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春の嵐と恋の風【80】

本日、最終回になります。

最後の最後まで見直し不足の為、誤字脱字、おかしな点があると思いますが、申し訳ありません。

そのうち、機会があれば見直して手を入れられればな…と思います。


 「それでは、ケーキの入刀です!」



チャァーンチャカチャーン♪


音楽と共にカヤノとシルヴァスが大きなウエディングケーキにリボンの飾りのついたナイフを入れた。


二人で一緒にケーキを切るという共同作業の瞬間、『カシャカシャ』とスマホやらカメラやらのシャッターを切る音があちこちで聞こえてくる。


すぐに大きな拍手が聞こえて来て、新郎新婦はそのままの姿勢をキープし、向けられたレンズの先の相手に微笑みを向ける。

神力の回復したカヤノとシルヴァスは、新居に移転して落ち着いた頃に、結婚披露宴を行っていた。



 統括センターへの婚姻届けは、精霊界で挙げた結婚式の翌日、書類にサインをして『念の為、医者で診てもらおう』とシルヴァスに言われ、診察の順番待ちをしている間にセンターの所定カウンターまで提出しに行ってもらった。

人間用の戸籍には、統括センターへ登録すれば自動的に伴侶として記載される。


丁度、診察が終わる頃、精霊界・現人神社会ともに正式に認められた旦那様となったシルヴァスが迎えに来てくれる。


そして、帰りに『お祝い』だと素敵なレストランの個室で今、思い出しても赤面するような甘い時間を過ごした。


その後、しばらくはホテル暮らしが続いたが、都会の高層ホテルの部屋では、口では言えないようなめくるめく非日常の世界と体験が待っていた…。


すっかり、シルヴァスと溶け合うように知らない世界を体験して、大人の階段を昇ったカヤノは今日に至っている。



 度重なる祝福の声に幾度もむけられるカメラのレンズ、全てのスピーチはカヤノとシルヴァスに向けられる賞賛や温かい言葉。


学生時代のクラスメートの余興。


冥界からは、フォルテナ伯爵とハルさん、仮ボディを使ってレイナちゃんが来てくれた。

それから恩師として、サルマン先生やオグマ先生、学園長先生までもが出席してくれた。

更に同じクラスでも、私のような問題のある生徒や特に優秀な生徒の他の普通に問題のない子達を主に担当していたので、あまり接点が薄かった副担任先生まで!


まさか学園長先生やこの副担任先生まで、シルヴァスが招待してくれるとは思っていなかったのでカヤノは驚いた。


また、シルヴァスの友人達の多い事!


披露宴会場はかなり立派で賑やかなものとなった。



「本当に私の知り合いも皆、呼んでくれたんだね。新郎側の出席者もこんなにたくさん!多くの人に祝ってもらえて嬉しい。豪華で素敵な披露宴を開いてくれて、本当にありがとね、シルヴァス。」



カヤノはケーキ入刀が終わり席について、式場スタッフがたった今、切られたケーキを配ってくれている間に、隣に座るシルヴァスにそっと感謝の気持ちを伝えた。


人間界、精霊界ともに公認の夫婦となった瞬間から、彼には色々…スゴイ事をされてきたような気もするが、カヤノはとても幸せだった。


少々な無茶や『本当にこれが他の夫婦の間でも行われているのか?』という疑問の残る行為も大小あるが…シルヴァス以外の男性に恋をした事もなければ、関係やお付き合いがあったわけではないカヤノには、それを確かめる事はできないし、夫がそう言うのなら、そうなのだろうと素直に納得するしかない。

他を知らなければ、比べようもないので、普段の生活では砂糖を溶かしたように甘やかしてくれる夫に不満はなかった。


それにシルヴァスは、いつもカヤノが喜ぶ事を考えてくれる。

今日の披露宴だって、全てカヤノのやりたい事は叶えてくれた。

会場も部屋もドレスも音楽も料理も花の種類まで!

全てをカヤノと一緒に考えて、付き合ってくれたのに、どれもカヤノのやりたい事や好みを優先して親身に考え、やりたいようにやらせてくれたのだ。


式場スタッフの女性も、打ち合わせで訪れる度に『優しい旦那様ですねぇ』と感心していた。

他人が見てもわかるくらい、シルヴァスは基本、紳士的で王子様のような振舞いでカヤノをエスコートし、接してくれる。

打ち合わせの際も穏やかで優しくて、どんなに面倒くさい事があろうと嫌な顔、一つしないで関心を示してくれた。



「なかなかこんな優しい方はいませんよ。お嬢様は、素敵な方を見付けられましたね!普通は、意見の違いでもめる事も多いのですよ。大変大事にされているのがわかります。」



と、スタッフの女性はカヤノにこっそり教えてくれた。

婚姻を結んでからのシルヴァスは、今までよりも更に過保護になった。

どこへ行くにも付いて来て、本当にナイトのように振舞うし、一々、色っぽくて甘い態度を示してくる。



いや、そうだ…この人、本当に精霊様で騎士だった。

本当に、本物のナイトなんだよね…。

普段、公務員みたいな仕事もしてて、スーツで出勤とかしてるから実感が薄いけど。



カヤノは未だ、自分とシルヴァスが結ばれた事に対して、信じられない時がある。



「まさか…私なんかが精霊の騎士様のお嫁さんになれるなんて思わなかったもの。」



自己評価の低いカヤノは小声で呟いた。



「ん?何?カヤノは…まだそんな事言ってるの?仕様がないなぁ。じゃあ、またちゃんと僕のお嫁さんだって思えるように、今夜もたっぷりと仲良くしようね。」



カヤノの独り言を聞き逃さない耳の良い精霊様は、慌てる様子の妻にニィッと笑みを見せて囁いた。



「えっ⁉そう言うつもりで言ったんじゃ…。」



『あ、これ…ヤバイ顔だ』と披露宴の最中だというのに、新婦は目を線にして、たらりと汗を流す。



「ねえ、カヤノ…この後は念願の新婚旅行だよ?フフ、うってつけだね。今晩はオールで明日は昼も夜もずうっと一緒にいて…仲良くしようね。」



籍を入れて以来…シルヴァスの『仲良くしよう』には、非常に体力が必要だと言う事をカヤノは学習した。



「シルヴァス…目が明るい緑色に光ってるし、瞳の奥が笑ってないんだけど。」



とても、言葉通りの意味には取れない獰猛さの混じる視線だった。

カヤノは確かに身の危険を感じるのだが…夫をまじまじと見ると、そう言いながらも、どうしても最後には溜息が出てしまう。

本日のシルヴァスは、新郎の衣装で真っ白なタキシードを着ているが、どこからどう見ても美形(イケメン)以外の何者でもなく…人間姿も精霊バージョンとは違った良さがある。


つまり『似合っていてカッコイイ!』…の一言に尽きた。


『こんなにカッコイイ人が自分の旦那さんでもいいの⁈』とすら、地味な自分は思ってしまう。


たった今、不穏に聞こえる発言と獰猛とも言える瞳の奥の光を見たというのに…カヤノは、夫に視線を向ける度に見惚れてしまうのだ。


全く、もって…呆れられる所だが、『自分も大概、彼にヤラレてしまっているんだな』…と言う溜息が本日、何度も後を絶たないのだ。


今日はタキシードで通すシルヴァスに対し、カヤノは披露宴の前半は、精霊界でシルヴァスが作ってくれたウェディングドレスを着ていたが、先程途中でお色直しだと言って、白をベースに七色に輝くオーロラの生地でできた全然違うタイプの短めのドレスに着替えていた。

スカートの部分は、先の尖った花びらのように何枚もの生地が重なったデザインで妖精の服を模している。


既にシルヴァスの妻でいる自分には、純白のウエディングドレスよりもこのドレスの方が、デザイン的にも裾丈も合っていると思う。


それにオーロラカラーは何となくシルヴァスの六枚の羽の色を連想させるのだ。

既にシルヴァスの色に染まり始めているカヤノには、殊更こちらのドレスが気に入った。

新婚旅行にもこのドレスを着たまま旅立つ予定だ。



式場を後にしたら、さすがにどこかで着替えるのではあるのだけどね…。



ちなみにこのドレスもシルヴァスが追加で精霊界の例のデザイナーに作らせた物だった。

今回は、生地からカヤノが全て選ばせてもらっている。

シルヴァスは、



「もう一着作るかい?何なら和装も…。」



と言い出したので慌てて首を振って断った。

本当に甘い旦那様にカヤノは毎回、度肝を抜かれて困る。

いくらお金には苦労していないとはいえ、精霊界で人気のデザイナーに頼むなど、恐らく、かなり贅沢に違いないのだ。

通貨は人間界と同じではないかもしれないが、精霊には精霊のルールがあるし、ただで作ってくれるわけがない。

何らかの代償をシルヴァスが支払っているのは明らかである。

人間で…しかも庶民感覚のカヤノには、その代償を考えるだけで腰が引けてくる。


『お金にしたら一体どれくらいなんだろう?』と。


シルヴァスは、カヤノが関わると、全く惜しげなく浪費をしてしまう。


正直、これから長い間、共に時間を歩んでいくのだから、妻としては何でもかんでも無駄遣いはして欲しいとは思えない。

少しは気を引き締めて、財布のヒモも絞めて頂きたいと思う…思うだのが…。


こうした経緯を思い出す度に、カヤノは『自分は愛されている』と実感して顔が緩んでしまうのだ。

そして、フワフワと嬉しい気持ちになってしまう。

勿論、シルヴァスにきつい事など言えない。

この話を誰かにすれば、これが惚気というモノなのだろうと思い至り、自分自身に苦笑するしかない。

だから、緩んだ笑み苦笑との交互な百面相がこの所、多くなってしまった。

シルヴァスもよく百面相をしているので、夫婦そろって表情が忙しい。


シルヴァスの愛に応える事が怖いなどと…何で今まで考えて来たのか思い出せないと、カヤノは少し前の自分に疑問すら感じる。

今なら、招待客のハルリンドの方がシルヴァスに似合っているなどと思いはしないし、彼が彼女にまだ心があるとなどと考える事もできない。

つい先日、久しぶりの戦闘服で並ぶフォルテナ伯爵夫妻の姿が、とてもお似合いだと思ったばかりだし、毎日シルヴァスに溺愛されていては心配になる筈もないのだ。

カヤノは、体を重ねて得られる安心感もあるのだと言う事を知った。


そういえば、今日のドレスに合わせて付いている小さな青い花の髪飾りはハルリンドからの借り物だ。

主張のない薄い水色なので、ウエディングドレスにも今のオーロラ色のドレスにでも映える。


カヤノにとって、お姉さんのような彼女が自らシルヴァスと披露宴を行うと告げた時に、貸してくれたのだ。

ハルリンドは、この髪飾りは幸運を呼ぶ物だと教えてくれた。

事実、この髪飾りをつけてからは幸せしか感じていないなとカヤノは思った。


そんなハルリンドは、少し前からカヤノとシルヴァスがこういう関係になればいいなと思っていたと、披露宴の最初の時に傍に来て教えてくれた。



「大好きなカヤノちゃんとシルヴァスさんが結ばれるなんて嬉しいわ!私、シルヴァスさんはカヤノちゃんが好きだとずっと思っていたのよ?本人はあまり意識してなかったみたいだけど…。」



と、明るい笑顔を向けて来るお姉さんのハルリンドに対し、カヤノは顔を赤くして俯いてしまった。



ハルさんは自分達をそんな風に見ていたのか。

一時はシルヴァスの思い人だというハルさんに、大きな声では言えないが、複雑な思いを抱いてしまった事もあったのだが…。



「何でアスター様とこんなに仲の良いハルさんがシルヴァスとお似合いだなんて思ってたのかしら?二人の間には誰も入り込む余地なんてないのに。きっと嫉妬から、世界が歪んで見えていたのね。」



今日、披露宴に参加してくれたフォルテナ伯爵夫妻の仲睦まじさを高砂席から見守っているだけで、今更ながらにカヤノは自分の愚かさを痛感する。

自分は悪い魔法がかかったように、心の歪みから目に映るもの全てを歪ませて見ていたのかもしれない。


この数か月の間、デトックスでも出したように、色々な事件があった事で次々と過去の自分の中の暗い記憶が浄化されていくように解消されて行った。

完全に全てが解決したとは言えないが、うっそうとしていた心の中のモヤが晴れたように、かなり心が軽くなって、世界は今までとは違ってカヤノの目に映っていた。

世界中が優しく見えるのだ。



 ウエディングケーキを食べ終わり、最後にシルヴァスから出席してくれたお客様に挨拶をして、司会者が披露宴の終わりを告げた後…。


二人は出口の扉付近に並んで立ち、出席者全員を見送りながら、今日、参加してくれた事に感謝の言葉を述べた。



「全ての温かい祝福をくれた皆さん、ありがとう!そして、自分が幸せを感じるのと同じように、全ての人が幸せでいますように!!」



カヤノは心から、そう願った。



ハルさんとアスター様は帰り際も涙目で散々、『幸せになるのよ!』『幸せになれよ!』と同時に声を掛け続けてくれた。

何て言うか…シンクロ感がさすが夫婦だった。

そう鬼気迫る程親身に言われると、自分が今まで可哀想な子だったように聞こえ、他の出席者の前で居たたまれないが…二人の真剣さが伝わって来ると、それに対してもくすぐったい。


特にアスター様は何度も『シルヴァスを宜しく頼む』とカヤノの両手を握って、さめざめと親友についてを熱く語り始めた。

正直、長すぎるので『どれだけ、親友思いなんですか?』とツッコミたいが…。


カヤノが男性恐怖症が快方に向かってきた事で、近付いても極度に怯えられていないという事がわかったアスター様は、この時とばっかりにカヤノにシルヴァスについてを語ろうとやっきになっているらしい。



「コイツの事でカヤノ君に教えてやりたかった話や知らないだろう事が無数にあったんだが…今までは、酷く怯えられていたから、君に言いたい事が溜まりまくっていたんだ!」



アスター様の弾丸トークの大方の内容は、シルヴァスの事もあるが、すぐに怯えてしまう私と長年しゃべりたかったのにも拘わらず、怯えられてしまうので、遠慮してしゃべれなかったというモノだった。


それは申し訳ないなと苦笑しつつも、しばらく精霊様の取扱説明書を読み上げるべくアスター様の会話に耳を傾ける羽目となった。

 


カヤノはついでにと思い、冥界に出没した化け物であるマッド・チルドレンがあの後、どうなったのか聞いて見たのだが…何となく、はぐらかされてしまった。


ハルさんもその辺は知らないようで、アスター様はなぜか、視線を宙に泳がせているので、カヤノはしつこく聞くのはやめておいた。

一瞬、隣りにいるシルヴァスの空気感も変わったような気がしたが…それは気のせいだろう。


後には、帰りの挨拶を待つ招待客の長い列がアスターの後ろに並んでおり、シルヴァスとカヤノはその後も周りが見えないのか会話を続けようとする伯爵様に引きつらせた笑顔を浮かべるしかなかったが、3分程しゃべり続けた夫に横にいたハルリンドが注意して、ようやく解放されると、挨拶に並ぶ列が再び動き始めた。



『やはり、アスター様にはハルさんが必要だ!うん。』


心の中で改めて頷くカヤノと


『アスターの奴、カヤノに僕の悪口ばかり…今度覚えてろよ』


と不穏な声を口の中からくぐもらせるシルヴァスは、終始次の招待客への挨拶の間中、顔だけは笑顔を張り付けていた。



帰りの挨拶では、シルヴァスの職場の人も紹介されながら、今日来てもらった事に感謝を述べたが、そのうちの一人で相棒だというクシティガルヴァスさんはカヤノに言った。



「いや、仲良くくっついて良かったよ。カヤノちゃん、俺、シルヴァスと同僚だけど、いつも振り回されて大変だったんだ。特に君の事を思い煩っている時なんて…すごいお世話しましたぁ。」



慌てて、頭を下げるカヤノ。



「そ、それは…夫がいつもご迷惑をお掛けしてごめんなさい。」



咄嗟に出たカヤノの()と言う言葉に、シルヴァスは下唇を噛みしめジーンと感激の色をわかりやすく浮かべた。

クシティガルヴァスの方は、持っていた自分のハンカチを噛みつつ、悔しさに悶えている。



「うう…夫とか、俺も誰かに言われてみたい!クソッ!シルヴァス…新妻、ズルイ…。」



口の中でモゴモゴ言っているクシティガルヴァスの声は、ハッキリ聞こえなかった為、カヤノは小さく首を傾げた。

それを見たクシティガルヴァスは、また反応を示した。



「ああ!小首を傾げる所が可愛い!カヤノちゃん、コイツ、俺が君を紹介してって言ったら、腹を殴ったんだぜ。酷いだろうぉ?だが、養い子がこんなにカワイイとか…シルヴァスの奴、隠してやがったのか…許せねー。」



チラリとカヤノがシルヴァスの顔を見ると、シルヴァスは当然と言うように頷いている。



「フン、当たり前だろ?独身のクーガに僕のカヤノを会わせられるか。狙われでもしたら、面倒だからね。でも、もう、カヤノは完全に僕のだから…そんな心配はないね。」



そう言うと、シルヴァスがまたあの甘い笑顔と視線でカヤノを見詰めて来る。



「うげっ!あちゃ~。」



と、クシティガルヴァスは声を上げて、片手で両目を隠してから、最後にカヤノとシルヴァスに挨拶をしてイソイソとその場を立ち去って行った。

だらしない顔のシルヴァスを、これ以上、見たくないと言った風だ。


シルヴァスの職場がらみの知り合いの中で、あの元・上司の男も来てくれていたので、カヤノは驚いたが…何が驚いたって、最後に会った時から随分、時間が経つのにその男が未だ包帯でグルグル状態だった事に驚いた。


カヤノの言いたい事が相手にわかったのだろう。

包帯男は『完治しても、君の隣にいる男にまた…』と言いかけて、ギクリとシルヴァスの顔を見詰め、その先の言葉を噤み、祝福めいた言葉だけ慌てて言うと、やや急ぎ気味に小走りで消えて行く。

会場の外には、いつぞや見た付き添いの男性が待っていたようで、彼に手を貸してやっていたのが見えた。


それから、サルマン先生やオグマ先生がカヤノに祝福を言い、シルヴァスに何か釘を刺すように耳打ちして去って行った。


最後の招待客が去ってから、カヤノは式場スタッフにお礼を言って荷物を取り、呼んであった車に二人で乗り込んだ。


これから、新婚旅行に向かうのだ!



車は真っ白でお洒落なクラッシクカーで、現在の技術では再現不可能な味のある質感ボディのカーブが美しく、この日の為の特別仕様車なのだとわかった。


エスコートしてくれるシルヴァスが後部座席のドアを開けてくれて、カヤノが乗るのを確認すると、反対側のドアからシルヴァスが優雅に乗り込む。


カヤノがふと運転席の方を見ると、そこに座っていたドライバーは、いつぞやの小旅行先でも世話になったタクシー運転手で、彼は片目を瞑って言った。



「毎度、ごひいきにしてもらってます。お嬢さん、おめでとう。また、会えて嬉しいよ。」



そう言ってから、運転手はおもむろにエンジンをかけて、車を発車させる。

担当してくれた式場スタッフが総出で玄関先まで見送ってくれて、先に会場を退出した筈の招待客もそこにずらりと並んでおり、カヤノ達の車が発車するのを見守りながら、全員で拍手をしてくれる。


車がスピードをあげると、一気に見送ってくれた面々が小さくなって行った。


すぐにフワリと浮遊感を感じて、飛び出した車体が本当に空に浮いているのだと悟る。


ビュンと空に浮いた車が皆の前で消えた。


瞬間移動した白い車が、次に現れたのは、既に雲の上だ。


カヤノは『わあっ!』と歓声を上げた。


ニヤリと笑う運転手が声を掛ける。



「お嬢さん、つかまってて下さいよ?よーし、目的地まで飛ばすぞ!」



運転手は次の瞬間、アクセルを全開に踏んだ。

空の上の車がマフラーから火を噴いて、ビューンと前に進むと、車体はガクリと揺れて、後ろに体が転がるような形になった。

懐かしい揺れに驚くと同時に、細身なのにしっかりとしたシルヴァスの両腕がカヤノを支えた。



「キャアアァァッ⁉」



相変わらず、カヤノの声が口から漏れたの瞬間に、抱きついて来た妻を膝に乗せて、シルヴァスは楽しそうに笑った。


運転手はバックミラーでその様子を見ながら、口角を上げる。



「新婚さんにはサービスしますよ?」



と運転手の男がシルヴァスに向かって意味深な発言をすると、シルヴァスは満足げに頷いて言った。



「次も君を指名するよ…フフ。相変わらず、商売上手だね。」


「ありがとうございますぅ。」



車の揺れに慣れるまで、何も言葉を発せそうにないカヤノは、必死でシルヴァスの体にしがみついている。

シルヴァスは、そんなカヤノに破顔してその頭に口付けを落した。


運転手はもう、前しか見ていなかった…。



 これから、カヤノは精霊の甘すぎる檻の中で、永遠に幸せ以外の感情とは縁のない生活を送るのだ。


そして、精霊の新しい恋物語はフィナーレを迎え、大和皇国でも語り継がれて行く。


妖精界からシルヴァスの支配下にある風の小妖精達は祝福の歌を歌っていた。

 


全ての花嫁&未来の花嫁と元・花嫁に祝福を!

女の子はいつまでもお姫様だから!

 長らくお付き合い下さり、ありがとうございました。

ようやっと最終回にこぎつけました。

番外的に、次は先生達のその後の会話を投稿する予定ですが、一応、今日で完結表示をさせて頂きます。


当初、このストーリーはスピンオフの為、そんなに長くなる予定ではなかったのですが、シルヴァスは、どうもアスターに対して負けず嫌いなようで…勝手に作者の頭の中でストーリーとは違った筋書きで動き回り、今日に至ってしまいました。本当に暴れん坊です。

結局、アスターがヒーローだった『引き取られた先は冥土でした』と大して変わらないくらい長い話になってしまったように思います。

読んで下さった方も振り回したように思います。

改めて、ごめんなさい。


そして、最後まで読んで下さって本当にありがとうございました!

評価他、感想、ブクマなど頂ければ、次回の作品制作の意欲に繋がりますので、プチッと押して頂ければ幸いです。

勿論、アクセス頂いだだけでも嬉しいです。

また、何らかの作品でご縁がございましたら、遊びに来ていただければありがたく存じます。


それでは、未熟者の作者…この辺で失礼致します。

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