないでしょう」

「いえ、お美しいです」

「あら。ミシェルもお世辞が言えたのね。これで満足かしら?」

「はい。ありがとうございました」


 ミシェルの瞳に宿ったのは、まごうこと無き『憎しみ』だった。


 私はその憎しみに、何故か安心感を覚えた。ミシェルはきっと、クーデターの時まで私の命を決して侵させないだろう。必ず、守るだろう。復讐の日のために・・・。


 それから私はミシェルを傍に置くようになった。憎まれているのは分かっている。でも、ミシェルはそれを表に出さない。

 私は些細な話題をミシェルに振った。城下町には行ったことがあるのか?街の様子は?街の人々は?ミシェルは淡々と答えてくれた。それが何故だか嬉しかった。


 授与式以後、私に大きな事件は降りかかって来なかった。あんな大仕掛けは、なかなか出来ないのだろう。私は貴族街の外には出ることなく、15歳を迎えることになった。


(15歳・・・ミシェルがクーデターを起こすのは、この1年の間だ)


 私は逃げるための用意を隠し通路に揃えていた。きっと、いや、必ず起こるであろうクーデターに備えて。


「お姉さま。お誕生日おめでとうございます!」


 その日、最初に祝ってくれたのは10歳になったサブノックだった。


「ありがとう。サブノック」

「これ、プレゼントです」

「まあ、ありがとう。開けても良いかしら?」

「もちろんです」


 プレゼントの中身は銀製のブローチだった。


「お姉さまに悪いものが近寄らないように選びました」

「ありがとう」


 無邪気な笑顔に胸が痛くなった。今日くらいは良いよね。私はサブノックを抱きしめた。


「お、お姉さま。恥ずかしいです・・・」

「ふふ。あまりに嬉しくて」


 私も、サブノックの誕生日には銀製品を送ろうと思った。この子に災いが降りかかりませんように・・・と。

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